LCCの登場や就航本数の増加により、海外旅行に行くのが手軽になった昨今。旅行が手頃になったことは喜ばしいが、一方ではグローバル化やアジアを中心とする中間所得層の増加などを背景に世界の航空人口は増加の一途を辿っており、就航に大量の燃料を必要とする航空産業が生み出す環境への負荷も比例して増加している。
航空業界による環境への悪影響を減らすべく、世界ではバイオジェット燃料の開発や機体の軽量化など様々な取り組みが行われているが、この業界に新たに大きな革命をもたらそうとしているのが、航空機メーカー世界最大手ボーイング社と米国のLCC、ジェットブルー航空が出資するスタートアップ企業「Zunum Aero」だ。同社が開発に取り組んでいるのは短距離用のハイブリッド電気航空機で、NASAの関係者も参画している。さしずめ「空のテスラ」といったところだ。
同社は2020年代前半までにまずは1100kmほどの距離から運航を開始し、2030年までに約1600kmまで距離拡大を目指す。航空機は10~50人乗りを想定しており、利用頻度が少ない地域の空港を積極的に活用する。実現すれば、短距離間における空の移動スピードは格段に上昇し、運賃価格は大幅に低下する見込みだ。まさに空の移動が黄金時代を迎えることになる。
IDEAS FOR GOODでは以前タクシーの代わりにドローンを導入するドバイの取り組みを紹介したが、ハイブリッド電気航空機は高速道路や高速鉄道の代わりを想定している。
ガスタービンエンジンを搭載する現在の長距離用航空機は、交通量が全空港の2%に集中している。Zunum Aeroのアシシュ・クマールCEOは「ハイブリッド推進により、中型の航空機は地域の移動において大型旅客機よりコスト効率が高くなる。業界を大きく変えるソリューションだ」と意気込む。
ハブ空港から地域の空港へと交通量が移ることで速く安い移動が可能となり、ボストンからワシントンへの移動はコストも時間も半分になる。シリコンバレーからロサンゼルスの移動時間は現在の5時間から2時間30分に短縮される。
Zunum Aeroの試算では、移動時間を40%、交通量の少ない空港なら80%にまで短縮できるという。航空運賃も現在の40%~80%以下にすることが可能だ。さらに二酸化炭素排出量も80%低減することができ、将来的には高性能のバッテリー使用で、排出量はなんとゼロになる。また、騒音も75パーセント減少し、住宅地近隣の小規模の空港でも騒音が気にならず24時間利用できる。空の旅が格段に「速く、安く、静か」になるのだ。
チケット価格の低下や移動の利便性もさることながら、化石燃料を必要としない電気航空機なら大幅なCO2削減が実現でき、自動車業界のイノベーションと同様に環境問題の改善に向けて大きなインパクトをもたらすことが考えられる。さらに長距離の移動でも電気飛行機が利用できるように、今後のさらなる技術革新にも期待したい。
【参照サイト】Zunum Aero Developing Hybrid-Electric Aircraft for Fast and Affordable Travel Up To 1,000 Miles
【参照サイト】Zunum Aero
(※画像提供:Buisiness Wire)