ビジネスで社会をよくしたい世界中の若者にチャンスを与える、デンマークのSDGsイノベーションラボ「UNLEASH」

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毎日放送されているニュースは気づけば流れていってしまう。一体私たちが住んでいる世界にはどんな問題が、どれくらいの数あるのだろう?

そう思っている人も少なくないのではないだろうか?

こういった日々流れていってしまう数々の社会問題をわかりやすくまとめているのが「SDGs(エスディージーズ)」だ。今世界では、この「SDGs」が盛り上がりを見せている。

SDGsとは、持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)の略で、国連に加盟する193カ国によって、2015年に全会一致で採決された2030年までの世界的な行動目標のこと。これは、世界中の学生、障がい者、先住民など、さまざまなセクターに所属する1,000万人のオンライン調査の意見をもとに作成されている。

SDGsは、「貧困をなくそう」「ジェンダー平等を実現しよう」「気候変動に具体定な対策を」など、大きく分けて17項目の分野のアジェンダに分かれており、それを詳しく説明した169項目のターゲットから成っている。

日本でもSDGsをもとに目標を定める自治体や、事業仕分けをする企業なども出てきているなか、幸福度、エネルギー、福祉の分野で先進的に取り組んでいるデンマークでは、いち早くSDGsを使った大きなイノベーションラボ「UNLEASH Lab(アンリーシュラボ)」が開催されている。

このラボを主催するのは、デンマークの非営利団体「UNLEASH」。この団体は、主にラボの運営とともに、ここで生まれたビジネスアイデアの実現化のサポートを行っている。

スポンサーには日本の「あしなが育英会」やデンマークのアパレル企業「BESTSELLER」、シンガポールの「TEMASEK」、世界糖尿病財団「WORLD DIABETES FOUNDATION」などが名を連ね、200以上のパートナー企業から成るとても大きなイベントだ。

UNLEASHが、大々的なラボを始めたその理由とは?

UNLEASHがこのような大きなラボを始めた理由。それは、SDGsのための新しいソリューションに対する大きなニーズがいたるところにあるからだ、とUNLEASH運営スタッフは話す。

2030年までにSDGsのすべての目標を達成するには、大きな資金が必要となりますし、目標を達成するための多くのソリューションを見つける必要があります。そういった新しいソリューションを持つ企業の多くは、30歳未満の人々から起こっていることがわかっているため、私たちは若者を多く選出しラボを開くのです。

そういったミレニアル世代は、サステナビリティに大きく関心を寄せていますし、より公正で平等な世界を見たいと思っているので、SDGsの実現性をより高めることに繋がると私たちは考えています。


社会的インパクト投資やテクノロジー革命の文脈でも、「ミレニアル世代」が中心となってムーブメントを牽引していることが多い。そこでUNLEASHは、まだプロジェクトを持っていない若者たちが、自分たちと向き合うことができる場や、意思を持った世界の人々と繋がる場、企業セクターの人たちとセッションができる場を提供することで、より社会的イノベーションを促進していくことを目指している。

129ヵ国の若手イノベーター1,000人が集合。UNLEASHが標すイノベーションへの道のり

Photo by Højskolen Østersøen

昨年8月に開催された『UNLEASH Lab 2017』では、129ヵ国の若手イノベーター1,000人が集まった。日本からも5人が参加している。主な参加者は、20〜30歳の学者、起業家、技術者など。

集まったイノベーターたちは、10日間に渡って次の5段階のプロセスに沿ったプログラムに参加する。

  1. PROBLEM FRAMING(問題をフレーミングする)
  2. IDEATION (アイディアを出す)
  3. PROTOTYPING (試作)
  4. TESTING(テスト)
  5. IMPLEMENTING(導入)


ラボ1日目はオープンニングセレモニーや基調講演に参加。2日目は、参加者一人ひとりが自分のなかにある社会に対する問題意識と向き合う時間が用意され、その後明確になった問題意識をもとに、グループ分けが行われる。

そして3日目、参加者は地元団体や企業を訪れるといったアクティビティに参加したり、グループごとに「自分たちが思う問題は、誰にとって問題なのか?」「解決したら社会的インパクトはどれほど起きるのか?」といったことを議論していくのだ。

プログラム後半では、それぞれのグループテーマに合った「フォルケホイスコーレ」へと分かれていき、具体的なソリューションを考案するためにアクティブラーニングと対話を繰り返していく。

Photo by Astrid Maria Rasmussen

フォルケホイスコーレとは、デンマーク発、公教育から独立した全寮制の成人教育機関のこと。デンマークの民主主義の礎を築いたとも言われている、グルントヴィーの教育観「生のための学び」を元に創設された学校で、「サステナビリティ」「スポーツ」「福祉」といった多様なテーマを持った学校がデンマークだけで68校も存在する。

ラボ10日目には、完成したプロジェクトのプレゼン大会を開催。このプレゼン大会で、参加者は企業からのフィードバックをもらうことができる。

UNLEASH Lab 2017では、SDGsのアジェンダのなかでも、「教育とICT」「エネルギー」「健康」「食糧」「持続可能な消費と生産」「都市の持続可能性」「水」といった7つのテーマに沿った197ものソリューションが誕生した。

