「森と川が何を意味するか、私たちは知っている」アマゾンとともに生きる先住民族が戦う理由

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「何を失うと、自分でなくなってしまうのか」自分を自分たらしめている根源を、私たちはどれほど自覚しているだろうか。

アマゾンの森で500年以上続く先住民族の闘いは、その答えを鮮烈に突きつける。2026年、ブラジルの首都ブラジリアには多くの先住民族が集まり声を上げ、さらにアマゾンの現場では、開発をめぐる対立が国家の決定を揺るがす出来事も起きた。

ブラジルで4月は、先住民族の権利や文化をめぐる議論や抗議活動が各地で行われる「先住民族の4月」とされる。その象徴とも言えるのが、2026年に22回目を迎えた「Acampamento Terra Livre(“自由な大地”)」だ。全国200以上のグループから約7,000人の先住民族が首都ブラジリアに集結。彼らが声を上げたのは、土地の権利の侵害に対する抗議であり、採掘や大規模農業の拡大による森の破壊への抵抗、そして先住民族の権利を弱めかねない法制度への反対だった。

本記事では、10年にわたりアマゾンの人々と関わりながら活動してきた筆者の視点から、彼らが「最後の砦」を守り続ける理由、そしてその揺るぎなき誇りの正体に迫る。

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政策を覆した33日間の封鎖と、500年の抵抗

彼らの声は、「また抗議か」と受け止められてきた側面もある。だが、その積み重ねは、現実を動かす力となっている。

「自由な大地」を掲げ、ブラジリアに集まった先住民族の人々。写真: Rafa Neddermeyer/Agência Brasil

2026年2月、タパジョス川流域の先住民族を中心に約2,000人が、パラー州サンタレンに拠点を置く米企業・Cargillの輸出ターミナルを33日間封鎖した。

抗議の対象となったのは、タパジョス川などの水路管理を民間委託の対象に含め、浚渫や航行管理を進める大統領令だった。先住民族側は、こうした計画が大豆やトウモロコシの輸出拡大を後押しし、川の水質や漁業、地域の生態系に影響を及ぼすと訴えた(※)。先住民族にとって川は、単なる輸送路ではなく、生活と文化を支える存在である。その川をめぐる決定は、十分な事前協議のないまま進められていた。

撤去命令にも応じずに要求を貫いた結果、政府は大統領令の撤回に追い込まれた。先住民族の主張が政策を覆した、歴史的な出来事だった。

16世紀初頭、ポルトガル人の到来以来、先住民族の闘いは500年以上続いている。消滅の危機に追い込まれた歴史を越えてなお、彼らは土地と生き方を守るため、闘い続けてきた。封鎖を率いたリーダーの一人であるAlessandra Korap Munduruku氏はAP通信の取材でこう語っている。

「彼らは私たちを犯罪者扱いしようとするかもしれない。でも私たちは川が自分たちにとって何を意味するか知っている。森が私たちの民族にとって何を意味するか知っている」

ムンドゥルク族のリーダーであり、2023年にはゴールドマン環境賞も受賞した Alessandra Korap Munduruku 写真: Tânia Rêgo/Agência Brasil

「知っている」ことの強さ

筆者は10年にわたりアマゾンで仕事をしてきた。現在は環境NGOコンサベーション・インターナショナルにも関わり、カヤポ民族の人々と森を守る活動を行なっている。Alessandraの言葉を聞いたとき、カヤポの人々の顔が浮かんだ。

彼らが暮らすのは、ブラジルで最も森林破壊が進み、国内でもっとも違法採掘の被害を受けている地域の一つだ。周囲には植生が削り取られた赤茶けた大地と大豆畑が広がり、森は分断され、川は違法採掘や農薬による汚染のリスクにさらされている。彼らの居住区だけが、その中にぽつんと残された緑の島のように見える。

開発し尽くされた土地で、最後の砦となった森を守り続けているのが、「戦士」と名高いカヤポの人々である。その強さはどこから来るのか。

一本の道を境に分断された、守られた森と失われた森。アマゾン全体が後戻りできない境界線に近づいている現実を象徴する。写真:Conservation International /Flavio Forner

