男女の経済的な潤いには、どの程度の差があるのだろうか。アメリカ労働統計局の2018年第4四半期のデータによると、フルタイムワーカーの女性は男性の80%の賃金しか得ていないという。民族別に、男性の賃金と比べた、女性が得ている賃金の割合を見ると、白人女性が80%、黒人・アフリカ系アメリカ人女性が86%、アジア人女性がが75%、ヒスパニック系・ラテン系女性が83%となっている。
シカゴ現代美術館は、このような男女間賃金格差を受け、新たな料金体系を発表した。本来であれば入場料が通常15ドル(約1,600円)かかるところを、性差による賃金格差で不利益を被っていると感じる人であれば誰でも12ドル(約1,300円)で入館することができるという。この金額設定には、男女間賃金格差である80%が反映されている。
この料金体系は、「Laurie Simmons: Big Camera/Little Camera」という展覧会開始直後の2019年2月24日から展覧会が終了する2019年5月5日までの間適応される。Laurie Simmons氏は1949年生まれの女性フォトグラファーで、その作品はアメリカのホイットニー美術館、オランダのアムステルダム市立美術館、日本の原美術館などにも置かれている。
シカゴ現代美術館が、Laurie Simmons氏の展覧会の時期に男女格差を意識させる取り組みを行うのは、決して偶然ではないだろう。2018年7月に公開されたVOGUEのインタビュー記事で同氏は、「私の作品に対する評価は政治、心理学、個人的な側面など様々な文脈において行われている」と話しているが、20年ほど前はフェミニストのアーティストとして紹介されることが多かったという。
また金沢21世紀美術館のサイトには「彼女の作品世界は、1970年代ニューヨークにおいてはフェミニストの文脈で解釈されてきたが、現代社会の混沌とした模様を日常のレベルから映し出す革新的な作家として再評価できる」と書かれている。男女の政治的、経済的、社会的な平等を信条とするフェミニストと、男女間の賃金格差問題は結びついている。
同美術館の取り組みに対してどう反応するかは、来場者次第だ。12ドルの入場料を払って男女平等について考える女性もいれば、通常料金の15ドルを支払う女性もいるだろう。連れの男性に入場料を全額出してもらう女性もいるかもしれない。これは個々人の趣味や信念、そして巡りあわせの問題だ。どの行動が正しいかに、正解はないと思っている。
【参照サイト】 The Museum of Contemporary Art in Chicago Is Lowering Admission Prices for Those Affected by the Gender Pay Gap
【参照サイト】 Interview with Laurie Simmons
【参照サイト】 金沢21世紀美術館「ローリー・シモンズ」