Photo by Alex Luka Ladime

日本人がチームに入っていたソリューション事例を紹介すると、ひとつに、世界でも問題視されているプラスチックゴミを解決する再生可能なラッピングReusable Smart Pallet Wrapping(リユーザブル・スマート・パレット・ラッピング)」がある。すでに存在はしているが世間に広まらない再生可能なラッピングの課題点には、価格の高さがあるため、初期費用を低く設定した。

さらに、1,000回まで再利用が可能となっており、これが製品化されれば、プラスチック廃棄物の95%の石油使用量と、80%のCO2排出量、環境負荷を50%削減できる。現在Climate-KIC Nordic(クライメイト-ケイアイシー・ノーディック)からの資金を獲得し、プロトタイプを製作中だ。

もうひとつは、建築材の情報ツール「Recovering Giantsリカバリング・ジャイアンツ」。こちらは、地震などで出た瓦礫の量と場所を評価し、そこで出た廃材に値段をつけることで、災害後の復興のスピードを早めるという革新的なソリューションだ。

現在採用されている建築設計のほとんどは、分解に配慮せず、組み立ての容易さだけを意識した設計のものが多いことが問題視されているなか、こういった設計によって使用されている建築資材をうまく活用するエコシステムを確立する予定だ。

さらに、リサイクル可能な建築資材を最大限に活用するための戦略を提供し、大量の廃棄ゴミや二酸化炭素排出量、エネルギー消費量の問題も解決に導く。現在、ビッグデータとアプリケーション開発が可能な企業を探しているところだ。

Photo by Astrid Maria Rasmussen

優秀なソリューションアイディアを評価する表彰式も開催された。「Reusable Smart Pallet Wrapping」は金賞、「Recovering Giants」は銅賞を受賞。

ここで生まれたソリューションは、ビジネスになるまでUNLEASHや世界中の投資家、メンター、専門家など、200以上のパートナーによってサポートされながら、今もなお進められている。

ダイバーシティからイノベーションが生まれる

Photo by Astrid Maria Busse Rasmussen

さらにUNLEASHのラボでは、さまざまな地域・性別・文化的背景を持つ人が集まるよう、“ダイバーシティ”を意識して参加者を選出している。

私たちはそれを考慮していないソリューションに出会うことがよくあります。しかし、そういった特定の人やグループ向けに作成されたソリューションでは、他国や他文化へスケールアップすることは難しくなります。

異なる地域に住んでいる人や異なる背景を持つ人々の支持を得た、実際にスケールできるプロジェクトをつくることは、インパクトを与えるという点でも重要になってきます。

またUNLEASHのラボは、才能ある人々が、他の文化や宗教、信念、生活様式を学ぶ方法でもあります。これは、より平和な世界を創造する上でとても有意義なことです。ラボを開くことは、SDGsアジェンダ16の平和、正義、包摂的な制度の構築の一部でもあるのです。

日本からラボに参加した石井挙之(いしいたかゆき)さんは、こういった人種が異なる人との関わりのなかで、社会問題の解決に対する発展途上国と先進国の緊急性の違いを身をもって感じたと話す。

Photo by Tomohisa Kawase. 石井さんは現在は地域プロジェクトとして職人とのコラボレーションを実現する「仕立屋と職人」を主宰、滋賀県を拠点に活動中。今回は母校である武蔵野美術大学がUNLEASHとパートナーシップを結んでいたことから、推薦でラボに参加することになったそう。

発展途上国の人は、先進国の僕らが出す課題の着目点や解決策とは、全然違うアプローチを持っていました。アフリカの人は、明日には解決しないと命に関わる課題が多いこともあって、そもそもの熱量が違う。

日本では自分の明日にそこまで影響がないように見えてしまって、自分とは遠くに感じるトピックはそのまま流れ、普段の生活を続けられてしまう。日本の難しい点は、問題や課題をどれくらいの人が当事者として感じていて、それをどうやって伝えられているだろうか?だと思います。

日本でも「アイディアソン」や「ハッカソン」は盛り上がりを見せているが、こういったイベントで定義されている “ダイバーシティ” は、必ずしもすべてのセクター、他国の人が入っているとは言えないのではないか。

これからオリンピックを迎える日本において、より広義の “ダイバーシティ”を意識したサービスやまちづくりは必要となってくる。そこで活躍するのは、今を生きる若者たちだ。いかに彼らのアイデアや感覚を埋もれさせない仕組みがつくれるか。

UNLEASHが開催するラボには、私たち日本が学ぶべきことがたくさんあるのではないだろうか。

記事提供者プロフィール


松尾沙織(まつおさおり)
震災をきっかけに社会の持続可能性に疑問を持ち、アパレル企業を5年で退社。現在はライターとして、さまざまなメディアで「SDGs」や「サステナビリティ」の記事を執筆。また、国際環境 NGO 350.org Japanの「ダイベストメントコミュニケーター」として、気候変動の問題を広める活動をしている。