IDEAS FOR GOODでは、自分が自然や人とどのような「つながり」をもっているのかを可視化し、これからどんな「つながり」を築いていきたいのか、読者の皆さんと一緒に考えていきたいという思いから、「Design for Good 〜つながりのリ・デザイン展〜」を企画しました。
今回は、8週連続トークライブ配信イベントより、2020年6月28日に行われた、第3回「花が彩る、日常の小さなつながり」のイベントレポートをお届けします。
今回のゲストは、ロスフラワー(廃棄される花)を救う活動をしている、フラワーサイクリストの河島春佳さん。コロナ禍での河島さんのパワフルな活動や、お花が生み出す人のつながりなどについてお話を伺いました。トークのファシリテーターは、IDEAS FOR GOOD編集部の木原優佳が務めています。
話者プロフィール:河島春佳(かわしま・はるか)
フラワーサイクリスト。廃棄直前の花を回収し、美しいドライフラワー作品へと仕上げるクリエイター。東京家政大学服飾美術学科卒業。生花店で働く中で廃棄になる花の多さにショックをうけたことから、独学でドライフラワーづくりを学び、フラワーサイクリストとしての活動を始める。2018年にはクラウドファンディングにて資金を募り、パリでの花留学を実現、現地でのワークショップ開催を成功させる。2019年12月には株式会社RINを設立。「花のロスを減らし花のある生活を文化にする」をミッションに掲げ、幅広い活動を行う。
ロスフラワーに新たな命を吹き込む、フラワーサイクリスト
──咲ききってしまった、少し傷がついてしまったなどの理由で廃棄されることになっていたお花や、形や色が基準を満たさないため市場で売ることができない規格外のお花を買い取り、ドライフラワーに変えることで廃棄されるお花を減らす活動をしている河島さん。ロスフラワーを使ったワークショップに始まり、ルミネ北千住館内の装飾プロデュースや、大手ビューティーブランドとのタイアップなど、その活動は多岐に渡ります。
また昨年11月には、SNSやメディアでの発信、ロスフラワーの商品作成・販売などを通してロスフラワーの普及を担うフラワーアンバサダーのメンバーを募集。河島さんが100名以上の応募の中から30名を選出し、活動の輪をさらに広げています。
新型コロナウイルスの影響は、花き業界にも…
──新型コロナウイルスによる外出自粛要請や緊急事態宣言が出された3月〜4月。卒業式や謝恩会、入学式などで贈られる予定だった大量の花が行き場をなくしたというニュースが度々メディアで報じられていました。花き業界の裏側をよく知る河島さんは、当時の厳しい状況の中どのようなアクションを起こしていたのでしょうか?
河島さん:春は、1年のなかでもお花を贈る機会の多いシーズンですよね。それにちょうど重なる形で緊急事態宣言が出されてしまったので……やはり、かなり多くのお花が行き場を失っているようでした。私もニュースでその状況を見ていて、「自分に何かできないか」と思っていたところ、あるバラ農家さんから連絡をいただいたんです。その方は「毎日バラのお花を何千本も廃棄しなければならず、それがとてもつらい」とおっしゃっていました。どうにかこの状況を助けてもらえないか、という切実なSOSでしたね。
また、続けてダリア農家さんからも連絡をいただいたんですね。その時に送っていただいた写真には、地面に無造作に積まれた大量のダリアが収められていました。こちらの農家さんでは、週に8000本もダリアを廃棄しなければならない状況だったそうです。画像を通すと、新型コロナの影響がどれほど深刻なものなのかがひしひしと伝わってきて、途方にくれてしまいましたね。
ですが、こうして「一生懸命育ててきた花を自らの手で捨てなければならない農家さんたち」の姿を目の当たりにし、心苦しさを感じたことは、コロナ禍で行動を起こすための大きな原動力にもなっていましたね。そもそも私のロスフラワー活動の根本には「お花を捨てたくない」「花を捨てざるを得ない花き業界の人たちの罪悪感をなくしたい」という想いがあります。ここで自分がやらないと!と強く決意し、生花の代行販売に踏みきりました。もちろん私一人では全国の農家さんを助けることはできないけれど、目の前の農家さんにだけでも全力で手を差し伸べよう、と。
