児童労働搾取が懸念される天然マイカを使わない。アメリカ発コスメブランド「Aether Beauty」の挑戦

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日常生活を送る中で、サステナブルでエシカルな工夫を実現するアイデアはどんどん広がっている。「買い物は投票」と言われるように、私たちが日々消費する身の回りのもの、例えば食品、ファッション、日用品などを、地球環境、人権問題やアニマルライツにフォーカスしながら選ぶこともその一つだ。

では、サステナブルな選択ができるアイテムの一つとして、化粧品はどうだろうか。化粧品は、贅沢品や嗜好品とも捉えられるが、実際には多くの人が日常的にもしくは頻繁に使用する生活に密着したものでもある。

クルエルティフリーヴィーガンゼロウェイスト、ロー・カーボンフットプリント、パーム油不使用など、環境と倫理に配慮したコンセプトを目にする機会は増えてきた。特にスキンケア、ボディケア、ヘアケアのカテゴリーでは、原料を厳選・シンプル化・地域調達し、詰め替えを推進することでサステナビリティは確立しやすい。一方で、前述のカテゴリーに比べると原料や製造工程が多様で複雑そうなメイクアップコスメにおいても、サステナビリティは実現できるのだろうか。

今回紹介したい、2018年に誕生したアメリカ発のAether Beauty(エイサー・ビューティ)は、メイクアップコスメが立ち向かうべきサステナビリティの多くの課題に挑戦している次世代のブランドである。

Recyclable Rose Quatyz Palette

Aether Beautyのアイシャドウパレット。Image via Aether Beauty

現在は複数のアイテム展開を広げているが、スタート時は業界初の「100%ゼロウェイストのアイシャドウパレット」を発表し、注目を集めた。Aether Beauty は、ゼロウェイストを含めた以下のポイントに配慮している。

  1. 原料
    • ノントキシック(有害なものを含まない)処方
    • オーガニック・フェアトレード原料を積極的に使用
  2. アニマルライツについて
    • ヴィーガン(動物由来原料を含まない)
    • クルエルティフリー(動物実験をしない)
  3. パッケージ
    • ゼロウェイスト
    • リサイクル素材・リサイクル可能素材を使用
  4. 児童労働搾取反対
    • 天然マイカ不使用

1. 原料

創業者のTiila Abbitt は、ファッションデザイナーとしての経験を経たのち、11年間化粧品開発を専門としてきた。グローバルブランドに携わってきた彼女は特に、アメリカのカラーコスメにおいては禁止成分が11種に限られているのに対し、ヨーロッパでは1,300種にものぼるため、アメリカよりずっと厳しいヨーロッパの基準でノントキシック(無害)でオーガニックなカラーコスメを開発してきた背景がある。

その方針は自身のブランドでも貫いており、オーガニック、エシカル、フェアトレードは彼女の原料調達における中核となっている。使用する成分についてウェブサイト上で公開している。 そしてそれと同時に、発色や仕上がり、エクスペリエンスにおける妥協のないメイクアップを実現することが彼女のパッションでもある。

2. アニマルライツ

彼女自身の食生活はベジタリアンで、プラントベースも多く取り入れているそうだ。Aether Beautyのプロダクトには動物由来成分は一切使用されておらず、動物実験が必要となる過程もとっていない。

3. パッケージ

業界初の試みと絶賛されたゼロウェイストパッケージでは、細部へのこだわりが確認できる。一般的なコスメのパッケージには軽量で丈夫なプラスチックが多用され、リサイクルされず廃棄されていくゴミ問題の大きな要因の一つとなっている。

そこでAether Beautyは、アイシャドウパレットに紙パッケージを採用し、印刷も植物性のインクで生分解可能に、付属の鏡やブラシも省き、そして開閉にはマグネットやボタンではなくゴムバンドを使用した。これによって、購入者は使い終わって捨てる際、自宅で簡単に分解し、分別することで、それぞれリサイクルされやすいゴミとして出すことができる。

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Aether Beautyの紙パッケージには、国際的な森林認証制度であるFSC認証マークがついている(筆者撮影)。

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開閉にはゴムバンドが使われているため、自宅で簡単に分解し、分別することができる(筆者撮影)。

現在、Aether Beautyはリキッドタイプのリップスティックも販売しているが、こちらは廃棄プラスチックを再利用して作られた、最もリサイクルしやすく、実際に最もリサイクルされているカテゴリーのプラスチックを使用している。

