欧米で関心が高まるクルエルティフリーの化粧品。動物を守る新しい考え方とは?

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肉や魚を口にしないベジタリアン、加えて卵や乳製品を含めた動物性のものを一切摂らないヴィーガンなど、食において動物由来のものを避ける人が増えている。ファッションにおいても同様に、毛皮・皮革・ウール・ダウンなど動物素材を避ける動きが広まりつつある。これらはすべて「動物由来の原料」にフォーカスを当てた上での考え方だ。

実はその他にも、私たちの生活に非常に身近な分野で生み出している動物の犠牲がある。それは化粧品における動物実験だ。それをボイコットする動きは、「クルエルティフリー」というキーワードで欧米を中心に広まっているが、日本ではまだまだ認識が乏しい現状がある。

クルエルティフリーとは?

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クルエルティフリーという言葉は、文字通りだと「残虐性(cruelty)がない(free)」という意味だ。オックスフォード辞書によると、「(化粧品や消費財において)製造や開発の過程で、動物に残虐な手段がとられていないもの」ということになる。ここでいう「動物に残虐な手段」とは、動物実験を指す。

クルエルティフリーを選ぶべき理由

現在、人体への安全性や有効性を確認するために、動物実験は広い分野で行なわれている。医療や生物化学はその主な例で、これらの分野においてはより多くの人命を救うためという大きな役割を持つ(人の命と動物の命の価値を比較できるのかという倫理的な問題は生じる)。一方で、化粧品の多くはあくまで人間の美を追求することが目的だ。そこに、動物を使った過酷で、多くの場合は死に至る残虐な実験は必要ないのではないかという意見が、今世界中で増えている。

そもそも一般的な化粧品に幅広く使われる成分の多くは、すでに人体への安全性が確認されており、よほど画期的な新しい成分でない限り、動物実験の必要はない。事実、EU諸国はEU圏内における化粧品の動物実験を禁止している。アメリカでも同様な動きが州単位で進んでいる。日本は化粧品の動物実験を禁止していないが、必須ともしていない。

それでも動物実験が広く行われている大きな理由は、ある一国の法規制の存在にある。その国とは、中国だ。中国は輸入化粧品の市場参入に動物実験を条件として課しているのだ。化粧品ブランドにとって中国は逃したくない大きなマーケットであるゆえに、他の国では動物実験を必要としない製品に関しても、中国での販売のために動物実験を余儀なくされているブランドが数多くある。中国市場に参入するためにクルエルティフリー基準を諦め、動物実験に踏み切ったブランドもあるくらいだ。

たった一国の法規制のために多くの動物が犠牲になっている現状は、世界中の消費者の胸を痛めている。現在、欧米諸国の政府や化粧品ブランドは、中国政府に動物実験の要求を取りやめることや、人工皮膚や細胞を用いた実験への切り替えを訴えかけているが、今のところ進展が見られない。

化粧品の動物実験を減らすために消費者にできる最も簡単なことは、動物実験の現状について学び、クルエルティフリーブランドを積極的に選ぶことだ。

クルエルティフリーの商品を選びたい消費者ができること

消費者がクルエルティフリーの商品を選ぶことができるように、クルエルティフリー認定をしている機関や団体がいくつかある。

国際的なものは、クルエルティフリー・インターナショナル(Cruelty Free International)が運営するリーピング・バニー・プログラム(Leaping Bunny Program)だ。調査の結果、一切動物実験をしていないと判断できるブランドや製品に、うさぎを用いた公式認定マークを付与している。うさぎをシンボルとしているのは、化粧品の動物実験に最も多く利用されているのがうさぎだからだ。

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ブランドが独自に、動物実験をしていないことを表記する場合、統一ルールがないため、原料レベルでは動物実験が行われていたり、第三者機関に動物実験を委託していたりすることがある。「(中国市場のように)法で要求される場合は例外である」という文言が隠れているケースもある。

