ボーダレス・ジャパンに聞く、ソーシャルビジネスを成功に導く考え方

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社会課題の解決を目的としてビジネスを展開する「ソーシャルビジネス」。最近ではソーシャルビジネスをはじめる起業家、いわゆる「社会起業家」も珍しくなくなったが、社会性と事業性を両立させるのは決して簡単なことではない。

そんななか、「ソーシャルビジネスで世界を変える」をミッションに、2007年の創業以降わずか13年で29の事業を展開し、日本、韓国、台湾、バングラデシュ、ミャンマー、ケニアなど世界9か国へ活動の幅を広げているのが、ボーダレス・ジャパンだ。

同社は2018年のグループ売上が40億以上、正社員約880名を含む1,000名以上の雇用を実現するなど、すでに大きな社会・経済的インパクトを生み出しており、世界を変えたい社会起業家のプラットフォームとして存在感を示している。

そのボーダレス・ジャパンに創業初期から関わり、同社の成長を支えてきたメンバーの一人が、ボーダレスグループの一員であり、バングラデシュの貧困地域で暮らす親の雇用創出、児童労働の撲滅を目的として子供服ブランドを展開している株式会社サンデーモーニングファクトリーの牛房義貴さんだ。

サンデーモーニングファクトリーは2017年3月に創業した比較的新しい事業だが、すでに黒字化を達成しており、社員も8名に増えて受注・出荷のスタッフも含めると15名程度の規模まで拡大している。今回は、牛房さんにソーシャルビジネスを成功させるうえで重要となる考え方や、社会起業家が悩むことが多いポイントについてお話を伺ってきた。

ビジネスとソーシャルビジネスの違いとは?

最大の違いは、その「目的」にあります。一般的なビジネスは利益を最大化することが目的ですが、ソーシャルビジネスは「社会問題を解決すること」が目的です。例えば、貧困、地球温暖化、差別偏見、少子高齢化など、取り組む問題の領域は多岐にわたります。

例えば、ボーダレスグループで妊娠・授乳期のママのためのハーブティー・アロマオイルブランドを製造・販売しているAMOMA natural careの事業目的は、ミャンマーでたばこ栽培の農薬被害に苦しむ貧困農家の問題解決です。

ハーブティーを売りたいから事業を始めたのではなく、自分たちだけでは解決できない問題に苦しんでいるミャンマーの農家さんの生活を豊かにしたいからやっているというのがポイントで、ビジネスはあくまで手段なのです。なのでソーシャルビジネスをやるうえで、ビジネスモデルはいくら変わってもよいと思いますが、私たちが”ソーシャルコンセプト”と呼んでいる、「なぜやるのか」という部分はぶれてはいけないと考えています。

株式会社サンデーモーニングファクトリーの牛房さん

プロダクトの背景はどこまで消費者に伝えるべきなのか?

ボーダレスグループでは、プロダクトの背景の伝え方は統一せず、各社がブランドをどう育てたいかによって判断します。サンデーモーニングファクトリーの場合は、積極的には伝えていません。「バングラデシュの人を助けたいから買ってください」ではなく、「よい商品だから買ってください」というスタンスで臨んでいます。

実際私たちの商品を購入してくださるお客様は、バングラデシュのストーリーを知らない人がほとんどで、どのような理由で買ってくださっているかというと、一番は「デザインがかわいい」という理由です。無理に背景を語る必要はないのかなと思います。

サンデーモーニングファクトリーの子供服。可愛いデザインが特徴

ソーシャルビジネスを成功させる要因は?

一番は、提供する商品やサービスが本当に「自分が欲しいものかどうか」という点ではないかと思います。ソーシャルビジネスの目的は社会問題の解決ですが、あくまでお客様がいるビジネスなので、お客様が求めていないものを提供しては利益が出せません。つまり、事業が存続できず、社会課題の解決にもつながりません。そのため、顧客マインドで「自分が欲しいものかどうか」をしっかり考えます。

次にビジネスモデルが重要となります。何のためにやるのかという”WHY”の部分がソーシャルコンセプトだとすると、どうやってそれを実現させるかという”HOW”の部分にあたるのが「ビジネスモデル」です。

サンデーモーニングファクトリーの場合、ソーシャルコンセプトは「バングラデシュの貧困地域で暮らす親の雇用創出と児童労働の撲滅」です。児童労働を撲滅するためには親に仕事を作ることが重要だと考え、そこから縫製業というビジネスモデルにたどり着きました。縫製業は人が手作業で縫わないといけないため、人手が必要になるからです。バングラデシュの工場では現在約60人が働いています。

また、普通は利益を出すために少しでも商品仕入れ時の原価を抑えようとしますが、私たちの場合は少しでも多く雇用を創出したいので、自社工場での縫製費用も含めた商品仕入れ時の原価を上げたいという気持ちもありました。もちろん原価を高くすると売値も高くなりますが、それでも喜んで買ってもらえる商品は何かと考え、ギフト市場に狙いを定めました。

お名前タグ。少しでも長く着てもらうため、お下がりに対応できるようになっている。

ソーシャルビジネスの現場は普通のビジネスとどう違う?

