人々が集まるきっかけとなり、そこに集まる人々を笑顔にする飲み物、ビール。世界にはそんなビールづくりを通じて世の中を少しでもよくしようと懸命に取り組んでいる醸造所が数多くある。
IDEAS FOR GOODでは過去にも空き瓶をリサイクルするニュージーランドの「DB Breweries」や雨水でビールをつくるオランダのブルワリー「Hemelswater」など、醸造所によるユニークかつソーシャルグッドな取り組みを紹介してきたが、今回取り上げるのは、昨年イギリスの首都ロンドンではじまった、ビールづくりを通じて廃棄食料を減らすという取り組みだ。
ビールは、イギリスで消費されるアルコールの筆頭格だ。イギリスでは各地にクラフトビールの醸造所があり、平均で1人あたり年間約67リットルものビールを消費している。ロンドンに拠点を置くブルワリーの「TOAST」が始めたのは、ベーカリーや食品工場などから廃棄予定となっているパンを回収し、そのパンを使ってビールの製造に取り組んでいる。
パンを利用した酒の醸造は古代から存在する方法だ。TOASTは、メソポタミアやエジプトの人々が焼いた小麦のパンから「神聖な飲み物」と表現されるビールを作った紀元前4000年頃の方式に基づいたレシピを使用しており、パンに大麦麦芽、ホップ、酵母、水を組み合わせてラガーやエールビールを作っている。
TOASTによると、現在世界では食べられる食料のうち実に40%もの量が廃棄処理されており、その筆頭がパンだという。そして、焼かれたパンの3分の1は悲しくも消費者に届くことなく、ごみ処理場に直行しているとのことだ。パン屋の一日の営業終了時に残った沢山のパンは、フードバンクが回収して配給できる量よりも多いのだ。
この廃棄予定のパンを活用してビールを作ることで、TOASTは食料廃棄の大幅な削減を実現するだけでなく、パンをごみ処理施設に運ぶトラックが排出するCO2も削減する。さらに、ビールの販売により得た収益は全額が世界中で食糧廃棄の削減に取り組むNPOの「Feedback」に寄付されるという徹底ぶりだ。
そして今、TOASTはアメリカ独立記念日の7月4日までにビールの一種であるアメリカン・ペールエールを生産し、ニューヨークでお披露目することを目指している。このキャンペーンではニューヨークで酒樽100個分のビールをつくる予定で、クラウドファンディングのIndiegogoで資金調達を展開中だ。
先日取り上げたアメリカ最大の飢餓救済団体Feeding Americaがローンチしたアプリ「MealConnect」は、余剰の食料を再配給する取り組みだが、主食であるパンに関しては配給しきれないほどの廃棄量だというのは衝撃だ。Toastの取り組みは、パンが生まれた古代文明の知恵を活かして食料廃棄の削減と商品開発を同時に実現し、かつ商品から得られる収益を慈善事業に寄付するという首尾一貫したソーシャルグッドなビジネスだ。
飢餓に苦しむ人々が大勢いる一方で、毎日大量の食料が廃棄されているという現代社会の矛盾を解決するために、TOASTのビールがまずはニューヨークで、そしていずれは世界中で広まることを願いたい。
【参照サイト】TOAST
【参照サイト】Indiegogo “Toast Ale: Beer from Surplus Bread”