【レポート】ロスフラワーをテーマにしたイベントから考える、「ゴミ」と上手に付き合う方法

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私たちは1日に何回「捨てる」という行為をしているのだろう?

ファストフードやファストファッションなど、ファスト○○の流れにより、私たちは手軽に安価なモノを手に入れることができるようになった。同時に、モノを「捨てる」という行為も以前より手軽なものになってしまったのではないだろうか?

廃棄問題はどの業界も抱える共通の問題だが、今回取り上げたいのは、今まであまり議論されてこなかった花の廃棄問題だ。

筆者は、TRUNK(HOTEL)と530(ゴミゼロ)が共催する、ロスフラワーをテーマにしたサステナブルイベント「SOCIALIZING SESSION」に参加してきた。渋谷駅から歩くこと10分。都会の喧騒から少し離れ、住宅街のような暗闇に入ってきたところに、異国のバーを想起させるような一風変わったおしゃれな建物が見える。今回のイベントが開催されたTRUNK (HOTEL)だ。こちらは新しい社会貢献のスタイル「ソーシャライジング」を発信する拠点として生まれたブティックホテルで、ホテル業に加え、オリジナル製品の販売やイベント開催など多様な事業を通して、社会問題の解決に向けた取り組みを行っている。

今回のイベントは、以前IDEAS FOR GOODでも紹介したフラワーサイクリスト河島春佳さんとTRUNK(HOTEL)フラワーデザインチームのメンバーによるトークセッション、そして参加者によるアイデアソンの二本立てであった。

まだ綺麗な花が捨てられてしまうという現実

トークセッションのようす

トークセッションのようす

一般的に、生花店では3~4割の花が廃棄になると言われている。また、結婚式などの催事では会場装飾のため大量の花が用意されるが、式までに咲ききらなかったものはそのまま廃棄されてしまううえ、装飾に使われた花も二次利用されることはほとんどない。トークセッションに登壇したTRUNK(HOTEL)フラワーデザインチームの大倉さんと望月さん、そしてフラワーサイクリストの河島さんの3人は、こうした花が廃棄される現状についてそれぞれ心を痛めていたそうだ。

「みんな、入荷したてのお花には、キラキラした表情を向けます。丁寧に扱ってあげようとします。それなのに、廃棄する予定のお花に対してはすごく冷たい。そんな現実を見て、ショックを受けました」──望月さん

「ウェディングの現場で働き始めた当初、結婚式で使用した花を廃棄する瞬間を目にして、『もったいない』と感じました。でも、仕事を続けて3年経つと、花を捨てることが習慣化して、何も感じなくなってしまった自分に気づいたのです。心を痛めることがありながらも、業務として割り切るしかなかったんですね」 ──大倉さん

「クリスマス用に用意されていた300本の赤いバラが、12月26日になったとたん、全部ゴミ袋に入れられているのを見てショックを受けました。私にとっては宝物のようなものなのに──。なんとかしなければ、と思いましたね」──河島さん

実はフードロスよりも深刻な花の廃棄

まだ綺麗なのに捨てられる花

これらの写真の花は、一見問題ないように見えるが、店頭で咲き切ってしまったものや、花びらにキズがついてしまったもの、色の要望の差異により売れ残ってしまったものなど、様々な原因で廃棄されてしまう花たちだ。

実は、花は在庫管理が食品よりも難しいと言われている。食べ物は少し形が崩れていたり、新鮮さに欠けたりしていても、調理をすれば問題のないものも多いが、花は見た目や生鮮さこそが重視されるため、規格に合わないものは容赦なく捨てられてしまうのだ。

また、花は非常に繊細なため、運送時の横揺れや荷卸し作業の際に簡単に傷がついてしまう。それにもかかわらず、花きのサプライチェーンにおいては、卸売業者や仲卸業者を経由する取引の比率が77%を占めており、生産現場から消費者に届くまでの過程が長い。サプライチェーンが長ければ長いほど 、花が傷つきやすくなり廃棄される花の量も増えてしまうのだ。

ロスフラワーに再び命を吹き込む人々

トークセッションに登壇したTRUNK(HOTEL)フラワーデザインチームの大倉さんと望月さん、フラワーサイクリストの河島さんの3人は、現在、廃棄される花を救うため活動を行っている。

望月さん、大倉さんが働くTRUNK(HOTEL)のラウンジでは、イベント時の装飾で使用した花をドライフラワーにして飾るなど、花に再び命を吹き込んで世に送り出す取り組みを行っている。また、毎週月曜日に、結婚式で使った花を販売するイベント「Socializing Flower Market」を開催しているという。

一方、フラワーサイクリストの河島さんは、5年程前から独学でドライフラワーづくりを学び始め、ロスフラワーを使ったブランドfun fun flowerを立ち上げた。花のある生活を文化にすることを目標に掲げ、ブランド運営のほか、空間装飾事業や、ロスフラワーを使ったプロモーション事業、ドライフラワーを利用した衣装づくり、ワークショップの開催など様々な活動を通してロスフラワーの啓発を行っている。

どうしたらロスフラワーをなくせるのか?

