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森林火災とは

Wildfire

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森林火災とは?(What is Wildfire)

森林火災とは、山や森林で広範囲に渡り発生する火災のことで、山火事や山林火災、林野火災とも呼ばれます。2019年にはアマゾンやオーストラリア、2020年にはカリフォルニアで大規模かつ長期的な森林火災が発生したことから世界中で話題となりました。人間を含む生態系に大きな影響を与える森林火災は、CO2放出による地球温暖化や大気汚染に繋がる可能性があります。

今回は、そんな森林火災が起きる原因や解決策をわかりやすく紹介します。

近年起きた森林火災の状況(The current situation of wildfire)

近年、世界で発生件数が増え、各地域で様々な被害をもたらしている森林火災ですが、近年では、特にアマゾンやオーストラリア、カリフォルニアで起きた森林火災が大きな被害をもたらしました。

それぞれ、どのような森林火災だったのでしょうか。

アマゾン

2019年の夏、南米大陸でアマゾンの熱帯林を中心に、大規模な森林火災が多数発生しました。火災は、ブラジルの熱帯林だけでなく、パンタナールの大湿地帯や、ボリビア、パラグアイにかけて広がるチキターノ森林、草原地帯などでも発生(※1)。同国ではアマゾン地域を中心に、森林火災の発生件数が2018年の同時期と比べて85%増加しました(※2)

アマゾンには世界最大の熱帯林が残り、数千、数万種ともいわれる野生動植物と、先住民族を含む3,400万人以上が生きています。今回の森林火災はそうした人間を含む生態系に大きなダメージを与えました。

原因は明らかではないですが、ひとつはブラジルやボリビアで起きた、国の政策の大きな転換が挙げられています。ブラジルでは、2019年1月に就任したジャイール・ボルソナロ大統領が、それまでのアマゾンでの開発規制を緩め、経済政策として、農地や牧草地、鉱山の開発を奨励。環境保護活動家は、環境保護より開発を優先するジャイール・ボルソナロ政権が森林に火をつけることを奨励したことが、火事多発の原因だと非難しました。

※1 WWF
※2 ブラジル国立宇宙研究所(INPE)

オーストラリア

オーストラリアでは、2019年7月から2020年3月まで、1千万ヘクタールもの土地が焼失しました。森林火災は、自然現象でもあります。事実、オーストラリアの原生植物のバンクシアは繁殖の手段として、森林火災の熱を利用して、種を飛ばす形に進化しています。このように、オーストラリアで発生する森林火災は自然環境の一環として、オーストラリア大陸の生態系に受け入れられていました。

問題となっているのは、その火災の頻度や消失範囲が最近になって急激に増えたことにあります。過去20年間では、オーストラリア国内の森林面積の約1%が、毎年の森林火災で焼失しているといいます。これに対して昨年2019年〜2020年の山火事シーズンでは、この比率が約20%にまで増えました。

今回の火災ではオーストラリア全体で3,000棟以上の建物が被災。死者も33名以上にのぼりました。また、コアラは推定個体数の約30%(およそ8,400頭に相当)が被災したとされています(※3)。今回焼失したエリアには、世界的にも貴重な生態系を有するブルーマウンテン国立公園やゴンドワナ国立公園が含まれていたことや、いつもは火災が少ないメルボルンやブリスベンといった主要都市がある東部も燃えたことから、「異常事態」だとして報道されました。

2024年2月には、オーストラリア南東部が猛烈な熱波に襲われ、現地当局は大規模な森林火災がさらに拡大する恐れがあるとして、火災が広がる可能性のある地域に居住する約3万人に避難を指示する事態となりました(※4)

※3 WWF
※4 CNN

カリフォルニア

米カリフォルニア州では、継続的に火災が発生しています。この地域は、春から秋にかけて乾燥した気候で、風が強く、気温も暑くなりやすいので、森林火災が起きやすい地域なのです。特に秋は、サンタアナ風と悪魔の風(内陸のディアブロ山の向こう側の高気圧から海に流れる風)と呼ばれる、強く乾燥した風が流入することで、一度山火事が起きると、被害と火の勢いが増します。

