個人が所有する車をシェアすると何が起こるのか。一つの車を複数の人々が共有するカーシェアリング、人々がお互いに相乗りするライドシェアリング、そして自動運転車が日常のものとなったとき、どのような車社会が到来するのだろうか。デザイン会社のIDEOは、それらすべてを一台の車に融合し、未来の車社会のありかたを描いたストーリーを公開した。
朝、ドライバーのChloeはライドシェア、カーシェア、個人使用からライドシェアモードを選んで、自宅を出発する。プライバシーモードで、静かに寝ながら乗車したい人や前の席に座りたい人を途中で拾い、目的地のオフィスに到着。
仕事をしている間は、車自身にお金を稼いでもらう。アプリで新たにカーシェアの予約リクエストが入ったのを確認したChloeは、今度は違う二人組に車を2 時間ほど貸し出す。彼らには、ドライブのついでに食料品を買ってきてもらうように頼む。そのぶんレンタル費用は12ドルの割引だ。車が戻ってきたら、仕事を終えたChloeは買ってきてもらった食料品を車にのせて帰宅する。これがストーリーの概要だ。
カーシェアリングやライドシェアリングが普及するに従い、車も電車やバスのような公共交通に近づくのではないかという予測もあるが、IDEOが描く車の未来は、シェアリングエコノミーとテクノロジーの進化が従来の公共交通にはない新たな価値を生み出す可能性を感じさせてくれる。
一つは、プライベート空間の尊重だ。電車やバスといった公共交通機関は「公の場」という側面が強く、乗客一人一人のニーズに対応するのは難しいが、IDEOのストーリーにもあるように、シェアリングエコノミーがもたらすのは多様な参加者による多様な選択肢を持った「公共」だ。そこには、一人一人のニーズに対応した「プライベート」を用意する隙間がある。
二つ目は、移動にかかる料金が柔軟になる点だ。料金が一律に定められている公共交通とは異なり、個人同士のカーシェアリングであれば、取引は貸し手と借り手の交渉に委ねられる。Chloeがスーパーへの買い物を頼んだように、利用者が車の所有者に何かしらの便益を提供することができれば、より安い料金で車を借りることもできるだろう。シェアリングエコノミーの取引は、お互いのコストを下げるのだ。
車のシェアが一般的になれば、道路を走る車両の数は少なくて済み、煩わしい渋滞も、環境への負荷も減らすことができる。そして、車の数は減るにもかかわらず交通の選択肢の数は増えるため、より一人一人の好みやライフスタイルに合わせた利用が可能になるのだ。
所有者にしてみれば、自分の車をシェアすることは、小さな事業を営むようなものだ。だからこそオーナーの数だけ運営方針が出てくるし、利用者もそれだけ柔軟で多様な選択肢を得られるようになるだろう。シェアが進んだ社会とは、自分で全てを所有する必要はなくなる一方で、数ある選択肢のなかから自分に適したサービスを選ぶ力が今以上に問われる社会なのかもしれない。
【参照サイト】IDEO The Future of Automobility
(※画像提供:The Future of Automobility)