「普及」から「質」へ。世界唯一の教育に特化した国際基金「GPE」の次なる挑戦

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持続可能な開発目標(SDGs)」に掲げられている4つ目の目標は「質の高い教育をすべての人々へ」。貧困や飢餓の問題を含め、すべての社会問題の解決に、教育は重要な役割を果たす。

しかし、世界にはまだ充分な教育を受けられない子どもがたくさんいる。世界中の子どもたちが質の高い教育を受けられるようになれば、地球の未来は大きく変わる。そんな未来に向けて活動している、世界で唯一の教育特化の国際基金「Global Partnership for Education(GPE)」を知っているだろうか。GPEは2002年に設立され、日本も2008年から累計で約32億円の支援を行ってきた。

GPEは世界の教育でどんな役割を果たしているのか、GPEが日本に求める役割は何か、私たちが世界の教育のためにできることは何か。8月28日~30日の日程で横浜で開催された、第7回アフリカ開発会議のために来日した、GPE副議長で前セネガル国民教育大臣(現在は水・衛生大臣)のセリネ・ムバエ・ティアム氏と、東京大学大学院教育学研究科准教授の北村友人氏が登壇したメディアセッションにて、お話を伺った。

Mr.Thiam&Mr.Kitamura

左がティアム氏、右が北村氏。

セリネ・ムバエ・ティアム氏

Global Partnership for Education(GPE)副議長、ユネスコ国内委員会会長、セネガル水・衛生大臣。1996年以降、前国民教育大臣など、セネガルにおいて省庁の要職を歴任。1987年から1998年は、コンサルティングや金融などの分野で民間ビジネスに従事したほか、ダカール自治港のCFOを務める。2014年2月から2015年12月には、GPE内部の委員会の代表として、ガバナンス、倫理、ファイナンス、リスクなどに従事。2018年よりGPE副議長を務める。

北村友人氏

東京大学大学院 教育学研究科 准教授。国連教育科学文化機関(UNESCO)パリ本部教育局教育専門官補、名古屋大学大学院 国際開発研究科 准教授、上智大学 総合人間科学部教育学科 准教授を経て、現職。他に、ジョージ・ワシントン大学フルブライト研究員、ダッカ大学(バングラデシュ)日本研究センター客員教授、王立プノンペン大学(カンボジア)学長特別顧問、等を歴任。現在、東京都教育委員、日本学術会議連携会員(第23-24期)、日本比較教育学会理事、日本教育学会地区理事を務める。

世界で唯一の教育特化の国際基金

Global Partnership for Education(GPE)は、世界で唯一の教育に特化した国際基金として、2002年に世界銀行が主導して設置された。「すべての人が質の高い教育を受けられる世界」の実現のため、主に先進国から資金を集め、発展途上国の教育を支援している。

日本ではあまり知られていないが、すでに17年間活動しており、以下のような素晴らしい成果を上げている。

  • 支援国において、小学校に通う子どもが7700万人増加
  • 支援国の子どもたちの77%が小学校を卒業(2016年)(2002年時点では63%)
  • 男子生徒と同数以上の女子生徒が小学校を卒業した国が、支援国の67%に達した(2016年)(2002年時点では42%)

特徴的なのは、パートナーシップとしての機能を有し、一方的に資金を供給するのではなく、各国のマルチステークホルダーと力を合わせて課題を解決することだ。途上国自身にも国家予算の2割を教育に使うように求める(国の経済規模などによって求める割合は異なる)。また、最初からすべての資金を投入するのではなく、資金の30%はあらかじめ設定した目標が達成した場合にのみ支払われる。そのため、目標の達成率が高くなっている。

現在は、途上国における就学率アップと合わせて、教育の質の向上や、就学前教育が重点項目になっているという。教育の質に関しては、せっかく就学率を上げても、教育環境や教師・教科書の質の低さの問題で、子どもたちが基本的な知識を習得できていないという問題がある。例えば、80人もの子どもが一つの教室に押し込まれていたりするのだ。そのような状況では、充分に学習に取り組むことができない。そこで、現在では教育環境の改善や、教師の研修、教材の改善といった「教育の質の向上」にも注力しているという。