カリフォルニアで発生した大きい火災としては、2019年10月末に発生した「ゲッティ火災」と「ティク火災」、そして11月に発生した「キンケード火災」が挙げられます。カリフォルニア州北部地域の天然ガス、電力供給を行うPG&Eのずさんな管理体制のインフラが原因で、複数の大規模火災が発生しました。他にも、たばこの吸い殻が原因だったり、ホームレスの野営地から広がったり、花火が原因だった火災もあります(※5)National academy of sciencesによると、1992年〜2012年までのカリフォルニア州の火災発生の原因は、84%が人的要因で、残りの雷などの自然発生はわずか16%のみだという調査結果が出ています。

ニューサム知事の発言によると、2020年に入って山火事は7,000件余り発生し、2019年に比べて63%増加しました。現在の焼失面積は1年前の25倍になっています(※6)。米カリフォルニア州では2020年8月15日以降では、20人が森林火災によって死亡しました。街がオレンジ色に染まる景色は世界中のメディアで話題となりました。火災は、450万エーカーの面積(全米省庁合同火災センター調べ)を焼失させました(※7)

※5 San Francisco Chronicle
※6 Bloomberg
※7 BBC

ハワイ州マウイ島

2022年8月8日に発生したハワイ州マウイ島の森林火災は、死者97人、行方不明者30人超となるアメリカの過去100年間における最悪の災害の一つとなりました。この火災によって、アメリカの国家歴史登録財および国定歴史建造物地区に指定されたラハイナの美しい街並みは焼き尽くされ、2,200棟以上の建物が焼失。延焼面積はラハイナ地区で870ヘクタール、島全体では2,700ヘクタールに達し、その経済的損失は最大で60億ドルに及ぶと推定されています。

火災の要因には、高温、乾燥、強風という悪条件が重なったことがあげられます。さらに、かつてプランテーション農業が盛んだった地域が、観光業に移行する中で土地管理が疎かになり、外来種の燃えやすい草地植生が広がったことも、火災の拡大を招いた要因ともされています。

この火災は、単なる物的損害だけでなく、ラハイナの歴史的・文化的価値の損失も引き起こしており、被害の規模は金銭的な価値では測りきれないものがあります(※8)

カナダ

カナダでは、2023年5月および6月以降を中心に、およそ7,000件もの山火事が発生しました。高温・乾燥の気象条件に加え、ドライライトニングと呼ばれる雨を伴わない落雷が事態を悪化させています。これらの山火事により、10月の時点で、日本の国土面積の半分に相当する1,850万ヘクタールの森林が焼失しました(※8)

ギリシャ

ギリシャは2023年7月以降、40℃を超える熱波に襲われました。その結果、乾燥・強風といった気象条件下で、80件を超える山火事が発生し、EU域内で最大規模の山火事となりました。リゾート地として名高いロードス島で発生した山火事では、約10日間火災が続き、観光客ら2万人が避難する事態となっています(※8)

※8 海外消防情報センター

チリ

チリは2023年1月から2月にかけて熱波と大干ばつに見舞われました。その結果、大規模な森林火災が各地で発生し、この火災は過去数十年間において最悪の災害の一つとされています。400件を超える火災が発生し、43万ヘクタール以上の土地が焼失(※8)。20数名の死者を出しています。

さらに、2024年2月には、首都サンティアゴ近郊のバルパライソ周辺で大規模な火災が発生。少なくとも137名が死亡し、16,000人以上が家を失う事態に至りました。なお、CIGIDEN(チリ国立自然災害管理総合研究センター)の推計によると、この山火事は過去30年に記録された中で最大の災害のひとつといわれています(※9,10)

2024年の火災はエルニーニョ現象により気温が高く、森林火災が発生しやすい環境が整っていたことも被害を拡大させた要因の一つですが、気温の上昇や強風、湿度の低さといった厳しい気象条件が影響し、消火活動は非常に困難を極めました。

また、一部の火災については放火が疑われており、同年5月には森林に意図的に火をつけた容疑でボランティア消防士と森林管理の職員が拘束されています(※11)

※9 BBC
※10 BBC
※11 CNN

ボリビア

中南米ボリビアでは、2024年7月頃からサンタクルス県を中心に多数の森林火災が発生しました。この大規模な火災は南米の熱帯サバンナ地域であるチキタニア地方に大きな被害をもたらし、ボリビアの豊かな自然環境は深刻な打撃を受けることとなりました。

