ベトナム最大の都市、ホーチミンの中心部である一区には、「9月23日公園」という緑豊かな市民の憩いの場がある。
とても斬新な名前だが、その背景には、1945年9月23日に定められた「南部抗戦の日」という史実がある。ベトナムの独立宣言を認めなかったフランス兵に対抗し、勝利したベトナム南部市民が抵抗精神を忘れないようにと9月23日を記念日に定め、公園の名前にしたのだ。
9月23日公園では毎年恒例の春祭りも開催される。そんな長きにわたり市民に愛されてきた公園が今、大きく生まれ変わろうとしている。
新しいコンセプトは、「過去と文化を尊重する、未来のための持続可能なセントラルパーク」だ。
新たなセントラルパークは、現在の9月23日公園を拡張し、16ヘクタールの巨大な公園となる計画だ。建設開始は2020年を予定している。
その最大の特徴は、最先端のテクノロジーを活かした人工ツリーにある。公園内には3つのタイプの環境配慮型人工ツリーが設置され、エネルギー効率を高める。
「浄水の木」は雨水を集め、集められた水は灌漑(かんがい)や飲み水、消防用の水として再利用される。「換気の木」は、都市のヒートアイランド現象を緩和させ、新鮮な空気を生み出す。そして「ソーラーの木」にはソーラーパネルが設置されており、太陽光エネルギーによって充電スタンドや電光掲示板、公園のWi-Fiのための電気が生み出される。
デザインはフランス人が19世紀に作った線路上に、緩やかな曲線を描く遊歩道を作る。前身である9月23日公園の緑の豊かさを引き継ぐとともに、アートギャラリーや音楽劇場ホール、スケート公園などの遊び場が加わり、現在建設中の地下鉄、ベンタイン駅ともつながる。公園の端には、ベトナムの交通の歴史を表現する彫刻も設置予定だ。
この近代的なデザインを提案したのは、オーストラリアの建築設計事務所LAVA社とデザイン会社のASPECT Studios社だ。ホーチミンのセントラルパーク建築計画の国際コンペで見事に勝利を収めた。
「この場所は常に“交通”と関係が深いのです。昔は東南アジア初の鉄道駅、今はバスターミナル、そして近い将来、ベトナム初の地下鉄の駅となる予定です。私たちのデザインは、歴史と未来のモビリティを表現しています。」と、LAVAのディレクターを務めるクリス・ボッセ氏は話す。
「過去と未来の架け橋となり、人と自然、そしてテクノロジーをつなぐ場所を作る機会を得ることができ、楽しみでなりません。地下鉄は、都市交通の歴史の新しい1ページを開き、このセントラルパークの発展とともに、未来の国際都市の中心となるホーチミンの、市民のQOL(生活の質)を向上させます。」
かつての経済発展のシンボルでもあった鉄道が、近い将来に地下鉄の駅となり、そして市民の憩いの場へと生まれ変わる。このプロジェクトは、ベトナムの経済発展とそれに伴う公害の発生、そしてそれを乗り越える環境配慮型社会を目指すというベトナムの社会の変遷を、まさに象徴しているのではないだろうか。
【参照サイト】LAVA社公式ホームページ
(画像提供)LAVA