行動を起こすのは、自分のため。英コスメブランドLUSH・創立者が考える、「地球に住みかを借りる」私たちがすべきこと

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2019年6月、新宿にアジア最大のLUSH旗艦店がオープンした。新鮮なオーガニック素材を使用したハンドメイドコスメを提するコスメブランド・LUSHは、1995年に英国で誕生。創立当時から化粧品の動物実験廃止を訴えており、パッケージを必要としない固形商品を開発したり、エシカルな原料調達にこだわったりと「人・動物・環境に配慮したビジネス」を展開してきた。

IDEAS FOR GOOD編集部は今回、新宿店のオープンに際し来日していた共同創立者の1人ロウィーナ・バードさんに取材を行うことができた。日々、商品開発担当として地球や社会に配慮したモノづくりを行っている彼女は、私生活でも精力的にエコ活動を行っているという。ロウィーナさんの活動の源泉はどこにあるのか?普段どんなことに想いを馳せているのか?お話を伺った。

話者プロフィール:ロウィーナ・バード

早くから美容業界に身を置き、ビューティー・セラピストの資格を取得。その後、のちのラッシュの創立者となるクリエイターらが立ち上げた通信販売のブランドである「Cosmetics To Go(CTG)」を経て、共同でLUSHの創立に至る。カラフルな“色”を用いて、様々な商品に命を吹き込むように数多くのベストセラーを開発。2012年には、ラッシュにとって初めてのカラーメイクアップ商品「Emotional Brilliance」を開発。商品開発のみならず、海外のビジネスパートナーの開拓や、LUSH SPAの開発や統括、ブランドのグローバル展開をも担う。2014年10月より、ラッシュジャパンの代表取締役に就任。

※以下、すべてロウィーナさんの発言。

誰かが何とかしてくれるのを待たない

私は常にマイカップ、マイバッグ、マイストロー、マイカトラリーを持ち歩いています。「タンブラーを忘れた日はコーヒーを買わない」というマイルールがあるので、忘れないようにとても気をつけていますね。(笑)

ロウィーナ・バードさん

ロウィーナ・バードさん

私は、この10月に還暦を迎えます。地球に生まれて60周年という節目の年です。「何か大きな意味のあることをしたい」と思い、自分にできることは何なのだろうと様々な考えを巡らせていました。

私には、普段から感じていた強い憤りがありました。私たちはこんなにも美しい地球に生きています。それなのに、人間が使ったパッケージがゴミとなり、美しい環境を汚してしまっている。そんな状況には耐えられない!そう私は思い続けてきました。ですが、よく考えてみるとこれまでの私は「ビーチにゴミが残されているなんて嫌だな」と思うだけで行動を起こしていなかった。それは良くないことだと気が付きました。そして、60周年に行う個人的プロジェクトとして「海岸沿いのゴミを1トン拾おう」と決めたんです。

毎朝夫と散歩しながらゴミを袋に集め、その重さをはかることにしました。最初に集めたゴミの重さをはかってみると、なんとたったの1キロでした。目標の1トンまで、まだ残り999キロ!遠い道のりだと思いましたね。すると、それを見ていた弟が「その活動、バズらせたらいいじゃない!」と声をかけてくれたんです。

LUSHの人々にこのカルチャーが広がっていったらどうなるだろう?と想像しました。LUSHで働く仲間の数は20,000人以上。皆が1人1キロずつゴミを拾ったら──!そう考えるとわくわくして、すぐ実践せずにはいられませんでした。

現在、世界中のLUSHメンバーたちがビーチや公園、道路のゴミ拾いを行っています。この活動は#plasticgrab(ハッシュタグ:プラスチック拾い)という名で各地に広まっており、これまでに拾ったゴミの総量は20トン近くになります。英LUSHのアースケアチームがたてた次の目標は、皆で60トンのゴミを拾うこと。個人ではじめた活動が、今やこんなに大きなプロジェクトになるなんて!とてもエキサイティングですよね。

窪田さんとロウィーナさん

アースケアチームの窪田とも子さん(左)と談笑するロウィーナさん(右)|窪田さん「日本でも#plasticgrab活動を始めようと計画中。この前、ちょっとした計算をしてみたんですよ。LUSHジャパンの従業員で1トンのゴミを拾うには、一年に、1人当たりたった600グラムのゴミを拾えばいいということになります。これをペットボトルに換算すると、24本。つまり、1人が月にペットボトル2本分のゴミを集めたら、全員で1トン分のゴミを集めることができるんです。そう考えると、自分にもできそうな気がしませんか?」

美しい貝殻のビーチ……?