被災した9県のうち最も被害が大きいサンタクルス県では、トゥカバカ保護区の原生林100ヘクタールが完全に焼失。また、サンタクルス大学の調査によると、火災によりオセロット、ピューマ、ジャガーといった野生のネコ科動物をはじめ、シカやアリクイなどの野生動物、推計230万匹以上が犠牲になったとされています(※12)

また同年9月7日には、ボリビア政府が大気汚染の深刻化を受けて全国健康警報を発令しました。森林火災によって大気の状況が健康に深刻な影響を及ぼすレベルとなり、政府がマスク着用を推奨したり、各地の空港が一時閉鎖したりするなど、深刻な事態となりました(※13)

火災の原因には、気温の上昇や乾燥した気象条件が影響しているとされますが、環境保護活動家たちは、エボ・モラレス元大統領政権下で制定された、農地拡大のために森林や牧草地を焼き払うことを奨励する法律が火災を助長したとして批判しています。

※12 AFP BB News
※13 外務省

数字で見る森林火災(Facts & Figures)

世界で進行している森林火災の現状に関する数字と事実をまとめています。

世界全体

      • 世界の森林面積は約40億ヘクタールで陸地の31%を占めている(WWF
      • 世界全体の森林面積の65%を有する118ヵ国で毎年1,980万ヘクタールの森林が火災によって消失している(FAO
      • 2020年4月の世界の火災警報の数は、2019年4月と比較して13%増加している(WWF
      • 野火全体の75%は、人間に責任があることが報告されている(FAO
      • 世界人口の25%以上に相当する約16億人の人々が生活の糧を森林に頼っている(FAO
      • 世界の山火事による森林消失は、ここ20年で約2倍にも増加。2001年から2023年までのデータによると、森林火災によって焼失した面積はこの期間に年間約5.4%増加しており、これはクロアチアとほぼ同じ面積(WRI
      • 世界の樹木損失の要因において、火災が占める割合は、採鉱や林業など他のものに比べ大きくなっている。2001年には火災による樹木の損失は全樹木損失の約20%しか占めていなかったが、現在では約33%を占めている(WRI
      • 2023から2024年の森林火災による世界全体のCO2排出量は平均を16%上回り、86億トンに達した(Met Office

アマゾン

      • 2011年以降、アマゾンでは毎年8月に、約2万件程度の森林火災が起きているが、2019年8月には1か月で約3万件もの森林火災が発生している(WWF
      • 2019年に、生物多様性の宝庫といわれるアマゾンで失われた森林面積は、およそ91万66百ヘクタール。過去5年間で、最悪の被害(WWF
      • 2019年1〜10月の間に180万ヘクタール以上が燃え、11月の終わりまでには、前年比で7.1倍もの焼失面積が記録されている(WWF
      • 2024年においては、同年8月時点でブラジルのアマゾン熱帯雨林で3万7,000件以上の森林火災が確認されており、2023年同期比で111%増となった(ブラジル国立宇宙研究所調べ)(AFP

オーストラリア

      • 2020年5月半ば時点で焼亡したと推定される総面積は、1千7百万ヘクタール。北海道の面積の2倍以上に相当(WWF
      • オーストラリア全体では3,000棟以上の建物が被災。死者も33名以上にのぼる(WWF
      • 12億5千頭以上の野生動物(哺乳類、鳥類、爬虫類)が、犠牲になった可能性(WWF

カリフォルニア

      • 過去100年の間に、カリフォルニア州の夏の気温は1.4℃上昇したとされている(National Geographic
      • 過去カリフォルニアで起きた20件の大規模火災のうち17件は2000年以降に発生したもの(Cal Fire
      • 2020年にカリフォルニアで起きた森林火災は、120万ヘクタール(東京都の面積の5倍以上)にも及ぶ(National Geographic
      • 1970年代と比べ、カリフォルニア州で夏に火災が起きた土地の面積は8倍にもなり、年間の焼失面積は5倍に増えている(National Geographic

ハワイ州マウイ島

      • 1920年から2012年の間にハワイ州の90%以上で乾燥が進んでいる(RMetS
      • ハワイ州マウイ島の森林火災は強風によって拡大しており、マウイ島全域に最大瞬間風速35mの突風が吹き荒れたことで燃え広がった(WIRED
      • 18世紀後半、ヨーロッパ人によってハワイ州マウイ島に持ち込まれた燃えやすい外来種の草が蔓延し、ハワイ州の26%がそのような外来種の草で覆われている(WIRED