就学前教育に関しては、GPEの支援国の子どもで教育を受けているのは38%にとどまる。世界中の低所得国においては、わずかに5人に1人だという。日本ではあまりイメージがしづらいかもしれないが、小学校に入学する時点で、読み書きを習う基礎となる教育ができていないということなのだ。そのため、GPEはアフリカ連合やユニセフ等と共に、「就学前教育をすべての人々へ」という共同声明を発表し、就学前教育の重要性を今回のアフリカ開発会議においてもアピールしていくという。

また現在は、国や国際機関との連携にとどまらず、民間企業や大学等との連携も進め、共同研究などを進めようとしているという。

Mr.Thiam

Global Partnership for Education副議長のティアム氏。

日本は信頼できるパートナー。さらなる協力を期待

日本は2008年からGPEのパートナーとなり、累計で約32億円を拠出し、JICAと共に様々な活動をしてきた。2018年には3年間で約5.3億円の拠出を行うことを誓約した。そのうち約3.2億円はすでに緊急教育支援としてチャド、バングラデシュ、南スーダン等で使われた。また、パプアニューギニアではJICAとGPEが「マルチプライヤー」という資金動員スキームを使ってプロジェクトを展開し、小学校における理数科教育の教科書の開発・提供を実施した。ニジェールでは、JICAとGPEが協働し、算数の学力を目指したプロジェクトを行い、この結果、ニジェールの子どもたちの算数の学力が飛躍的に向上したという。このように、日本はGPEにおいて重要な役割を果たしている。

しかし、日本の2018年~2020年に誓約している拠出額は約5.3億円で、イギリス(約320億円)、アメリカ(約170億円)といった他の先進国と比べると拠出額は少ない。この背景には、日本がもともと「二国間援助」を重視してきたことがあるのだという。北村氏は「日本はこれまで、顔が見える支援として独自の二国間援助を重視してきました。しかし、二国間援助は規模が小さくなりがちです。一方で、GPEや他の国、機関と協調して支援を行えば、よりスケールの大きい支援を行うことが可能です。」と述べた。パプアニューギニアでの協調融資は、これまでにはなかったような歓迎すべき動きなのだという。

Mr.Kitamura

東京大学大学院 教育学研究科 准教授の北村氏。

ティアム氏も、「日本はとても重要で信頼できるパートナーです。その証明として、今回横浜で行われているアフリカ開発会議もとても素晴らしい場となっています。これまでも発展途上国において、JICAなどを通じて重要な役割を果たしてきました。今後、教育のためにさらなる政治・経済的な協力を求めています。」と述べた。

私たちにできることは、国際的な教育の支援が重要であると声を上げること

GPEには、私たちが個人として直接寄付をすることはできない。しかし私たちも、税金を通して、GPEの資金調達に間接的に関わっていると言える。だからこそ、私たち自身がGPEに関心を持つこと、世界の教育にもっと関わっていくべきだと声を上げることは、GPEの発展、そして世界の教育の発展のためにとても重要なのだ。

ティアム氏は、「一般の皆さんにお願いしたいのはアピールです。皆さんが世界の教育の重要性について議論をし、政府に働きかけていけば、日本が行う世界の教育分野への投資が増えていくはずです。」と述べた。

最後に

セッションの中で、ティアム氏は、21世紀を生きる子どもたちに必要な教育は何かという問いに対し、「40年後の社会で問題を解決できるようになる基礎を作らなくてはいけません。今はまだないような仕事の基礎を作らなくてはいけません。ITの進化によって、知識を得ることはますます簡単になっていきます。これからは、知識を得ることだけでなく、得た知識を分析する力や、知識を正しく活用する力が求められるようになっていきます。」と述べた。これは日本国内の教育の議論でも、常に語られていることと同じだ。

発展途上国での教育というと、どうしても自分たちのこととは離れたことと思ってしまうかもしれない。でも実は、そこで必要とされる教育に変わりはない。世界の教育の質の向上を考えることは、国内教育の質の向上にもつながるのではないだろうかと感じた。

GPEの日本国内での認知が高まり、「世界中のすべての人が質の高い教育を受けられる未来」に向けて、自分たちに何ができるか考える人が増えることを期待したい。

【参照サイト】Global Partnership for Education(GPE)

※記事内の拠出額等の金額については、すべて2019年8月29日時点の為替レートをもとに記載しています。