エンターテインメントを進化させる先端テクノロジーとして注目を集めるVR(仮想現実)やAR(拡張現実)だが、その活用領域は昨今、教育や医療など幅を広げ、ソーシャルグッドなプロジェクトへの適用も見られるようになった。
今回は、これまでにIDEAS FOR GOODで取り上げてきた中から、VR・ARの特性を活かした7つのプロジェクトを厳選し、ご紹介したい。
伝える・共感を生むVR
ヘッドセットを装着すれば、360度パノラマディスプレイを通して仮想空間へ飛び立つことのできるVR(virtual reality:仮想現実)。実際には訪れることの難しい実在の場面・環境へ、リアルな映像を通してユーザーをいざなうことのできるツールでもある。
海の向こうの社会問題や、視覚的に捉えることの難しい環境問題も、VR映像によって伝えることで、より身近なものとしてユーザーの意識を喚起することができる。
01. アマゾンの現状を伝えるドキュメンタリー映像
簡単には踏み入ることのできない地球上最大の熱帯雨林、アマゾンを紹介するVR対応のドキュメンタリー映画が制作された。迫力ある360°映像と先住民ガイドらによる解説でアマゾンの現状を伝え、視聴者に保護の必要性を訴えかける。国際環境NGO団体のConservation Internationalのサイトでは、25米ドルの寄付で1エーカーの熱帯雨林を保護することができる。
02. CSR報告の新しい形
英国を代表するデジタルテレビ・通信事業者の一つ、ヴァージン・メディアが、世界初360°動画によるサステナビリティレポートを公表。社員の取り組みが臨場感をともなう映像で伝えられ、ユーザーはVR空間で視点を動かしながら能動的に視聴することができる。
03. 仮想現実が現実に与えるインパクト
「VR for Good」は、VRの「共感を生み出す力」を利用して社会にポジティブな変革をもたらすことを目指すイニシアチブだ。この他に、ヨルダンのシリア難民キャンプに暮らす12歳の少女を追うフィルム、コーズ・マーケティング・キャンペーンにより靴を贈られた子供たちの様子を伝えるフィルムなど、3本のVR映像をご紹介。
04. 没入感をセラピーに
オーストラリアの医療施設では、VRを利用して患者の心的負担を軽減する試みが始まった。患者は化学療法の合間にVRヘッドセットを装着し、スカイダイビング、シュノーケリングなど、様々なアクティビティを体験できる。魅力あるVRコンテンツへの没入感が、治療のストレスを緩和する。
ARで可視化する新たな現実
現実空間上に仮想の視覚情報を映し出すことで、現実世界を拡張する技術、AR(augmented reality:拡張現実)。VRと並べて紹介されることも多いが、ARは仮想空間を映し出すのではなく、実在の風景の上に情報を補足する。現実に紐づく付加情報を視覚的に提供することで、ユーザーに深い洞察を与えることができる。
05. 未来の地球温暖化をシミュレーション
スマートフォンのGPS機能とAR技術を活用し、NASAによる予測研究と2080年を想定したシミュレーション動画に基づく地球温暖化「体験」をユーザーに提供するアプリ。プロジェクト参加者がこれを利用して、将来、浸食しうるエリアの電柱や建物に警告ポスターを貼るというムーブメントも誘発。
06. 食品の成分分析ができるARスマートグラス
マイクロソフトが開発中の、ユーザーに健康的な食生活を促すウェアラブルデバイス。着用者が体に悪い食べ物の購入や摂取を避け、体に良い食事を選択する意思決定をサポートしてくれる。
07. ARで子供の共感力と問題解決能力を育むテディベア
2017年の PAL AwardやTillywig Brain Child Awardを受賞した玩具「Parker」は、AR技術を使って遊びながら学べる知育テディベア。子供たちはお医者さんごっこで基礎的な生物学を学んだり、デジタルの読み書き能力を養ったり、拡張現実の魅力を探求したりできる。遊びを通じて、危機的状況での思考と問題解決能力も育成されるという。
まとめ
実体験しがたい「現実」もリアルに伝えるVRと、「現実+α」で「現実の先」を映し出すAR。2つのテクノロジーは共に、ユーザーの手に届かない体験を視覚化し、その疑似体験を提供する。今回ご紹介したプロジェクトの多くで、この技術の力が、ユーザーの共感力に訴え、ソーシャルグッドなアクションへと導くために活用されている。
大胆な効果を上げることが容易ではない社会問題への取り組みも、先端テクノロジーとの出会いにより、これまで存在しなかった強力なソリューションを編み出す可能性がある。仮想現実・拡張現実との掛け合わせにより、より多くの課題が解決に近づく今後に期待したい。