ショッピングモールに行く理由が、少しずつ変わってきている。
欲しいものを買うために訪れる場所──かつて商業施設は、そんな「買い物の場」として街のにぎわいをつくってきた。新しい服、流行の雑貨、最新の家電。人々は商品を求めて施設を訪れ、その消費がまちの賑わいをつくっていた。
けれど今、買い物のかたちは少し変わり始めている。スマートフォンがあれば、欲しいものの多くはオンラインで手に入るようになった。経済産業省の調査によれば、2023年の物販系分野のBtoC-EC市場規模は14兆円を超え、拡大を続けている(※)。そうした時代に、私たちはなぜわざわざショッピングモールへ足を運ぶのだろうか。巨大な商業施設という「場所」は、これからどんな役割を担っていくのだろう。
そんな問いに、一つのヒントを投げかける未来ビジョンが公開された。株式会社ジェイアール東日本企画(jeki)の研究プロジェクト「未来の商業施設ラボ」が発表したのは、商業施設の新たな役割として、「『ものづくりによるウェルビーイング』が生まれる地域共創拠点」というコンセプトである。
同ラボは、生活者の関心が「消費」から「生産活動」へ移行していく可能性に注目してきた。有識者との対談や、モノづくり・小商いの実践者へのデプスインタビュー、ラボメンバーによるワークショップなどを通じ、これからの商業施設のあり方を探っている。
DIYやアップサイクルで、都市農業など、生活者自身が何かをつくる活動は世界的に広がりつつある。テクノロジーの進展によって、生活者が生産にも関わる「プロシューマー(生産消費者)」的な価値観も広がる中、同ビジョンは商業施設の新しい社会的役割を提案するものとなっている。

Image via 株式会社ジェイアール東日本企画
「売る」ための場所から、「価値を回す」場所へ
jekiが公開したビジョンで印象的なのは、商業施設を単なる「小売の集合体」ではなく、生活者、地域、企業が共創し、価値が循環するプラットフォームとして捉え直している点である。
従来の商業施設は、大量生産された商品を効率的に販売する「ワンストップショッピング」のハブとして機能してきた。しかし同プロジェクトでは、自分・地域・社会の3つの視点から、以下のような「ものづくりによるウェルビーイング」が提唱されている。
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1. 個人のウェルビーイング:モノの創作による「自己表現」
単なる消費者の立場に留まらず、自分だけのモノづくりを通して、自身のアイデンティティや創造性を表現する。
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2. 地域のウェルビーイング:小商いによる「地域交流・共創」
消費の現場では得られなかった「小商い」を通した地域での出会いや交流、作り手同士の共創が生まれる。
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3. 社会のウェルビーイング:アップサイクルによる「社会貢献」
大量生産・消費・廃棄が限界を迎える中、廃棄物に新しい価値を与えるアップサイクルなどのモノづくりを通して、社会をより良くする実感を得る。

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この構想は、商業施設を「モノを売る場所」から、価値が循環する実験の場(ラボ)へと転換する試みでもある。
ここで注目したいのは、この構想がサーキュラーエコノミー(循環経済)の都市実装としても読み解ける点だ。
jekiによるハーチ株式会社CEO・加藤佑へのインタビューでは、循環型経済において生活者は単なる消費者ではなく、使い終わった製品を資源として社会に戻す「価値の発生起点」の一部を担う存在になると指摘されている。
この視点から見ると、商業施設は商品を販売する場所だけでなく、生活者に分散した資源を集める地域の循環ハブとしての役割も担いうる。衣料回収やリペア、アップサイクル、シェアリングといった取り組みが組み込まれれば、都市の中に循環経済のインフラを埋め込むことにもつながるだろう。
消費の場から、関係が生まれる場所へ
jekiのビジョンが興味深いのは、「ものづくりによるウェルビーイング」を個人の創造性の話だけにとどめていない点である。そこでは、商業施設が地域と連携しながら、生活者の生産活動を支える地域共創拠点になることが構想されている。
ラボが行ったデプスインタビューでは、モノづくりや小商いに関わる人々の中に、「つくること」以上に「誰かと関わること」に魅力を感じている人も多いことがわかったという。マーケットやワークショップを通して、普段の生活では出会わない人と交流が生まれる。モノづくりは、地域の新しい関係性を生み出すきっかけにもなっているのだ。
こうした知見を踏まえ、jekiは商業施設のあり方を見直すために、顧客・場・人の捉え方を転換する必要があると整理している。
顧客は、受動的に商品を購入する消費者ではなく、主体的に価値を生み出す存在へ。場は、ただ商品が並ぶ場所ではなく、「ものづくり」へ自然に導く舞台へ。そして人は、関わりのない匿名の他者ではなく、共創のパートナーへと変わっていく。
つまり、未来の商業施設は単なる買い物の場ではなく、生活者が何かを始めるきっかけをつくり、人と人とのつながりを生み出す場として機能していく可能性があるのだ。

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商業施設の「公共性」を問い直す
こうした変化をもう少し引いた視点から見てみると、浮かび上がってくるのは、商業施設の「公共性」という問いである。
都市において、人々が自然に集まり、時間を過ごせる場所は決して多くない。公園、図書館、広場──そして現代では、ショッピングモールもまた、人々が日常の中で滞在する重要な都市空間になっている。
もし商業施設が、単なる消費の装置ではなく、学び、創作し、出会い、価値を循環させる場所へと変わっていくとしたらどうだろう。それは、公園や図書館のように、人々が自然と集まり関係を育む都市のコモンズ(共有資源)に近い役割を持つ可能性もある。
そこでは、買うことだけが目的ではない。作る。直す。学ぶ。交換する。誰かと出会う。そうした小さな行為が重なり合いながら、都市の新しい文化や関係性が生まれていくのだ。
「消費の場」としての価値が揺らぐ中、商業施設はこれからどのような役割を担っていくのだろうか。jekiが描く未来図は、その問いに対する一つのヒントを示している。
※ 令和5年度電子商取引に関する市場調査の結果を取りまとめました(経済産業省)
【参照サイト】〈未来の商業施設ラボ〉ウェブサイト
【参照サイト】未来の商業施設は「消費」から「生活者の“生産活動”」に寄り添う場へ 「ものづくりによるウェルビーイング」が生まれる地域共創拠点(プレスリリース)
【参照サイト】未来の商業施設は「ものづくりによるウェルビーイング」が生まれる地域共創拠点に






