海面上昇、止まらない森林火災、観測史上最も暑い夏……気候変動を伝えるニュースに触れるたび、自分たちの将来が少しずつ蝕まれていくような不安や、あまりに巨大な問題に対する無力感を覚えたことはないだろうか。これは「気候不安」とも呼ばれ、世界各地で問題になっている。
未来を生きる時間がより長い若者たちにとって、その感覚はさらに切実だ。「欧州グリーン首都賞2021」も受賞しているフィンランドのラハティ市は、そんな声にならない不安にこそ、未来を動かす原石が眠っていると考えた。知識を教え込むのではなく、一人ひとりの心に寄り添い、その感情を行動へと昇華させる「気候メンター」という取り組みが始まった。
2023年秋、ラハティ市の高校で始まったこの取り組みは、従来の環境教育のように「何をすべきか」を一方的に教えるものではない。むしろ、「あなたはどうしたい?」という対話からすべてが始まる。
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生徒たちの伴走者となるのは、国際的な舞台でも活躍する若き気候専門家たち。彼らは教師ではない、「メンター」として生徒の隣に座る。そして、生徒自身のスキルや興味、将来の夢が、いかに気候変動へのアクションと結びつくかを探求する手助けをする。誰もが生物学者になる必要はない。ビジネスからアート、テクノロジーから政策立案まで、変化を起こす方法は無数にあるからだ。
コースに参加したある生徒は、「このコースは気候変動に対する新しい視点をくれた。特に、どんな職業であっても、それが自分の仕事といかに強く結びつく可能性があるかということに気づかされた」
と語ったという(※)。
ラハティ市の環境ディレクター、ヨハンナ・サーキヤルヴィ氏は、若者たちと対話し、彼らがどう行動を起こせるかを語り合うことの重要性を語る。この取り組みは、単なる環境教育のアップデートではない。それは、不安や無力感に蓋をするのではなく、それらを希望のエネルギーへと転換する、教育の新しい哲学なのだ。今後、この思想を組み込んだ新しい環境教育が市のカリキュラム全体に導入されるという。
ラハティ市の試みは、私たちに問いかける。未来への不安を抱く世代の肩に重荷を載せるのではなく、その手を取り、共に歩むことこそが、持続可能な世界を築くための一歩になるのだと。
※ Lahden kaupunki Instagram
【参照記事】Climate Mentor helps young people discover their own way to drive change
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