持続可能な社会に向かって、いまさまざまな産業が積極的な取り組みを行っている。ファストフード店でもリサイクル可能な包装紙が用いられる取り組みや、輸送の間に枯れて廃棄される花を減らすために花農家と消費者を直接繋ぐサービスも出現している。フェアトレードやエシカルファッション、エシカルセールスに目が向けられる時代なのだ。
そんな中、自動車業界が新たな挑戦に向かっている。あらゆる商品を輸送するために必ず用いられるのは自動車であり、そしてあらゆる自動車は必ずタイヤを使う。これまでブレーキ性能や軽量化などの技術革新が進められてきたタイヤが、いま持続可能性をも手に入れようとしているのだ。しかも、植物の苔(コケ)を使うというのだからインパクトがある。
米Goodyear社の「Oxygene」は、リサイクル可能なゴム粉末を3Dプリントして作られる未来の循環型社会に対応したタイヤだ。サイドホイールで苔を培養し、オープンな構造になっているタイヤは路面の水たまりなどから水分を補給し、AIを使って苔にとって最適な環境を維持するという。
苔は二酸化炭素を吸収して酸素を排出するため、自動車の排気による環境への悪影響を最小限に抑えられることがポイントだ。また、水分を含むことでタイヤに元々求められる機能の1つであるグリップ力が高まることも期待されている。
「Oxygene」は今年のジュネーブでのモーターショーで公開されたばかりの商品コンセプトであるため、まだ製品化はされていない。このようなタイヤを作ることが技術的に可能なのか、これから本格的な検討が行われるようだ。
紹介動画の中では、タイヤに搭載されたセンシング技術で他の車とのスマートな情報交換も可能になると言われている。今後、あらゆる製品は単体としての機能はもちろん、このようなスマートコネクションにより外部機器と一体となってユーザーに新しい体験を生み出していくのだろう。
イノベーションというのは常に想定外の視点を持つことから始まると言われるが、苔のタイヤというコンセプトというのはまさにそれだ。農家と消費者を直接繋ぐようなサービスとはまた違う、しかし同じくらい重要な視点から、その輸送を担う自動車のタイヤも持続可能な社会を作るための要素になりえることを教えてくれる。実用的でありながら独創的なコンセプトが実装される社会の到来が楽しみだ。
【参照サイト】Goodyear Online Tire Store