大切なのは、良い「問い」。『大学生CSVビジネスアイデアコンテスト』で見えた、答えなき時代に求められる考え方

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あらゆる社会課題が山積している昨今、企業には課題の原因を作り出すのではなく課題を解決する主体としての役割が期待されている。そのうえで大事になるのが、事業を通じて得られた収益を寄付や社会貢献活動に使うのではなく、事業そのものを通じて社会課題を解決し、共通の価値を創造する「CSV(Creating Shared Value)」という考え方だ。

このCSVという概念を未来の社会を担う若者世代に対しても広く普及する目的で開催されたのが、「大学生CSVビジネスアイデアコンテスト」だ。主催したのは株式会社メンバーズと同社子会社でCSV戦略コンサルティング支援を手がける株式会社エンゲージメント・ファースト。

今年で3回目となる本イベントには全国11大学から45チームが参加し、今年7月には最終的に予選を勝ち抜いた7大学10チームが立教大学に集結、決勝大会で自ら考えたCSVビジネスのアイデアを競い合った。

内容は、イベント協力しているキリンホールディングス株式会社、株式会社ベネッセコーポレーション、三井住友カード株式会社、株式会社良品計画の4社が提示したテーマに対し、ビジネスプランを考えるというもの。表彰式では受賞チームの学生が感極まって涙を見せるなど、どのチームも想いを持って発表に臨んでいた。

本記事では、その中から特に印象的だった学生の視点や、予選を勝ち抜いてきた10チームの社会課題を解決するユニークなCSVのアイデア、そして最後にビジネスコンテストを通して見えた「これからの社会でアイデアを生み出すうえで大切なこと」をご紹介する。

主催者挨拶

主催者挨拶 株式会社メンバーズ 取締役 高見沢氏

大学生から出た10個のCSVアイデア

各チームは、企業から出されたテーマから1つを選び、時間をかけて準備した内容を10分の制限時間で発表する。ここでは、大学生からどのようなアイデアがうまれたのか、各企業のテーマ別にひとつひとつ見ていこう。

キリン:社会をよくするためにキリンができること

01. キリンの乳酸菌をASEAN諸国へ提供【最優秀賞】

立教大学・松本ゼミ6班のアイデアは、健康格差が問題となっている東南アジア諸国の子どもたちに、WFP(国連世界食糧計画)と連携しながら学校給食を通じてキリンのプラズマ乳酸菌を提供し、予防医療を実現しながらBOPビジネスを実現するというものだ。このアイデアを考えるにあたり、実際に工場見学にも行ったという。

東南アジアでは、生活水準の向上に伴い、糖尿病をはじめとする生活習慣病が深刻化しているため、食から健康を追求している人が多い。ターゲットを子どもとし、子どもから親へのアプローチまでを想定している。

─IDEAS FOR GOOD編集部コメント
どんな社会が「よい社会」なのかを、しっかりと定義している点、そして東南アジアの健康格差を解決するというテーマ設定がよかったです。「給食」というチャネルで提供すること、BOPビジネスの王道である小口パッケージで提供するという点まで思考されており、工夫が見られました。ターゲットを子どもに設定し、幼少期から給食を通じてキリンの商品に慣れ親しんでもらうことで、未来の顧客、市場づくりにつながる点も、完成度の高いビジネスプランだと感じました。

立教大学 松本ゼミ6班

立教大学 松本ゼミ6班

02. キリンの環境技術を用いたASEAN諸国でのコンサル事業【企業賞】

専修大学・市原チームのアイデアは、キリンだけが持つリターナル瓶技術やリユースシステム(ビン返却によってお金の一部が還元される)などの環境技術を、プラゴミが深刻化するASEAN諸国に移転するというものだ。第一ステップとしてリサイクルビン本体にデポジットマークを貼り付け、回収箱には「神様見ているよゴミ箱」と名付ける。それにより宗教の影響が大きいASEAN諸国で浸透させる。

第一ステップで資金を集め、他国にキリンの環境技術を認知してもらう。そこで集めた資金で環境コンサルティング事業を行い、クライアントに向けて事業提案をする。

─IDEAS FOR GOOD編集部コメント
キリンの商品を展開するのではなく、キリンの環境技術を商品としてコンサルティング事業を始めるというアイデアがユニークだと思いました。アイデアのコンセプトを作る上で、ASEAN諸国の文化や企業のことも徹底的に調べており、メンバーの熱意が感じられました。

