人々の永遠のテーマである「美」。太古の昔から、多くの女性、そして男性までもが美を求めてさまざまな工夫を凝らし、化粧の文化を発展させてきた。いま、美しさを左右する要素の一つと言われているのが、肌のきれいさである。
2011年、中国の北京に住んでいたエストニア人のピレ・レンギは、せわしない生活と大気汚染による肌荒れに悩まされていた。いくらケアしても一向に良くならない肌荒れに、汚染された食べ物。そんな経験から、母国に帰った彼女が立ち上げたのは、自分自身の肌と環境にいいオーガニックスキンケアブランド「Tilk!(ティルク)」だ。
すべての商品が旅行に持っていきやすいサイズにデザインされており、どのような気候でも適応できるクリームだ。これまで英国のコスメ大賞「The Pure Beauty Award」やエストニアの「Anne & Stiil」「Buduaar」「Iluguru Iluteemant」など、数々の美容賞を受賞してきた。
Tilk! のテーマは、自分自身と自然な生活を大切にすること。素材のほとんどをピレの地元エストニアの島から調達しており、添加物を入れず、動物実験も行わない。Tilk!の“ナチュラルであること”へのこだわりはどこから来たのだろうか。本記事では、創設者のピレに話を伺った。
話者プロフィール:ピレ・レンギ(Pille Lengi)
エストニア出身。自然や旅を愛する起業家であり、4歳の息子と2歳の娘を育てる母。地元のサーレマー島のハーブを使ったオーガニックスキンケアブランド「Tilk!」を創立する。Tilkはエストニア語で「しずく」を意味し、さまざまなタイプの肌に合ったクリームを取り揃えている。
01. エストニアの自然を伝えたい、と願う
Q. 事業を始めようとしたきっかけは?
中国から帰国したとき、エストニアや私の生まれた島から世界に届けられるものは何か、と考えてみたんです。そこで気が付いたのが、エストニアの自然は実はとってもピュアだということ。エストニアは、世界で最も空気がきれいな国だと聞いたこともありますから(※1)。
私が住んでいたときの北京は、本当に空気が汚れていて。目の前の家すら曇って見えないほどでした。しかしココナッツオイルなど自然のプロダクトを使うようにしていたら、肌の調子がかなり良くなったんです。エストニアのきれいな自然で育ったハーブやハチミツを使って、わたしたちの肌に良いものを作りたいと考えました。
Q. 商品を作るときのこだわりを教えてください。
ひとつひとつの商品サイズを、あえて小さく作っています。これなら飛行機に持ち込むこともできるし、よりフレッシュな状態で使いきれるでしょ。数もあまり多くは一気に作りません。
包装にもこだわっていて、普段タリン(エストニアの首都)などにある店舗でわたしたちの商品を買うときはしっかりパッケージに入っているのですが、オンラインストアではパッケージの「あり・なし」を選べるようになっています。お客さんもそれで納得してくれているんですよ。森の清掃プロジェクトを行うNGOとも協力しています。
Q. とりあえず大量生産、はしないということですね。お客さんが納得してくれているというのが素晴らしいです。パッケージに入っているのが当たり前ではないと。
そう!基本的には注文されたら作る、という流れですね。理念に共感して商品を買ってくれる方も多いです。ナチュラルである、ということは、私たちにとってはごくごく普通のことなんですよ。
02. 美を追求するなら肌にも体にもいいものを
Q. どんな人がTilk!ブランドを買いに来ますか?
やはり、より自然に近いプロダクトを好む人じゃないでしょうか。エストニアではハーブが伝統的な薬に使われていることも多いので、コスメを通してより健康になりたい人とか。それに、やっぱり旅好きの人ですね!旅に持っていくにはぴったりの商品なので。
Q. 製品に使うハーブは、地元のサーレマー島で採られているとのことですが、地元経済に貢献するという目的もあるのでしょうか?
ええ、あります。地元でしか採れないハーブもありますし。いまは首都タリンに住んでいますが、いつかはまた地元で家族と暮らしたいと思っています。
ですが、最初はサーレマー島で小さく始めたビジネスがタリンに広がっていくにつれて、製造自体もタリンで行うようになりました。製品を作ってその場で売ることで、輸送の炭素も出ませんし、今すぐ商品が必要な人にも届けられます。
Q. とっても素敵ですね。最後に、ブランドを通して伝えたいことは?
ナチュラルでフレッシュな製品が、シンプルに肌と自分の健康に良いということをさらに広く伝えたいです。Tilk!創業当時は、エストニア国内でもこのアイデアを広めることはなかなか難しかったんですが、最近は人々の嗜好が変わってきています。わたしたちの製品に使うハーブやハチミツ、オイルなどはそのまま口に入れることもできます。あとは、旅に行くときに肌荒れの心配をしなくてもいい、ということもね!
※1 2011年のWHOの大気汚染調査より
編集後記
自分の過去の経験から、小さくも心強い“お供”を作り出したピレ。商品の製造においては、当たり前のように地球環境への配慮が行われている。肌をきれいにしたい、という多くの人の欲求を満たしながら地球環境や地元を大切にする彼女の姿は、無理をせずとても自然体に見えた。
人が美しさを求めることと同じく、自然でフレッシュな製品を選んでいくことがもっと当たり前になるといい。自分の体にいいものを選ぶことが、結局美しさへの近道になるのだから。
画像・情報提供:Pille Lengi – Tilk!
取材主催:CAITOプロジェクト(田園ツーリズムプロジェクト)
機材協力:フィンエアー