投資総額27億円。GoogleがAI×社会課題解決プロジェクトへのサポートを開始

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2015年時点で日本のAI(人工知能)関連の国内市場規模は3.74兆円と推計されている。2030年には86.9兆円に成長すると予想されており、現在観光業の市場規模が4兆円、電気機器は83兆円の市場規模であることを考えると、人工知能がビジネスと日常生活に与えうる影響は計り知れない。

日本だけでなく全世界で人工知能をめぐるビジネスが盛り上がる中、Googleは人工知能を使って社会課題解決を促進する総額27億円規模のプログラムを開始した。

このプログラムは、Googleが世界中から有望なビジネスアイデアを募集し、選考で選ばれたプロジェクトをサポートする形式だ。人工知能を使って社会課題を解決するアイデアの公募が2018年の冬に開始され、119か国からの応募のうち、20プロジェクトが助成対象として採択された。採択されたプロジェクトには事業資金が助成されるだけでなく、Googleの専門家によるハンズオンでの事業支援や、Googleのサービスを使った開発環境が提供されるなどサポート体制は手厚い。

選ばれた20のプロジェクトは、米国のものが最多で9個あるほか、コロンビア、インドネシア、レバノン、ウガンダといった国のプロジェクトもみられる。分野も農業や環境保護、医療や教育のみならず、手話やフェイクニュース対策、メンタルヘルスや難民支援など多岐にわたる。今回は分野ごとにそれぞれのアイデアを見ていこう。

農業

農業のプロジェクトは、インドとレバノンの2か国から選出され、いずれも生産性向上を目指したものだ。

AI×Google

Image via ShutterStock

インドの「殺虫剤削減」プロジェクトは、農場の写真を撮るだけで害虫のおおよその数が予測できるモデルを構築し、過剰な殺虫剤の使用削減を目指す。レバノンの「農業用水確保」プロジェクトは、天候や農場の状態から効果的な水やりのタイミングを通知し、農業用水使用の効率化を図ることで水不足を解決する狙いだ。

地域の安全

コロンビアは、違法な鉱山採掘による大気や水資源の汚染、そして地域住民への健康被害といった課題を抱えている。そこで「違法鉱山発見」プロジェクトでは、衛星写真から違法な採掘を効率的に発見して、政府や自治体による調査や措置につなげる。アメリカのペンシルバニア州立大学の「地崩れ予報」プロジェクトは、過去の地崩れのデータから将来の地崩れの場所、時間、規模を予測するシステム構築を目指している。

環境保護

インドネシアで「ごみのリサイクル率向上」を目指すプロジェクトは、画像から正確にゴミを分別できる安価なツールを開発し、ゴミ処理業者への導入を進めて国全体のリサイクル率向上を目指している。

他にも、世界中で問題となっている森林伐採に対して、音声認識の活用で解決を目指すアメリカ発の「森林監視」プロジェクトも採択されている。森林内に音声を認識できるデバイスを設置して周辺の音を拾い、違法伐採や異変を感知する仕組みだ。

今回唯一アフリカから選出されたウガンダの「大気汚染予報」プロジェクトでは、安価な空気汚染センサーを街中に設置し、大気汚染の予報を可能にすることを目指す。

また全世界への展開を目指すアメリカの「発電所監視」プロジェクトも、発電所の環境負荷に対してコストを抑えた形でモニタリングの実現を目指す。画像から発電所の排出物をモニタリングし、高価なシステムが導入できない国でも発電所の環境負荷を可視化する。

医療

医療分野では、情報伝達の効率化や医療資源の効果的な保存・使用に関するプロジェクトが見られる。

アメリカの「救急車出動時間の短縮」プロジェクトでは、事故の発生条件に合わせて救急出動を効率化する。他にも同国発の「抗生物質推奨アプリ」や「ワクチン保存監視」プロジェクトでは医師の診察と処方のサポートやワクチンの保管と運搬方法の改善といったアイデアが選出された。

教育

教育分野でもアメリカ発のプロジェクトが選出された。教師の多忙を解決するために、学生の提出物を自動で評価する「文章自動添削」プロジェクトや、多忙な親と教師の関係性や信頼感を向上させる「教師と親のコミュニケーション支援ガイド」を提供するなど、業務の効率化が注目されている。

福祉や社会制度

福祉や他の分野でも先進的な取り組みが多数みられる。ブラジルの「自動手話翻訳アバター」は音声情報を手話に「翻訳」するスマホ内のアバターだ。アメリカ発のプロジェクトである、テキスト分析を活用する「自殺予防相談の自動マッチング」と「LGBTQ向け自殺予防チャット」はいずれも、送られたチャット文面から相談者の状態を自動で判断できるシステムの構築を目指している。

AI×Google

Image via ShutterStock

言語を自動で判断する仕組みは、イギリスの「ファクトチェックアシスタント」とスイスの「弁護士アシスタント」の2プロジェクトでも見られる。前者はニュースや情報のファクトチェックの一部を自動化し、後者は法律や証言などの文章データの分析とデータ間の関連性の判断を自動化する。いずれも業務を効率化して、より人手が必要な仕事への注力を可能にする取り組みだ。

この他にも、救急搬送された自殺未遂者のカルテを分析して自殺予防に役立てるオーストリアの「未遂者医療情報の分析」や、難民の経歴やスキルから就職へのアドバイスを得られるオランダの「難民の就職支援」といったプロジェクトも見られる。

成功の鍵は、データ収集

いずれのプロジェクトも、画像や音声、文章や決められた項目のデータから予測モデルを構築することを目的としたプロジェクトであり、モデル構築のためのデータ集めが成功の鍵を握る。

今回のプログラムは事業資金だけでなく、事業への定期的なメンタリングも提供するなど、Googleが事業の根幹まで関わる。人工知能の実社会での活用はまだ始まったばかりであり、Googleは社会課題解決分野でリードしたい狙いがあるだろう。このプログラムから、社会課題解決のスタンダードとなる事業が生まれるか注目だ。

【参照サイト】Google・Impact Challenge
【参照サイト】EY Institute