03. キリンの自動販売機を通じたコンテンツツーリズムを提供

熊本大学・こみおチームが焦点を当てた社会問題は、地方経済の悪循環。キリンは全国で飲食店向けの営業を行っているため、地域のつながりがある。クラフトビールやワイナリーの支援、自販機事業にも注力していることに注目した、キリンが全国で展開する自動販売機を通じてアニメや映画などのコンテンツツーリズムを提供するというアイデアを考案した。

地方の自販機をプラットフォームとして、地域活性化するために映画シーンなどのAR機能を自販機に搭載し、専用アプリとの連動を行うことで地方へ観光客を集める。地方自治体に協力してもらい、地域特産物のプロモーションや販売も行う。

─IDEAS FOR GOOD編集部コメント
大量生産大量消費の時代を終えて、これからは地産地消、ローカルの製品が大事になる時代であり、その典型がクラフトビールであるともいえます。キリンと旅行事業は一見、関連なさそうに見えますが、クラフトビールの市場開拓の一環として、実際に人々に地域に足を運んでもらい、そして地域の文化や人々とのふれあいの中でファンになってもらったり、現地のクラフトビールも楽しんでもらったりする仕組みをつくることは、クラフトビール文化を広げる意味でキリンにとっても価値のある事業だと思います。また、最近では、従来の歴史的文脈や文化的位置付けとは異なる層に、新たな価値や魅力を見出す観光である「メタ観光」が旅行業界の一つのキーワードになっていますが、コンテンツを自動販売機と結びつけた点もユニークだと感じました。

ベネッセ:中高生が未来の社会変化を考えられる学びコンテンツ・サービス

04. 高校生が将来を考えるきっかけを作るアプリ【企業賞】

立教大学・松本ゼミ3班チームは、目的を持たずに大学へ進学する高校生が約8割もいることに着目。「Benesselect」という、AIを利用して自分に何が向いているのかを考え、社会人との交流もできるプラットフォームをつくるというアイデアだ。早く将来を見据えるために、高校生に将来を考えるきっかけづくりを行う。

アプリには3つの機能があり、1つめはチャット形式の将来相談。AIが先のことを考えて学生に質問することで、学生は将来のことを高校生のうちから考えることができる。2つめは成績管理機能。自分の成績をいつでも見ることができ、モチベーション向上につなげる。そして3つめは、社会人との交流の機会の提供で、高校生の段階で社会人と関わることで色々な選択肢を知ることができる。

─IDEAS FOR GOOD編集部コメント
いまだに高校教育の進路指導では、WHY(なぜその大学に行くのか)ではなくHOW(どう合格するか)ばかりを伝えているということが説明されており、説得力がありました。高校の段階からWHYを問うことはとても大事で、自分のWHYを見つけるヒントになるアプリがあれば、より良い進路選択ができるようになると思いました。

立教大学 松本ゼミ3班

立教大学 松本ゼミ3班

05. 教員向けの学習ポータルサイト

龍谷大学・龍谷(2)チームが解決する社会課題は、新しい社会変化に対応できる人材育成ができていないこと、そして少子化問題。人材育成を通して目指すのは、「未来の社会環境を考えることができる人材」である。

そこで注目したのは子どもではなく「教員」を顧客に設定することだ。業務過多であり時間が不足している教員の労働環境改善や意識改革のために、教師向けのポータルサイトを作り、授業準備の攻略本の提供やコンテンツ配信を行うというもの。文字だけではなく、オンライン講座や勉強会、講習会をしてより浸透させる。

─IDEAS FOR GOOD編集部コメント
教師の多忙化は今、深刻な問題となっています。また、教師のスキルは「教室」という閉じられた箱の中でブラックボックス化してしまっており、教育技術やノウハウ共有が十分にされにくい点も多忙化する理由の一つにあると思います。最近では、NPO法人ROJEが運営するEDUPEDIAなど、教師同士が指導ノウハウを共有できるプラットフォームも生まれてきているので、非常に価値があるアイデアだと感じました。

06. 学生向けの国内留学「未来創造型観光ツアー」

産業能率大学のアンジュ・アンジュチームが注目したのは、高校生の社会課題への関心が薄いこと。これからの未来を担う若者の、社会適応力の低さに不安要素が募る。そんな背景から、メンバーそれぞれの実体験をもとに考えられたアイデアは、地方を舞台にして、学生に国内留学「未来創造型観光ツアー」を提供するというものだ。

ツアーでは職業体験や観光調査を行い、社会課題に興味関心をもってもらう。地域に対して愛着を持ってもらうことで、将来的な移住も見込む。事前にSDGsに関連する研修も用意し、CSVを取り入れることで同時にパートナーシップも創出する。