カナダ

  • 2023年の森林火災による焼失面積は、過去40年間の年間平均の約7倍に達した(MIT
  • 2023年に発生した森林火災は、世界の航空部門が排出する炭素の約4倍に相当する30億トンもの二酸化炭素を排出し、2023年におけるすべての熱帯原生林の損失を合計したものより25%多い(WRI

ギリシャ

  • 2023年7月よりギリシャ全土で相次いで発生した山火事は、欧州連合(EU)域内で2000年以降最大の森林火災とされている(UNICEF
  • 2023年にギリシャ全土で発生した森林火災は、同年8月の時点でニューヨーク市の面積の2倍に相当する15万5,000ヘクタール以上の森林、耕作地、市街地を焼き尽くした(UNICEF

チリ

  • チリには2010年時点で18.7メガヘクタールの天然林があり、国土の27%を占めていたが、2023年には森林破壊(森林火災を含む)によって58.3キロヘクタールの天然林が失われた。これは57.5メガトンのCO₂排出量に相当する(GFW
  • 2001年から2023年にかけて、チリは326キロヘクタールの樹木を火災によって失った(GFW

ボリビア

  • ボリビアには2010年時点で62.7メガヘクタールの天然林があり、その面積は国土の 58%を超えていたが、2023年には森林破壊(森林火災を含む)696キロヘクタールの天然林が失われた。これは370メガトンのCO₂排出量に相当する(GFW
  • 2001年から2023年にかけて、ボリビアは2.06メガヘクタールの樹木を火災によって失った(GFW
  • 2024年初めから2024年9月16日までにボリビア国内で2万9,000件以上の火災警報が発令され、その90%が7月1日以降に発生したものである(WRI
  • ボリビアでの森林火災は悪化傾向にあり、20年前の約5倍発生。2024年は記録的な年となっている(WRI

日本

    • 日本では、直近5年間(平成30年~令和4年)に発生した山火事の平均を見てみると、1年間に約1.3千件の山火事が発生しており、これは、1日あたりにすると、全国で毎日約4件の山火事が発生していることになる(農林水産省 林野庁
    • 焼損面積は約7百ヘクタール、損害額は約2.4億円である(農林水産省 林野庁

森林火災の範囲はこれまでと比べると年々大きくなっていることは明らかであり、それにより生物多様性や人々の暮らしにも影響しています。

森林火災の原因(Causes)

森林火災が起こる原因は様々ですが、主な原因としては①自然発火②人為的原因の2つに分けられます。

また、近年森林火災が発生する原因として気候変動による地球温暖化が挙げられていますが、森林火災自体は自然現象であり、以前から起こっていたことでもあります。問題なのは、地球温暖化が進むことでその頻度や焼失範囲が拡大したことです。

①自然発火

  • 空気が乾燥することによる落ち葉への発火
  • 熱波や雷、火山の噴火
  • 気候変動や干ばつなどによる降水量の減少

②人為的原因

  • 人間による火の不始末(焼き畑農業・たき火・煙草など)
  • 農地や牧草地、鉱山のための開拓
  • 放火

自然発火の場合、主な原因は「乾燥」です。空気が乾燥することで落ち葉の水分が失われ、枯れ葉同士が擦れることで火が起こります。そしてその火種が周囲の枯れ葉や木々に燃え移り火災が発生します。アメリカやオーストラリアでは、この乾燥による森林火災が頻発しています。

さらに近年では、気候変動も自然発火型の森林火災を引き起こす原因になっているといわれています。気候変動による地球温暖化の影響で、地域によっては異常なほど降水量が少なくなり、前途した、森林火災の主な原因となる「乾燥」や干ばつが起こりやすい状況がうまれます。そしてその日照りによって、火災の燃料となる枯れ木や低木、草が増加。そうした乾いた木は、できるだけ水を吸収しようと根っこを深く生やすため、土壌がさらに乾燥しやすくなります。そこから森林火災が起こり、森林火災が起こると、木と土壌からCO2が放出され、地球温暖化がさらに進むという悪循環に陥るのです(※14)

