自然豊かなバンフ国立公園内にある、カナダのアルバータ州バンフ市。野生動物と共生するこの市は、昨年11月、「ゼロ・ウェイスト・トレイル」 と名付けられた構想の一環として、熊にも耐えられる食品廃棄物専用のゴミ箱を市内16カ所に設置した。ゴミ箱に入れられた食品廃棄物は、処理施設に運ばれ堆肥化される。すべての食品(未調理か調理済みかを問わない)に加え、コーヒーフィルター、ティーバッグ、ティッシュ、紙ナプキン、食べ物で汚れてしまったピザ箱も、このゴミ箱に入れることができる。堆肥化可能なもの以外のビニール袋や紙カップなどは捨てられない。今後2年間で、さらに63個の同様のゴミ箱設置を予定している。
市内で発生するすべての廃棄物のうち、埋め立て処分を免れているものは現状38%にとどまるが、バンフ市は2050年までに市内のすべての廃棄物の埋め立て処分をゼロにすることを目指している。
食品廃棄物はいったん埋め立て処分されてしまうと、ただちに土壌や堆肥にはならない。分解には数十年かかり、その間に気候変動の要因となる温室効果ガスを放出し続ける。実際、カナダのメタン排出量の約20%は埋立地から発生しているとされる。堆肥化は、農家、温室、森林伐採業者、その他の産業を助けられる物質を作り出すことも出来る、有効なリサイクル手段の1つだ。
では、なぜ個人の庭などで堆肥化してもらうのではなく、わざわざ公共空間に食品廃棄物専用のゴミ箱を設置するのだろうか?
それは、バンフ市では個人の庭での堆肥化が禁止されているためである。バンフ市にはクマなどの野生動物がたくさん暮らしている。住民個人の庭や畑で堆肥化を行うと、野生動物を人間の居住地に引きつけ、重大な事件を引き起こす恐れがあるのだ。そこで、市が一括して食品廃棄物を収集し、堆肥化を行う必要が生じた。
バンフ市は他にも、行政機関で使用する自動車を電気自動車に置き換えるREV計画を、2019年10月に発表している。構想では2030年までに温室効果ガス排出量を2005年比約30%減、2050年までに80%削減する目標が予定されている。
バンフ市のこうした取り組みは、カナダ全体での山火事の増加と、世界中の若者たちが気候変動への行動を行政に求めて起こしたストライキから影響を受けている。カナダでは10年前と比較して多くの山火事が毎年発生しており、バンフ市ボウバレーの年間平均気温は1900年代初頭から1.4度上昇した。ボウバレーの気候はより温暖で乾燥すると予測され、それにより、より頻繁で大規模な山火事が発生しやすくなる。山火事が発生した場合、観光産業や市民の安全だけではなく、バンフ市の豊かな生態系への影響も計り知れない。食料や水の供給にも影響を及ぼすと予測されている。
気候変動は現実であり、私たちに明確な影響を及ぼしている。気温、氷河の融解、降水量、異常気象の変化は今後どんどん増加していき、大きな問題として私たち人類に降りかかる。このバンフ市の事例は、こうした気候変動問題に対して行政が真摯に対応していくことの大切さ、また我々個人が声を上げていくことの大事さを考えさせる良い参考事例といえるのではないだろうか。
【参照サイト】Town of Banff
【参照サイト】https://www.thecragandcanyon.ca/news/local-news/banff-rolls-out-new-food-bins-with-zero-waste-initiative