─IDEAS FOR GOOD編集部コメント
国内留学は、実際にニーズがあると思います。おてつたびのサービスなども出てきており、都心部にいる学生が地方に行くことで得られる学びは多く、関係人口づくりのきっかけにもなります。また、自分たちの実体験をベースにアイデアを生み出している点もよかったです。

三井住友カード:三井住友カードが実現するキャッシュレスで解決する社会課題

07. 新しい募金の形「キャッシュレス募金」【企業賞】

専修大学・大崎チームが考えたのは、新しい募金の形「キャッシュレス募金」だ。現在、コンビニ大手3社だけで毎年10億円以上の募金金額が集まるという。しかし、キャッシュレス化により、コンビニのレジにあるお釣り募金が少なくなっていくことを課題と考えた。そこで、「リトルワールドプレゼント」として、カードのポイントの端数を自動的に募金できるようにする。

決済時に募金の使い道を表示し、利用者の募金への理解を深める。このアイデアを通じて、便利性や機能性だけではなく社会に貢献するカードとして選ばれるようになっていくことを目指す。

─IDEAS FOR GOOD編集部コメント
キャッシュレス化により、お釣り募金がなくなるという独自の課題を設定した点が素晴らしかったです。既に誰かが明確化してくれている社会課題に対してソリューションを考えるのではなく、自ら課題を発見する能力はこれからとても重要になります。この課題発見という点が素晴らしく、優勝でもよいと感じました。

専修大学 大崎チーム

専修大学 大崎チーム

08. 教育を受けられない地域の子どもたちと、日本の学生をつなぐ次世代決済プラットフォーム

産業能率大学・倉田ゼミチームKのテーマは「金融×教育」。世界の共通言語である「金融」と、自分たちにとっては日常だが、世界の裏側では非日常な地域もある「教育」。これら2つを掛け合わせて出たアイデアは、教育を受けられない地域の子どもたちと、教育を受けられる日本の学生をポータルサイトでつなぐというもの。学生がよく使うスマホに学生証、交通系のIC、そしてクレジット機能を1つにまとめ、大学の講義に出席することでポイントが貯まっていく。貯まったポイントは、世界の教育を受けられない子どもたちに使う費用となり、インターンの経験と交換ができる。

インターンは学生主体で企画から行う実践型のものに。学生が主体的に授業に参加するためには、日々の学びをアウトプットする場が必要である。そこでインターンを用意することで、学生に授業に意味を見出してもらい、ワクワクとドキドキ感を同時に与える。また、学生という早い段階で「キャッシュレス」の理解を深めることができる。

─IDEAS FOR GOOD編集部コメント
学生に授業を受ける(インプット)のインセンティブを与え、さらにそれをインターン(アウトプット)でしか使えないという設計にすることで、学びの効率も高まるのではないでしょうか。インターンプロジェクトが就職活動のPRにも使えるような魅力的な内容であれば(開発途上国での教育プロジェクト)、実際にこの仕組みは成り立つのではないかと思います。

産業能率大学 倉田ゼミチームK

産業能率大学 倉田ゼミチームK

良品計画:ゴミで暮らすには?

09. 子ども服を成長しても着られるようにするワークショップ【企業賞】

千葉工業大学・しゃけ。チームが目指すのは、「服を大切にする未来」。新たに買うことは目に見えること以上のゴミを生み出している。SDGsの目標12「作る責任。使う責任」にもあるが、今、消費者の意識改革が必要不可欠である。そこで今回出たアイデアは、子ども用の服に布を継ぎ足し、成長しても着れるようにするという服のアップサイクルを続けるアイデアだ。着られなくなった服を無印良品店舗に持ち寄り、店舗で簡単に始められるワークショップを開催する。

─IDEAS FOR GOOD編集部コメント
ワークショップを通じて、実際に服をつくるという生産体験を消費者に提供することは非常に価値があると感じます。自ら作ることで、より大切にしようという気持ちが生まれます。また、ワークショップ自体が、ユーザーとの共創体験になりますし、「服を継ぎ足して、思い出を紡ぐことに価値がある」という言葉が印象的です。実際に手を動かしてプロトタイプを作った点も素晴らしかったです。

10. ペットボトルでプランターを作るワークショップ

昭和女子大学・湯川ゼミが注目したのは、プラスチックゴミ問題。日本の一人あたりの使い捨てプラスチックゴミの発生量は世界第2位。回収したプラスチックの7割を燃やしているのが現状だ。そこで湯川ゼミチームが考えたのが、無印のリサイクルプランター技術を活用し、いらなくなったペットボトルを店舗に持ってきて、機械で粉砕してプランターを作るワークショップだ。