4. 児童労働搾取反対

化粧品業界の人権問題について語られる機会は、限られているかもしれない。しかし実は、多くのメイクアップコスメに含まれているある天然成分は、児童労働搾取の大きな闇を抱えている。

メイクアップコスメの中でも特にキラキラとした輝きや艶めきを出すアイテムには、天然マイカ(雲母)という天然鉱物から採れる成分が多用されている。光を放つこの特殊な天然資源は、化粧品に限らず、自動車、電気製品や塗料など様々な製品で使われ需要が非常に高い。天然マイカ市場は今や500億円の価値を超える大きな市場と言われており、そのほとんどはインド東部から来ている。

しかし、細く暗い穴に入り細かい鉱物を削りながら採掘する工程は、非常に危険なのだ。体と手が小さい子供はこの採掘作業に向いているとされ、違法であるにも関わらず、インド東部の貧しい町の子供たちは毎日、危険と隣り合わせの天然マイカ採掘をして生計を立てていると言う。その様子は、Refinery29が、2万人を超える児童が労働搾取されているという現地に出向き取材したビデオで確認することができる。

動画の中で、8歳からずっと天然マイカ採掘をしているという11歳の少女は、インタビューにこう答えている。

「毎日一つずつ手作業で、ものすごく時間がかかる作業なの。でも家族が食べていくためには仕方がない。」
「採掘所の中に入っていくのはこわいよ。いつ崩れて埋もれるかわからない。」
「破片が落下し、死んでいった子供を見たことがあるわ。」

子供たちは学校にも行けず、1日50円にも満たない賃金のために、恐怖に怯えながら、どこに行き何に使われるかもわからない鉱物を採掘しているのだ。

取材記者によると、インドの中でも最も貧しいこの町は典型的な「資源の呪い(resource curse)」と呼ばれる状況に陥っているという。これは、希少な天然資源を抱えているにも関わらず、政府による管理が不在であることや先進国による商業的搾取により、経済的成長を得られないパラドックスのことである。

このビデオは更なる闇の部分も追求する。採掘された天然マイカの多くは取引業者に引き渡される際に、認可の下りた合法採掘場で採られたものとして取引され、違法の児童労働があった事実は消されるそうだ。サプライチェーンのトレーサビリティは不透明になってしまう。

こういった背景を知ったAether BeautyのTillaは、厳格な基準により児童労働搾取が背景にないと確認された天然マイカか、それが難しい場合は人工である合成マイカを使用する方針を明確にしている。Aether Beauty同様、児童労働搾取のある天然マイカの問題に取り組んでいるLUSHによると、一般的に合成マイカは「合成フルオロフロゴパイト」と表記されるそうだ。

天然マイカの問題はパーム油のケースとどこか似ているかもしれない。原料そのものは天然で汎用性が高く優れているが、過剰な商業利用や人権侵害は持続可能とは言えない。実際に多くの人の身の回りで使われている両素材は、ボイコットすることだけが解決策ではない。過剰な採取を見直すことと、この産業に頼って生計を立てている貧しい人々に妥当な賃金を確約することが重要である。

Aether BeautyとLUSHは、マイクロプラスチックとして海に流れ出るプラスチックグリッターも使用していない。

まとめ

Aether Beautyは、サステナビリティや倫理の概念がまだあまり語られていないメイクアップコスメにおいて、非常に多くの項目にすでに取り組んでいる貴重なブランドである。

大手化粧品メーカーがおざなりにしてしまっているコンセプトを消費者にも気づかせてくれている。背景に闇を感じさせない、真にキラキラした華やかさのあるメイクアップコスメがこれからも増えていくことに期待したい。

【参照サイト】Aether Beauty(エイサー・ビューティ)
【参照サイト】Blood Mica: Deaths of child workers in India’s mica ‘ghost’ mines covered up to keep industry alive (Reuters)
【参照サイト】The Makeup Industry’s Darkest Secret Is Hiding In Your Makeup Bag (Refinery29)
【参照サイト】Inside The Beauty Industry’s Environmental Awakening (Refinery29)
【参照サイト】ラッシュのマイカについてよくある質問 (LUSH ジャパン)
【関連記事】行動を起こすのは、自分のため。英コスメブランドLUSH・創立者が考える、「地球に住みかを借りる」私たちがすべきこと

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