あえて「非効率」にしていることだと思います。例えば製造業の場合、普通のビジネスで工場を運営すると、できるだけ人件費や土地代を抑えるために最新の機械を導入し、作業工程もできるだけ簡素化します。

一方、ソーシャルビジネスは目的が利益を出すことではなく雇用を創ること、子供により良い未来を作ることになるため、できるだけ多くの人が作業に関わることができる方法を考えます。

また働く人々の幸せを第一に考えるため、目指すのはあくまで「大きな工場」ではなく「よい工場」です。例えば、工場を大きくするとその地域の人たちだけでは人手が足りなくなるため、遠くの地域から通勤してもらわなければならなくなるため、労働環境としてもよくありません。

賃金も手当なども含めると相場より高くなっています。通常、工場勤務は単純作業を繰り返すため他のスキルが習得できず、一年たっても二年たっても昇給もなく、同じ状況が続いてしまいます。しかし工場で働く母親は子供の成長に応じて教育費も必要になります。

そこでサンデーモーニングファクトリーでは、自社工場のメンバーのキャリアに応じて給料も上げていきたいなと考えています。これからは託児所なども創りたいと思っていますし、給与体系の整備や有休の用意なども考えています。

バングラデシュにあるサンデーモーニングファクトリーの工場

ソーシャルビジネスに原体験は必要なのか?

個人的には、原体験は必ずしも必要なものではないと考えています。サンデーモーニングファクトリーも、現地には行っていますが、もともとメンバーが児童労働のために何かをやっていたわけではありません。原体験が強烈な原動力になることはあっても、それはマストではないのではないでしょうか。ソーシャルビジネスも、結局のところは「やりたいからやっている」のであって、その理由は「事業が好き」でも「一緒にやっている人が好き」でもよいのではないかと思います。

SDGsについてはどう考えているか?

そうですね。もともと社会問題を解決したいという思いをもって始めているので、SDGsを特段意識はしておらず、結果として当てはまっている感じですね。たとえばサンデーモーニングファクトリーの場合、こどもによりよい未来を残したいという想いから環境やサステナビリティを意識しており、具体的にはバングラデシュから日本への輸送時や宅配時にCO2が出るため、カーボンオフセットをはじめています。

また、工場で使用する電力もなるべく自然電力で賄えるよう取り組みを進めているほか、商品も長く使えるようにしようということで、お下がりを推奨するために3人分の名前タグをつけています。製品もオーガニックコットンをインドからバングラデシュに輸入しており、農薬を使っていないので健康にもよいものを作っています。

ボーダレス・ジャパンが成長し続けている理由は?

「あきらめない」「修正力がある」そして「気持ちのよい人が多い」という点ではないでしょうか。ここでの「気持ちいい」とは、自走できる人であり、利他的な人という意味です。また、ボーダレス・ジャパンには「Something New(何か新しいこと)」「Eco First(環境を最優先)」「Family Work(家族のように働く)」という3つの標語があります。ビジネスは一人でできるわけではありませんが、我々はファミリーなので厳しいことも言い合えますし、自分だけよければよいという考えではなく、チームのために頑張れる人ばかりです。

左:牛房義貴さん、右:サンデーモーニングファクトリー代表の中村将人さん

まとめ

ボーダレス・ジャパンの創業期から会社の成長を見てきた牛房さんとお話をするなかで印象的だったのは、どの質問を投げかけてもすぐに牛房さんなりの明確な回答が返ってきたことだ。どの質問も、問いかける相手によって答えが変わる可能性はある。しかし、ボーダレス・ジャパンでは立場を問わずすべてのメンバーがそこに自分なりの答えや哲学を持ち、ビジネスの社会課題の解決に向き合っているのだと、牛房さんとお話をしていて強く感じた。

サンデーモーニングファクトリーの今後の展開について尋ねたところ、牛房さんからは「バングラデシュの工場の人数を増やすことが事業の目標なので、まずは100人ぐらいまで増やしたいですね。ただ、工場の一人一人のスキルが上がっており、生産数が増えたので、日本市場だけだと足りなくなってきました。そのため、今後はEUなどの海外市場にも展開していきたいですね」と楽しそうに語ってくれた。

同社にとって、ビジネスを拡大する理由はより多く利益を出したいからではなく、一人でも多くの母親にバングラデシュで雇用を提供したいからなのだ。牛房さんのお話には、シンプルながらもソーシャルビジネスを成功に導くうえでのヒントが数多く詰まっていた。

なお、ボーダレス・ジャパンでは現在社会起業家を目指す人のためのソーシャルビジネススクール「ボーダレスアカデミー」も開講している。ボーダレス・ジャパンが考えるソーシャルビジネスの要諦を学びたい方は、ぜひ門を叩いてみてはどうだろうか。

【参照サイト】ボーダレス・ジャパン
【参照サイト】Sunday Morning Factory
【参照サイト】Haruulala

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