食品ロスが問題となる中、食べ物をできるだけ捨てないように心がけている人は多いだろう。しかし、食べ物の腐敗を避けることはできず、それを理由に大量の食べ物が廃棄されている現状がある。
国連食糧農業機関によると、現在、世界で生産される食料の3分の1にあたる約13億トンが捨てられているが、食糧廃棄の理由の一つが「食品の腐敗」である。農産物の場合、流通の過程で鮮度は徐々に失われ、消費者の手に届いてから貯蔵できる時間は限られる。
食品の腐敗による食品ロスを減らすため、イギリスの大手スーパーマーケットASDAは、アメリカのスタートアップApeel Sciencesと提携し、青果物の鮮度を長時間保つ「Apeel」という特殊素材の試用実験を開始した。
Apeel Sciencesが開発した「Apeel」とは、青果物の腐敗を遅らせる植物由来のコーティング材のことである。この素材を野菜や果物の表面に塗布し、「第二の皮」をコーティングすることで水分の蒸発や酸化を抑え、鮮度を長持ちさせる。何も塗っていない状態と比較すると、約2~3倍長く鮮度を保つことが出来る。
Apeel Sciencesの本拠地であるアメリカでは、すでにCostcoなどの主要な食料品店でApeelを使用した農産物の販売が行われている。そして、Apeel Sciencesが次なるステージと考えているのが、食品のサステナブルな選択肢を求める消費者が多いヨーロッパである。
6月に欧州委員会がApeelの技術の使用を許可し、イギリスの大手スーパーマーケットASDAが、マンダリンでApeelの試用を行うことを決めた。サプライチェーンを通して廃棄物を減らす方法を探ってきたASDAが、イギリス初のApeel Sciencesのパートナーとなった。
Apeelの恩恵を受けることができるのは消費者だけではない。農家や輸送業者、小売業者にも大きなメリットがある。開発途上国では、農家の保存設備や輸送インフラの未整備によって、出荷前に農産物が傷んでしまうケースがあるが、Apeelの技術がこうした問題解決に力を貸すかもしれない。さらに、Apeelはプラスチックごみを減らすことにも一役買う。青果物の鮮度を保つための包装をする必要がなくなるため、過剰なプラスチック包装が削減できると期待されている。つまり、ごみを減らしつつ、より長い期間をかけて遠くへ運ぶことが可能になるため、農家から消費者まですべての関与する人にとって良いことがもたらされる。
当然だが、Apeelが作り出す「第二の皮」は、農産物を長持ちさせるけれど、腐ることを完全に止めることはできない。Apeelの技術は、自然の在り方を捻じ曲げたり、作り替えたりするものではなく、野菜や果物そのものがもつ保存の方法を応用した、自然とうまく付き合っていくためのものなのだ。
自然由来の成分を使用し、より長い時間貯蔵することを可能にするApeel。今後、食料が不足している場所でも、そして食料が大量に廃棄されてしまっている場所でも、ますます必要とされるのではないだろうか。
【参照サイト】Apeel Sciences
【参照サイト】“Asda trialling new solution to fight food waste”
【参照サイト】“Asda trialling new solution to fight food waste”