美術館が広すぎて困る、という悩みは海外だとわりと普通にある。丸一日かけて早歩きで進んでもルーブル美術館の閉館時間までにすべて見終わらなかったり、大英博物館の中が迷路のようで目玉のロゼッタ・ストーンを探すのにも時間がかかったりする。実物を目の前で見る感動もあるが、それだけ膨大な数の作品はどのみち落ち着いて鑑賞できない。
そんな来館者の意見を汲みとったのか、それとも時代の流れなのか、アメリカのメトロポリタン美術館が2月7日、パブリック・ドメインにあたる同館の作品37.5万点のイメージ写真をウェブで無料公開する方針を発表した。これらのイメージ写真は営利・非営利問わずすべて、美術館の許可を得ることなく使用することができる。美術館はCreative Commons、Wikimedia、Pinterestらとパートナーを組み、作品のシェアを進めている。
ここまで大規模なのは珍しいが、オープンアクセスと呼ばれるこの取り組みを行っている美術館は他にもある。アメリカのナショナル・ギャラリー・オブ・アートやニューヨーク近代美術館、オランダのアムステルダム国立美術館がそうだ。ちなみにだがメトロポリタン美術館の作品コレクションは約150万点あるらしい。まさに桁違い。日本だと世界遺産に登録された国立西洋美術館でさえ数千点レベルだ。
そもそも美術館というのは、各地に散らばっていたり流出しかかっていたりする作品を一か所に集める目的で作られた。膨大な作品を収集し展示できるということはすなわち、富や権力の象徴だった。その美術館が大衆に向けて作品をオープンにし始め、いわばネット上に作品を「流出」させている。美術館という箱が溶け出しているのを感じる。
【参照サイト】The Metropolitan Museum of Art “Image and Data Resources”
(※画像提供:The Death of Socrates/The Metropolitan Museum of Art)