ある休日私は、南アフリカとブラジルの間に位置する小さな島・セントヘレナ島を訪れていました。島にある火山の影響でセントヘレナの砂は黒っぽい色をしていると聞いたので、ぜひ見てみようと島に1つしかないビーチを訪ねたんです。遠くから眺めると、ビーチにたくさんの貝殻が落ちているのに気づきました。私は、その素敵な光景にわくわくしながら浜辺に近づいていきました。そして気づいたのです。「これは貝殻じゃない」と。貝殻に見えたものは全て小さなプラスチックのかけらでした。これらはナードルと呼ばれるもので、プラスチック製品のもととなるビーズ大の合成樹脂です。2017年、南アフリカのダーバン沖で、船から大量のナードルが流出する事故がありました。そのときに海に流れたナードルが漂流しつづけ、セントヘレナ島までたどり着いたのです。

そんな衝撃的な発見をした次の日、私は夫と二人で金属製のふるいを持ってビーチに行ったんです。ナードルはふるいの目よりもかなり大きかったため、砂から取り除くのは思ったよりも簡単でしたね。持って行った袋は、すぐにいっぱいになってしまいました。

ナードルの画像


ナードルは、別名「人魚の涙」とも呼ばれる。Image via shutterstock

考えるべきは、魚たちがこの小さなプラスチックを食べているということ。マイクロプラスチックは、魚の体内でも分解されることはありません。そして、私たちはそのプラスチックごと魚を口にしているということです。

廃プラスチック問題の責任は私たち全員にあります。製造業者は「プラスチックを過剰に生産している」という点で、消費者は「プラスチックで過剰に包装されたものにお金を払っている」という点で──一人ひとりに責任があるのです。製造業者は代替品を考えなければなりません。消費者は「包装はいりません」とはっきり言わなければなりません。どちらか一方が頑張ればよいということではないのです。私たちは「互いに影響しあって」徐々に余剰なプラスチックの使用量を減らしていかなければならないのです。

プラスチックって、最初は生活を良くする便利なものとして開発されたわけですよね。食品衛生を保ったり、乗り物の機体を軽くしたり……様々な良い使いみちがあったから生まれたんです。ですが、今の時代は「間違った使い方」がされてしまっていると思うんです。本来、包装する必要ないものまで厳重に包んでしまっている。こういった使い方は、生活を良くするモノの使い方だとは言えませんよね。これからは、どうしても必要な場面でだけ使用するスタイルに移行していかなければならないのです。

私たちは、私たちのために、行動を変える

環境保護が叫ばれていますが、環境活動は「地球がかわいそうだから面倒だけどやらなければいけない」ものだと思ってはいませんか?だとしたら、それは大きな間違いです。私たちが破壊しているのは、地球そのものではありません。「地球上の『私たちの居場所』」を破壊しているのです。

環境破壊の画像

Image via shutterstock

私たちは地球上の小さなバクテリアにすぎません。人間が誰一人いなくなったとしても、地球は存続していくはずです。恐竜が絶滅したときと同じです。自分たちがここで生き続けるために、自分たちのためにこそ行動を起こさなければならないのです。私たちの世代まではギリギリ大丈夫かもしれません。でも、次の世代や次の次の世代はどうなるのでしょう?自分勝手に、未来のことなんて考えずにいる。でも自分勝手になるのをやめて、いまこそ変えるべきときです。2050年にはプラスチックの重量が魚の数よりも多くなっていると言われています。行き場のなくなったゴミが海に溢れて、31年後には、ゴミの海の上を歩いて国と国の間を移動できるようになるかもしれません。

そんな形で世界がつながったところなんて、見たくないですよね。これまでの歴史を見ると、人間はギリギリまで行動を起こさない性質があるようですが、このままでは本当に手遅れになってしまいます。あとたった31年しかないんです。

だからまず、毎日ひとつ、違いをうむ何か小さなことをしてみてください。ストローを断る、マイバッグを持参する、ポイ捨てされていたゴミを拾う……そういった小さなことでいいんです。小さな行動がゆっくりと少しずつ、大きな潮流を形づくることになればいいな、と思っています。

毎日、ひとつでいいんです。できることから始めていきましょう。

ロウィーナさん

毎日、小さなことを一つずつ。

編集後記

ペールピンクに染めたヘアに、鮮やかなピンクリップ。青と緑のストライプ柄ドレスに、イエローのネックレス。カラフルなアイテムを身に纏って登場したロウィーナさん。彼女の内側からハッピーでパワフルなオーラがにじみでているように感じられた。「色が心にもたらす影響の大きさ」を信じる彼女は、いつでも身に着けるアイテムのどこかにカラーを取り入れることしているのだという。取材中、筆者が「日本では、ピンクは若者の色という風潮があって、ピンクが好きでも身に着けられない大人が多い気がします」とこぼしたところ、ロウィーナさんはすぐさまこう返してくれた。

誰に何を言われたって、ピンクが好きなら身につけたらいいんです!これはあなたの人生であって、他の誰のものでもありません。「正しい/正しくない」なんて、他人や社会に勝手に判断させてはだめ。メイクをするのだって、社会でそれが望ましいとされているからではなくて、あなたがしたいからするというのが正しいはず。1回きりの人生、すべての瞬間を楽しんで。自分が本当に好きなことをすればいいんですよ。

LUSHの社員は、環境なり人間なり動物なり対象はそれぞれ違えど「何かへの熱い情熱を持っている」人ばかり──ロウィーナさんはそう語っていた。彼女の周りにそんな仲間が集まってくるのは、誰よりもロウィーナさん自身に溢れんばかりのパッションがあるからなのだろう。取材の間の短いひと時でも、彼女からフレッシュでハッピーなパワーを受け取ることができた。きらきらと輝く瞳と、大きな笑い声、尽きることのない探求心──美しくいきいきと年を重ねるロウィーナさんと、彼女のフィロソフィーが詰まったLUSH。これからどんな未来を作っていくのだろうかとわくわくする。

【参照サイト】LUSH UK
【参照サイト】LUSH JAPAN
【参照サイト】#plasticgrab
【参照サイト】ロウィーナ・バード インスタグラム

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