以下は、猛暑を引き起こし、森林火災を大規模化させる原因となる現象です。

フェーン現象

「フェーン」とは、湿潤な空気が山を越えて反対側に吹き下りたときに、風下側に吹く乾燥した高温の風のことで、フェーンが吹いた付近の気温が上昇することを「フェーン現象」といいます。高温で乾燥した風であるため、火災が起こっているところに吹くことで範囲を広げるだけでなく、別の場所も出火させる可能性もあります(※15)

ラニーニャ現象・エルニーニョ現象

アメリカの森林火災の一因としては、「ラニーニャ現象」が上げられます。ラニーニャ現象とは、同じ海域で海面水温が平年より低い状態が続く現象で、大気の連鎖反応を引き起こし、全世界で気象が乱れます。米西部は山火事が発生しやすくなるほか、大西洋で強力なハリケーンが発生し、オーストラリアや南米の一部で洪水が起きることが多くなります(※16)

アメリカ国立科学財団(NSF)と同国エネルギー省(DOE)の助成を受けた研究によると、このラニーニャ現象が発生した場合の影響は将来的に増大し、気温や降雨量、森林火災のリスクが大きく変化する可能性があるといわれています。世界気温の上昇が続くと、特にラニーニャの発生と重なる場合、カリフォルニア州など干ばつや森林火災が深刻化する地域が出ることが予測されています(※17)

ダイポールモード現象

オーストラリアで雨不足が起こり、森林火災が悪化した一因として考えられているのが、「ダイポールモード現象」です。熱帯インド洋で見られる気候変動現象で、5〜6年に1度程度の頻度で、夏から秋にかけて発生し、正と負の現象があります。

正の現象は、熱帯インド洋の東部で海面水温が平年より下がり、西部で高くなるために、通常は東インド洋で活発な対流活動は西方に移動し、東アフリカのケニヤ周辺やその沖合で雨が多く逆にインドネシアやオーストラリア周辺では雨が少なくなります。これを正のダイポールモード現象と呼びます。一方で負の現象は、熱帯インド洋の南東部で海面水温が平年より高く、西部で海面水温が低くなる現象のことをいいます。これによって、通常は東インド洋で活発な対流活動がさらに活発となり、インドネシアやオーストラリアで雨が多くなります。

今回のオーストラリアの森林火災は、このダイポールモード現象によってインド洋の海面温度が変化したことによって起こった降雨不足によって悪化した可能性が高いと気象庁は呼びかけています(※18)

※14 [Bowman et al. (2017)
※15 気象庁
※16 アメリカ国立科学財団(NSF)
※17 Bloomberg
※18 一般社団法人共同通信社

森林火災はなぜ問題なのか?(Impacts)

森林火災が進むことはなぜ問題なのでしょうか。主な理由としては下記が挙げられます。

  • 有機物質が燃焼したときの炭素放出による、気候変動への悪影響
  • 野生生物の焼死
  • 野生生物の生息地が無くなったことによる生態系の変化
  • 森林に住む人々の生活を脅かす
  • 近隣都市への大気汚染被害
  • 近隣住民への危険性
  • 消火・救助・復興活動などによる経済的損失

森林が燃えることによって、有機物質が燃焼され、大量の炭素が放出されます。これが気候変動へさらに影響を与え、気候変動が進むことで地球温暖化が起こり、さらに森林火災を悪化させるという悪循環がうまれてしまいます。

また、オーストラリア火災では、少なくとも5,000体のコアラが焼死し、公有地のコアラ生息地の24%が焼失したと推定されています(※19)。森林にはわたしたち世界の生態系バランスを保つための様々な生物種が暮らしており、その中には多数の絶滅危惧種も含まれていますが、森林破壊により生物多様性が危機にさらされると、生態系バランスが崩れる可能性があります。

さらに、世界人口の4分の1以上に相当する約16億人の人々が生活の糧を森林に頼っているという現状から、森林火災は動物たちだけではなく、私たち人間の生活も脅かしているといえます(※20)。森林火災は近隣都市への大気汚染を引き起こし、住民の呼吸器官に悪影響を及ぼしたり、住宅を全焼させてしまったりなど、人々の健康や住処も奪います。米カリフォルニア州を襲ったキンケード火災では、約18万人が家を離れることになりました(※21)