それらを「#ゴミで感じ良い暮らし」をつけてSNSで拡散することで、投稿者にはECサイトでポイントが付与される。また、ECサイトで販売できるという仕組みも作る。

─IDEAS FOR GOOD編集部コメント
SNSでの拡散方法も考えていて、日頃SNSを頻繁に使う学生ならではの視点であると感じました。店舗でワークショップをやることで、顧客と共創体験をデザインしている点が素晴らしいです。生産者と消費者の距離を近づけることにもつながります。

キーワードは「未来創造型」と「体験」

今回のビジネスアイデアコンテストで特徴的だったのが、どのチームも未来を予想してビジネスを考えるのではなく、自分たちで未来をつくるという「バックキャスティング」のスタンスをしっかりと持っていた点だ。

また、ワークショップやインターンプロジェクト、国内留学、コンテンツツーリズムなど、「体験」を軸に置いたサービスが多かった。モノ消費から「コト消費」への移行が進むなか、「体験」の価値がかつてないほどに高まっている。企業が顧客と、体験を通じて共創することは、CSVを実現する上でとても重要だ。

さらに、近年では生産と消費の距離が遠くなっていることが問題となっており、中間過程も複雑すぎて見えにくくなっている。持続可能な社会を実現するためには、生産と消費の距離をいかに近づけるかが大切であり、そのうえで顧客が商品を「生産」する体験を提供しているアイデアは興味深かった。

今回の学生のアイデアの中にあった「ワークショップ」は、生産者と消費者の距離を縮める良い手段となり、たとえワークショップ単体ではビジネスにならないとしても、ブランド価値の向上には大きくつながる取り組みである。

発表の様子

良品計画のワークショップを考案した千葉工業大学 しゃけ。チームの発表

良い「問い」が良いアイデアを生む

今回、コンテストの審査員の一人として参加したIDEAS FOR GOOD編集長の加藤。審査員として感じたのは「問い」設定の大切さだという。

VUCAと言われるように、現在の社会や経済情勢は予測困難な時代であり、これからは明確な答えがない時代です。今後は、いかに自らがよい「問い」を立てられるかが重要になってきます。審査会では、学生のアイデアの質は、企業から出されたテーマの質に比例するといった議論も行われていました。企業のテーマが面白ければ、学生の提案も面白くなるし、逆にお題がつまらなければ、ビジネスアイデアもつまらなくなってしまうということです。大人側も、いかによい問いを提示できるかが試される機会となりました。

また、問いという点では、「キャッシュレスによりお釣り募金がなくなる」という独自の社会課題設定をした大崎チームは本当に素晴らしいと思いました。問いがオリジナルであれば、解決策も自然とオリジナルになります。すでに社会課題は多いですが、誰かが既に声高に叫んでいる社会課題に対してアイデアを考えるのではなく、本当にそれは課題なのかと疑い、オリジナルの課題設定をしてみることや、まだ誰も課題だと気づいていない事象をいち早く発見することなども重要になるのではないでしょうか。

表彰式

表彰式

編集後記

大人になると、どうしても私たちは会社のさまざまな事情や社会のことを気にし、頭が固くなってアイデアが行き詰まってしまうときがある。

「学生に求められているのは、自分たちらしさや、好きなことをやること。大人のいうことを聞かず、自分たちのやりたいことをやってほしい。アイデアももちろん大事ですが、熱意で周囲を巻き込む力も大切です。」

今回、審査員であった日本アイ・ビー・エム株式会社の八木橋氏が最後に話していた言葉だ。

強く熱い想いを持った人が企画するモノは、きっと誰かの心を強く惹きつける。そして誰かの心に深く届いたモノは、自然と多くの人の心を動かす。戦略やマーケティングスキルも、もちろん大切だ。しかし、同じようなモノやサービスが溢れ、選択が難しいなかで、社会を変えるのは企画者の強い「想い」なのかもしれない。会場にいた大人たちは、そんなことを思ったのではないだろうか。

「CSVコンテストを通じて社会課題への意識が変わった」と話す大学生がいたように、こうして社会課題に触れた学生が熱い想いを胸に自らの問いを立て、これからの未来でCSVのアイデアを次々と生み出していくのだろう。

【関連ページ】 CSVとは・意味
【関連ページ】 VUCAとは・意味
【参考サイト】 NPO法人ROJE