気候危機対策で雇用もつくるイギリス。100万人以上の「グリーン・ジョブ」創出へ

Browse By

新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)の感染拡大により、多くの国々でロックダウン(都市封鎖)が強いられた。段階的な経済活動を再開する動きは見られるものの、新型コロナと共存しようという「ウィズコロナ」体制の浸透により苦境に立たされる人々も多く存在する。

経済活動の停止により世界的な問題となったのが失業者の増加である。なかでもアメリカでは4月の失業率が14.7%となり、戦後最悪の状態に陥った。人々の生活を支えるため各国はあの手この手の対策を打つが、感染拡大の第二波が懸念されるだけに、慎重な対応が求められている。

このような世界的不況のなか、コロナショックからの回復の原動力として環境関連産業の拡大に期待が高まっている。そこで2020年6月、イギリスのLGA(Local Government Association:地方自治体協会)が報告書を発表し、経済回復に向けた手段として「グリーン・ジョブ」と呼ばれる環境関連の雇用を促進していくべきだと主張した。

「グリーン・ジョブ」として主に再エネ関連の雇用創出が期待される。

LGAはこれまで政府主導の雇用政策が失敗に終わっていることに警鐘を鳴らしてきたが、政府が2019年6月にカーボンニュートラルの実現を目指し発表した「UK net zero target」への動きを加速させるべく、今回の報告書で政府と地方自治体の連携の必要性を強く訴えた。

報告書では、政府の役割として「就業保障プログラム」や「職業復帰サポート」の提供に加え、「UK net zero target」を地方自治体単位に落とし込んだカーボンニュートラル達成のためのロードマップを示すべきだとしている。今回の、国を挙げての取り組みが実行されれば、今後10年で70万人、2050年までには100万人以上にものぼるグリーン・ジョブが生まれるという試算だ。

創出されるグリーン・ジョブの半数は再生可能エネルギーの発電関連で、次いでエネルギー効率(21%)、低排出車製造(14%)、代替燃料生産(10%)などに関連した職が新たに生み出されるという。また、創出される雇用の28%以上がヨークシャー、ハンバー、そしてノースウェストといった地域に集中すると見られ、特にハンバーでは、イギリス最大の電力会社「Drax」や北欧最大のエネルギー会社「Equinor」といったエネルギー関連企業を中心にカーボンニュートラルへの動きが加速しており、グリーン・ジョブが集中すると想定されている。

この試算はCCC(Comittee on Climate Change:気候変動委員会)やナショナルグリッド(イギリスの送電・ガス供給事業者)といったLGAのパートナーが示すロードマップ、さらに2030年までに電力の3分の1を洋上風力発電で賄うとする政府の目標を元に作成された。

LGAのリチャード・リース氏は「地方自治体はそれぞれのレベルで気候変動の課題に取り組んでおり、地域の経済成長や職能プログラムに変化をもたらしはじめている」と述べ、地方での新たな雇用機会創出に期待を示した。

イギリスが経済の再生を推し進めるなかで気候変動へのアプローチを柱として据えるとなれば、コロナ不況から脱却する上で世界のモデルとなり得る。ただし、イギリスに限らず、経済対策と気候変動対策に持続的に取り組み成果を得るためには、国が掲げたビジョンを地域単位に落とし込むことがカギとなってくる。地域の企業との協働、そして国の垣根を超えた協働で、ウイルスと気候危機に立ち向かっていきたい。


【参照サイト】 LGA: Over a million new green jobs could be created by 2050
【参照サイト】新型コロナ失業、世界で深刻 若者直撃、米は戦後最悪
【参照サイト】UK net zero target
【関連記事】イギリスで建設が始まった、450万世帯のエネルギーを賄う世界最大の洋上風力発電所

FacebookTwitter