日本では、最近5年間(2014年~2018年)の平均でみると、1年間に約1.3千件森林火災が発生し、焼損面積は約7百ヘクタール、損害額は約5.8億円となっています。これを1日あたりにすると、全国で毎日約3件の山火事が発生し、約2ヘクタールの森林が燃え、1.6百万円の損害が生じていることになります(※22)

そのほか、森林火災はPM2.5(微小粒子状物質)の濃度上昇を引き起こします。

PM2.5は粒子の直径が2.5マイクロメートル以下であることから肺に入りやすく、呼吸器疾患や心血管系へのリスクを高めるとされ、人体に深刻な影響を与えることが懸念されています。特に、WHOが推奨する大気中の限度を大幅に超える濃度に達すると、健康への影響が顕著になります。

ブラジル・アマゾン全体では、2024年年初から8月中旬までに4万2,000件以上の森林火災が発生しており、そのうちブラジル・ロンドニア州ポルトベリョでは、PM2.5の濃度が、WHOが推奨する上限の11倍となる1立方メートル当たり56.5マイクログラムに上りました。また、ブラジル連邦直轄区ブラジリア国立公園内では同年9月初めから森林火災が発生し、大気汚染の影響が広がったことから、ブラジル保健省が火災による大気汚染から身を守るためのガイドラインを発表しています(※23,24)

加えて、森林火災は水質にも影響を及ぼします。森林火災発生後、樹木の植生が失われ、土壌の性質が変化すると、暴風雨の際に地表を流れる水の量が増え、深刻な洪水、侵食、貯水池への土砂、汚染物質などの流入につながる可能性があります。また、これらの事態が起これば、水質の低下や河川の生息環境の悪化などをもたらす可能性も高まります(※25)

※19 National Geographic
※20 FAO
※21 AFP
※22 林野原庁
※23 NDTV
※24 外務省
※25 USGS

森林火災に対する未来の影響予測

森林火災によって起こりうることについて、このように予測されています。

  • 世界的な異常火災の発生頻度は、2030年までに最大14%、2050年までに30%、今世紀末までに50%増加する可能性がある(WFCA
  • 気候変動により、火災規模が拡大し、多くの地域で火災の深刻度が増加すると予測されている(Fire Ecology
  • 気候変動下では火災発生の可能性と山火事シーズンの長期化の両方が起こりうる。アメリカの研究において、将来の気候予測から、今世紀末には アメリカ大陸全域で極端な山火事リスクが平均10日増加することがわかっている(DRI
  • 火災発生の増加と乾燥条件によって、植物の生物多様性の減少につながる可能性がある(PGC
  • 山火事による生態系の変化が、観光業の減少といった経済的損失につながる可能性がある(PGC

森林火災を防ぐためにできること(What We Can Do)

森林火災を食い止めるために、私たちができることは何でしょうか?毎日の生活の中からでも森林を守るためにできることは数多くあります。

これまでIDEAS FOR GOODでも「オーストラリア森林火災のために私たちができる3つのこと」や「#ActforAmazonas 森林破壊を防ぐために私たちができる5つのこと」などでまとめています。

森林の近くにいるとき

  • 枯れ葉や枯れ草など火が燃え移り、火災が起こりやすい場所で焚き火をしない

買い物のとき

  • 違法伐採された商品を買わない
  • 森林認証されているものを選ぶ
  • 木材の輸入を減らす
  • 肉の消費を控える

日々の生活で

  • 個人のカーボンフットプリントを減らす
  • 森林火災の問題を誰かに伝える

直接的な森林火災の原因となる焚き火やタバコのポイ捨て以外にも、私たちの日々の生活ひとつひとつから見直していくことで森林火災の間接的な原因を防ぐことができます。

たとえば、何気なく使う商品の原材料を把握しておくことも大切です。チョコレートやカップラーメンの原材料の1つであるパーム油は、熱帯地域で栽培されるアブラヤシから抽出されています。このアブラヤシを栽培するために広範囲で熱帯雨林が伐採されている現状があります。商品を買う際にパーム油が使われていないか確認してみましょう。

さらに、日本の木材輸入量は世界トップ3といわれています。こうした輸入国が原因で違法伐採が進むという現状もあります。住宅・紙・家具など、国産木材が利用されたものを購入する、日々の生活では、再生紙や森林認証のある商品を選ぶなど一人一人が責任ある消費を心がけることが大切です。

