ペルーのテレビ局・Latinaが、自社から「60秒」を盗んだ。
彼らの“手口”は、TVで放送するコンテンツを、人間の目や耳ではほとんど気づかない0.7%高速化して放送するというもの。例えば、本編45分+広告15分の番組において、本編を0.7%高速化すると本編の放送時間は約44分になる。このようにして、自社の放送枠の中に、本来存在しないはずの「空白の1分間」を確保したのだ。
彼らはなぜこんなことをしたのだろう。それは、この「盗んだ時間」をペルーがん基金に提供し、30秒CMを2本、視聴率の高いプライムタイムに放映できるようにするためであった。
TVの世界では、「時間」そのものが極めて価値の高い資源となる。特に視聴率の高いプライムタイムの広告枠は、莫大な予算を持つ企業広告で埋め尽くされることが多い。数十秒の枠を確保するために、大きな広告費が動くことも珍しくない。
その一方で、商品宣伝や利益追求ではなく社会的な課題の解決や啓発を目的とする公益広告(公共広告)は多くの場合、深夜や早朝など視聴率の低い時間帯に回されがちだ。研究によれば、テレビの公益広告の約3割が深夜1時から5時の時間帯に放送されていたという分析もある(※)。重要なメッセージほど、人々の目に触れにくい場所に置かれてしまうという構造が存在しているのだ。
この取り組みの核心は、既存の広告枠を削って誰かが損をするのではなく、早送りによって「新しい時間」を創り出した点にある。
コンテンツの質を維持したまま、放送局の収益源である既存の広告枠も守り、同時に社会課題へのスポットライトも当てる。限られた資源を奪い合うのではなく、アイデアによってほんの少し広げる。そんなふうに、たった0.7%の工夫が生み出した60秒は、メディアが持つ公共性の新しい可能性を示しているのだ。
※ Analysis of Public Service Announcements on National Television, 2001–2006
【参照サイト】Latina – Prime Time 0.7%
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