今回のイベントでは参加者がグループに分かれ、こうした花き業界が抱えるロスフラワー問題を解決するためのアイデアソンを行なった。9チームに分かれて「どうしたらロスフラワーをなくせるのか?」をテーマにディスカッションをスタート。

思考のステップ①原因を探る

具体的な対策を考える前に、まずはロスフラワーがなくならない原因を探してみることになった。

花のマーケット市場は縮小傾向にあり、バレンタインや母の日、クリスマスなどイベント時に消費が集中している。そこで、「日頃から流通している花を手に取る機会を増やし、需要と供給のバランスを合わせることができれば、人の手に渡らずに捨てられてしまう花を減らすことができるのではないか」という仮説が生まれた。

「花と触れる機会をもっと増やしそもそもロスを生み出さないようにする」、そして「花を二次利用する場を増やしていく」という2つのアプローチで具体策を考えていくことができそうだ。

アイデアソンのようす

アイデアソンのようす

思考のステップ②具体的な対策を考える
発想①ターゲットをずらしてみる

花というと女性がターゲットになりがちだが、筆者のグループでは、独身男性をターゲットに設定。「花屋に入りづらい」と思っている男性にも花を購入してもらえるよう、日常的に立ち寄りやすいカフェなどで花を売るのはどうか、という意見が出た。花を花屋で売ることにとらわれず、気軽に立ち寄れる場所を花屋にしてしまうという面白い発想だ。

発想②「そもそも」の部分にアプローチする

ロスフラワー対策として、大人たちへ花を買うよう訴えかけるのも良いが、「そもそも幼児期から花と触れ合う体験を増やすべきではないか」という声も上がった。花に触れるという体験は、触る、見る、匂う、といった五感を育てることができるため、子どもの教育にも適しているのではないだろうか。また、保育園でドライフラワーを作るワークショップを行うなど、ロスフラワーを利用したSDGs教育に取り組んでいくという案も挙げられた。

発想③常識にとらわれずに考えてみる

ほかにも「花を積んだガラス張りの花販売トラックを街中に走らせる」「Uber Eatsのような花のデリバリーサービスはどうか」「二次利用の花やドライフラワーを使ってサステナブルな結婚式をデザインする」 など、60分間のアイデアソンのなかで各テーブルからたくさんのアイデアが出され、会場内は大いに盛り上がりを見せた。現実的なものかどうかで判断せずに自由なアイデアを出してみると、思わぬ発見があるかもしれない。

「ロスフラワーだからお得に買える」とは思って欲しくない

アイデアソン終了後、河島さんはこう語った。

「捨てられる予定だった花を二次利用するとき、どうしても『手ごろだから』『安いから』という理由で注目されることが多い。けれども、『ロスフラワーだからお得に買える』と思ってほしくはないのです。同じ値段でも環境を意識した活動にお金を払いたいと思ってくれる人にこそ、ロスフラワーの存在を知ってもらえたら、そしてその価値を感じてもらえたら嬉しいですね」

登壇中の河島さん

登壇中の河島さん

ファスト○○の例のように、安さや手軽さはときに、モノの価値を軽視することにつながってしまう。ごみ箱から救い出したはずのものを、またすぐゴミ箱に送ることになってしまっては意味がない。近年、ファスト○○に対して、スロー○○という言葉が使われるようになってきたが、こうした「本来のモノの価値を見直して、よりモノを大事に扱おう」という考えこそ、持続可能な社会の実現に向けて大事な思想なのではないだろうか。

ゴミを捨てる前に、一度立ち止まって考えてみてほしい。今あなたが手に持っているものは、本当に“価値のない”ものなのだろうか。もしかしたら、少し手を加えるだけで、再び素敵な姿に変わるかもしれない。そうして新たな価値をまとった商品は、素敵なストーリーを持つ。これからは、工場から量産的に出荷された安い商品を消費するのではなく、人の想いをのせたストーリーを持つ商品に投資する時代にしていくべきなのではないだろうか。

【参照サイト】株式会社RIN 代表 河島春佳
【参照サイト】河島春佳-Instagram
【参照サイト】TRUNK(HOTEL)
【参照サイト】花き市場の現状|日本花き卸売市場協会
【関連ページ】渋谷のホテルが提案する、これからの“等身大の”社会貢献「ソーシャライジング」とは?
【関連ページ】廃棄予定の花に新たな価値を与えるフラワーサイクリスト河島春佳

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