森林

Image via Unsplash

また、ブラジルは、世界有数の牛肉・大豆の輸出国といった農業国でもあることから、アマゾン熱帯雨林の破壊の原因は開発で、現在アマゾン森林伐採地域の65%が放牧地と化しているといわれています(※26)。畜産のために人々は森林を犠牲にしているということです。こうした状況に対して、すぐに肉の消費量をなくすことは難しいかもしれませんが、少しずつ私たちが食事をプラントベースにかえることで、畜産よる環境破壊を止めることができます。

他にも、個人のカーボンフットプリントを減らすことで森林火災の原因となる地球温暖化を食い止めることもできます。IDEAS FOR GOODで紹介した「Pawprint」は、個人のカーボンフットプリントを測定し、減らすコツを教えてくれます。

世界資源研究所(WRI)が運営する世界中の森林伐採状況が地図上で把握できるサイト「Global Forest Watch(世界森林ウォッチ)」では、世界で起きている火災をほぼリアルタイムで見たりすることができます。こうしたサイトをチェックしながら、森林火災の現状を把握し、周りの人に伝えていくことも、人々の意識を変えるきっかけになります。

※26 GREENPEACE

そのほか、AI(人工知能)を活用した森林火災対策も注目を集めています。

AIの活用は、森林火災の早期発見や効率的な火災抑制に寄与し、従来の方法に比べて迅速かつ精度の高い対応が可能になると期待されています。

Googleや非営利組織・環境防衛基金(Environmental Defense Fund、EDF)などの共同事業体「アース・ファイア・アライアンス(Earth Fire Alliance)」のプロジェクト「ファイアサット(FireSat)」では、衛星を利用して地球上の火災を監視します。ファイアサットは5メートル四方の小規模な火災を発見できることから、火災の早期検知、ひいては火災の被害拡大を抑えることが期待されています。

さらに、ドイツを拠点とするスタートアップ企業・オロラテック(OroraTech)も、AIと衛星技術を組み合わせ、森林火災の検知に特化した取り組みを進めています。オロラテックは将来的に、熱を検知するセンサーを搭載した独自の衛星を100基打ち上げ、30分ごとに地球全体の火災リスクをリアルタイムでモニタリングすることを目指しています。

一方、地上での火災監視技術にもAIが活用されています。アメリカのスタートアップ企業・パノAI(Pano AI)は、高性能カメラを利用して、森林火災を早期に発見するシステムを導入。カメラは360度回転し、半径16キロメートル以内の火災を検知できます。AIアルゴリズムによって異常が検出されると、自動的にアラートが送られるため、素早い対応が可能になります。

日本の企業も、AIを活用した森林火災抑制術を開発しています。住友林業株式会社は、熱帯泥炭地を管理するための初期AIモデルを構築。これは荒廃すると森林火災が起きやすい熱帯泥炭地の地下水位を、AIが予測して治水整備を制御し、土地が乾燥しないようにするというものです。このAI技術の活用により、インドネシアなど世界の熱帯泥炭地でのCO2排出や森林火災の抑制が期待されています。

森林保護に関する国際団体(Organization)

森林保護に関する国際的な団体としては下記が挙げられます。

【参照サイト】The Latest Data Confirms: Forest Fires Are Getting Worse
【参照サイト】Climate change raised the odds of unprecedented wildfires in 2023-24 – Met Office
【参照サイト】【最近の研究成果】熱帯アジア域の干ばつ・森林火災・火災由来CO 2 ・PM 2.5 排出量に過去と未来の温暖化が与える影響について
【参照サイト】Brazilians “Struggle To Breathe” As Amazon Forest Burns In Wildfire
【参照サイト】注意喚起)森林火災による大気汚染
【参照サイト】Water Quality After Wildfire | U.S. Geological Survey
【参照サイト】How AI can help spot wildfires | MIT Technology Review
【参照サイト】NeXT FOREST熱帯泥炭地管理のAIモデルを構築 ~地下水位予測で世界のCO2排出抑制に貢献~ | 住友林業
【関連記事】森林破壊とは?数字・原因・対策と私たちにできること

森林火災の問題を解決するアイデアたち(Ideas for Good)

IDEAS FOR GOODでは、最先端のテクノロジーやユニークなアイデアで森林破壊の問題解決に取り組む企業やプロジェクトを紹介しています。

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