新しくプロダクトを開発する際、アクセシビリティを考慮した設計がされるようになってきている。2018年夏にはマイクロソフトが、手足が不自由な人を含む幅広い人々が簡単に操作できるXBoxコントローラーをリリース。他にも、街に日本語の案内しかなく訪日旅行客などが苦労するという意見が出たことで、行政や事業者が複数の言語で表示し、交通インフラやサービスにアクセスしやすくするなどの努力を行っている。
しかし、視覚障がい者を取り込む完璧なインクルーシビティを達成することは困難を極める。標識はおろか、景色すら目視することができない人々にとって、視覚以外を使う点字や音声認識などのコミュニケーションツールは必須だが、点字は、街のいたる所にあるわけではない。
アメリカのスタートアップ Vraillerによると、その点字の普及を阻む要素の一つとして、点字をつくる「点字プリンター」が特殊な機械であり、非常に高価であることがあげられるという。同社は、そんな問題を解決するため、手ごろな価格で使いやすい点字プリンターを開発した。薬のラベルや、名刺など、あらゆる身近な情報を点字にして貼り付けることが可能だ。
「Vrailler」と名付けられたこの点字プリンターは、ポケットに収まるほどの大きさで、点字のステッカーをつくるのに必要なキットが入っている。定価50米ドルに割引適用で35米ドルという値段は、従来の点字プリンターが1,000米ドル以上が相場ということを考えると、けた違いに安いことがわかる。
コンパクトなためどこにでも持ち運ぶことができて、動力に電源も不要だ。プリントする工程は、手作業で完結し、誰でも気軽に点字ステッカーをDIYできる。
Vrailler社は、「点字プリンターは特殊で使いにくく、アクセスしづらく、高価であるべきではない」と主張している。
近年の厚生労働省の調査によると、日本では視覚に障がいを持つ人々のなかでも、点字の実際の使用率は10パーセントに満たないという。ただ、これまで手の届きにくかった点字プリンターをもっとシンプルで身近にするという取り組みは画期的だ。クラウドファンディングプラットフォーム Kickstarterでも多くの支持を集めていた。
この点字プリンターをつかって身近なものを点字にしてみることで、それを見かけた健常者にとっても点字がもっと身近になるだろう。そこには「見えない効果」もある。点字を読み書きできるようになればベストだが、いっとき目を瞑って点字を指でなぞってみるだけでもいい勉強になる。
最初は突起があるだけで文字という認識を得るのは難しい。この苦労を理解するだけでも、視覚障がい者への思いやりを生むよいきっかけになるだろう。
【参照サイト】Vrailler: Affordable DIY Braille Label Kit to Learn Empathy
【参照サイト】THE WORLD’S EASIEST AND MOST CONSUMER-FRIENDLY BRAILLE PRINTING KIT
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