カヤポのリーダーの一人であり、民族組織・Instituto Kabu代表のDoto Takak-Ire氏は、こう語る。

「私たちの曾祖父母も、祖父母も、父母も、森で生まれた。狩りに行き、魚を獲る。自然が与えてくれるものすべてを享受して生きるのは、それを知らない人には信じられないくらい幸せなことなんだ」

彼らにとって森は、単なる土地ではない。祖先の記憶が宿り、命の循環を抱く生きた存在である。だから「知っている」のだ──川が何を意味するか。森が何を意味するか。それを失ったら、何がなくなるかを。

「私たちには森が必要だ。森と生きる権利を奪おうとするなら、私たちは闘う。それは、私の子どもの頃から続いている闘いであり、次の世代にも闘い続けてほしいと願っている」

もちろん、その闘いは決して穏やかなものではない。権利を脅かそうとする制度的圧力は国会をもまきこみ執拗に続き、彼らのオフィスが放火されたこともあれば、脅迫を受けたことは数えきれないほどだ。

筆者が初めて自分の名でアマゾンの森を守るためのクラウドファンディングを行ったとき、声を上げることの怖さを感じた。「聞いてもらえるのか」「反発を招くかもしれない」と不安が湧き起こった。それでも、Dotoの言葉が背中を押してくれた。「森の価値を心の底から知っているからこそ、恐れずに発言できる」と。

何を失うと、自分でなくなってしまうのか。自分が何によって成り立っているのか。
それを確固として知っていることが、彼らの強さなのだ。

COP30に参加するDoto氏。森とともに生きてきたその声が、世界へと広がる。写真:Instituto Kabu提供

私たちは、何者として、どう生きるのか

その揺るぎなさは、人を惹きつける。民族組織であるInstituto Kabu設立スタッフであり、30年以上に渡りカヤポ族と歩むLuis Sampaio氏はこう語る。

「カヤポ文化でいちばん印象的なのは、彼らの“エネルギー”です。30年前に初めて会ったときから今まで、そのエネルギーはほとんど変わっていない。だからこそ、1,100万ヘクタールという広大な森を守ってこられたのです」

DotoもLuisも、そして村の女性たちも、こう口を揃える。「私たちの森を訪れれば、きっと私たちのメッセージは理解できるはずだ」と。

初めてカヤポの地を訪れたとき、その言葉の意味を実感した。彼らが命がけで守ってきた森の中に身を置いたとき、頭より先に心と身体が理解した。人間は、本来自然と切り離されて生きるようにはできていない。もしこれを失ってしまったら、世界は取り返しのつかない方向へ進んでしまう──そんな本能的な危機感を覚えたとき、「森を守る」という言葉は抽象的なスローガンではなく、私自身の生存につながる問題に思えた。

コンサベーション・インターナショナルが事業を行うカヤポ先住民族の村とその周囲に広がるアマゾンの森。写真:Instituto Kabu提供

「私たちには森が必要だ。森がなければ、子どもや孫たちが十分に食べ、安心して暮らすことはできない」と語るカヤポ族長老。

Dotoは、外からの支援が闘いを支えてきたことにも触れている──「外からのサポートがあったからこそ、厳しいときも諦めず、私たちはここまで来ることができた」

巨大な力に対して小さな一歩から始まった声が、周囲の人を動かし、やがて国際社会を動かし、政府を動かす力となった。その姿は、声が現実を変えられるという希望を私に与えてくれる。

自分が何によって成り立っているのか。何を失うと、自分でなくなってしまうのか。それを迷いなく答えられる彼らの姿に、私は何度も勇気づけられてきた。

でもその問いは、私たち自身にも開かれている。それを知ることから、声は生まれる。仲間を見つけ、現実を変えていく力も。 ブラジル先住民の闘いは、「何者として、どう生きるか」という問いを私たち自身に突きつけている。

熱意は人をつなぎ、やがて大きな力へと変わっていく。

カヤポ民族のリーダーたち、彼らと30年以上ともに歩んできたルイス、そしてCIの仲間たちと筆者(右から3人目)。

Edited by Megumi

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