リーピング・バニー・プログラムの場合は、いかなるフェーズにおいても例外なく動物実験がされていないことが確認された場合にのみ、公式認定マークを付与するので、信憑性は非常に高いと考えられる。化粧品のみならず、歯磨き粉や洗剤などの日用品も含め、1,300を超える企業が認定されているので、選択肢も多い。

他にも、アメリカにある認定団体PETAが有名だ。私営でクルエルティフリーの基準を明らかにしながら認定や啓蒙をしているウェブサイトも、アメリカ・カナダやイギリスに存在し、参考となるデータは英語圏を中心に溢れている。例えば、Logical Harmonyは厳しい基準で認定を行うことで信頼を集めている。

「クルエルティフリー=ヴィーガン」ではない

冒頭で触れたような、食やファッションにおける動物性原料の使用を避ける考え方は、化粧品にもある。それはクルエルティフリー(動物実験をしない)と区別して、ヴィーガン(動物由来成分を使用しない)やプラントベース(植物由来)として認識される。

化粧品の原料リストを見てみても、一般消費者が動物由来の成分を判断するは難しい。植物由来と明記されている場合を除き、動物由来の原料、もしくは動物由来である可能性が非常に高い原料の代表的な例は以下の通りだ。

  • ハチミツ
  • ミツロウ
  • コラーゲン(動物の骨や皮膚のたんぱく質)
  • グリセリン(動物の油脂)
  • スクワラン(サメの肝臓の油脂)
  • ケラチン(動物の角や毛のたんぱく質)
  • ラノリン(羊毛の油脂)
  • エラスチン(牛の靭帯や大動脈)
  • コチニール色素(昆虫の赤色色素)
  • ムスク(ムスク鹿の分泌液)
  • 化粧用・毛髪用のブラシ、つけまつげ(リス、イノシシ、ミンクなどの毛)

クルエルティフリーとヴィーガンは混同しがちだが、決して同等ではない。動物実験をしていなくても動物由来成分を含む製品はあるし、逆も然りだ。生活から動物の犠牲を一切排除する考え方を持つヴィーガンの多くは、クルエルティフリーかつヴィーガンのブランド・製品を選ぶ場合が多い。

「クルエルティフリー=エコ」ではない

動物を対象に、強い化粧品の安全性や有効性を実験するのは、自然界における人間の利己主義からくる動物への虐待とも言える。種の共存を考える上で、化粧品の製造・開発における動物実験を取りやめることは非常に重要であると考えられる。

しかし、クルエルティフリーはアニマルライツの観点から見るとエシカルではあっても、必ずしもエコやサステナブルではない。パッケージにプラスチックが使用されたり、自然環境に負荷がかかる生分解されないような成分が含まれるケースは、クルエルティフリーの商品であっても大いにあり得る。サプライチェーンにおける課題も同様だ。

クルエルティフリーは、幅広い視野で化粧品を選ぶ上での第一歩に過ぎない。

まとめ

多くの消費者は、ブランドイメージや人気度、効能、価格で化粧品を選び、その製造・開発で起きていることについて深く踏み込んで考えることはなかったかもしれない。動物実験の有無を選択基準に入れることは、化粧品ブランドの真の姿を考える一つのきっかけになる。そこから発展して、成分・サプライチェーン・ブランド倫理・環境保護活動なども意識するようになるかもしれない。「化粧品を買う」という消費活動は、支持したいと思えるブランドの要素を考え、調べ、まるで投票するかのように、そのブランドに自分のお金を投じる、実は重みのあるものなのだ。

日本ではまだ情報が限られており、認知が低い「クルエルティフリー」のコンセプト。美しくなりたいという気持ちを満たし、セルフケアとしても私たちの生活に価値をあたえてくれる化粧品を、動物の犠牲なしにもっと心から楽しめる日が早く訪れることを望みたい。

【関連ページ】クルエルティフリー
【参照サイト】E.U. Bans Cosmetics With Animal-Tested Ingredients (New York Times)
【参照サイト】INSIGHT: New California Law Will Ban Sale of Cosmetics Tested on Animals (Bloomberg Law)
【参照サイト】Animal-Derived Ingredients List (PETA)
【参照サイト】Leaping Bunny Standard

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