──河島さんは、ご自身の会社で、フラワーサイクルマルシェというオンラインショップを立ち上げ、普段はウエディング用である超一流ホテル装飾用のバラやユリなどの行き場をなくしたお花を、通常よりも低価格で販売されていました。
お花文化の定着が、ロスフラワーを減らす
木原:ご自身の事業も新型コロナの影響を受けて大変な状況だったのではないかと思いますか、そんななかでも他の誰かのためにパワフルに活動されていたのが印象的でした。コロナの影響が出始めたころから行っていた花の代行販売等に加えて、5月には、「母の日」だけではなく、5月の1か月間を「母の月」とし、感謝を伝えるためにいつでもお花を贈ろうよ、と呼びかける取り組みも行われていましたよね。
河島さん:お花の需要って、母の日やクリスマスなど特定のイベントの日に集中する傾向があるんですね。そうしたイベントの時期だけ、花屋は過剰に忙しくなります。また、母の日ならカーネーション、といったように特定の花を贈ることも多いですが、そうした花は当日が過ぎると、途端に売れなくなってしまう。つまり、廃棄になるお花も増えてしまうということです。
実は、こうした問題を踏まえて、花き業界のなかでは以前から「母の月」を定着させようという動きがうまれていたんです。これまでは世間に定着するまでには至っていませんでしたが、今回のコロナを機に多くの人が「母の月」を認識し、共感してくれたという実感がありましたね。実際、今年はお花が5月いっぱい売れ続けていたので、その点はとても良かったと思います。また、ホームセンターで苗を買う人が増えたのも良い流れですね。これが来年も続くように、更には年中お花を贈る文化を日本に定着させることを、目指しています。
木原:たしかに、家に籠る時間が長くなったからこそ、「自分の心のビタミン補給」になるお花やグリーンが欲しいなと感じた人は多かったかもしれませんね。
河島さん:そうですね。とはいえ、まだまだ廃棄される花の数は少なくありません。世の中では以前の生活が少しづつ戻ってきているように感じるかもしれないけれど、花き業界の場合、お花の大きな需要もとである結婚式が行われていないこともあり、これまでの状態には戻れていないという実感があります。そういった状況で私たちにできる目の前の取り組みとしては、やはりいかに日常にお花を取り込んでもらうかを模索することなんです。普通の生活の中で、みんなが少しずつお花を買ってくれることが、ロスフラワーを減らすことにつながるんです。
フランスのパリでは、ロックダウンが開始される前日に人々がお花を買い求め、お花屋さんのお花が売り切れ状態だったそうです!それくらい、パリの人々にとってお花は「必要なもの」として日常に溶け込んでいるんですよね。普通の生活の中で、みんなが少しずつお花を買うことが、ロスフラワーを減らすことにつながる。それをぜひ覚えていていただけたら嬉しいですね。
お花が生み出す、“心地よい”人のつながり
木原:河島さんが改めて考える、「お花のある暮らし」の良さとは、どのようなものでしょうか?そして、お花を中心とした人の「つながり」とは、どのようなものでしょうか?
河島さん:お花のある暮らしの良さは、やはり「心の癒し」にあるのではないでしょうか。例えば、パソコンだらけの無機質なお部屋にグリーンが一本あるだけでも、気分は全然違うものです。お花は生きているものなので、私たちにエネルギーを与え、ストレスを軽減してくれます。また、食卓にお花を置くことでその場所が華やかになり、家族の集まりやすい場所を作ってくれると思います。
お花を中心とした人の集まりの中には、いつも「感謝」があるな、と感じますね。日本は特別な日のお花のギフト需要がとても高いのがユニークな特徴なので、海外のようにお花を日常に取り入れてもらいたいのはもちろんですが、同時にこの素敵なギフト文化ももっと気軽で身近なものにしていけたらいいなと思います。
例えば、手土産。大抵の場合は食べ物を渡しますが、もっと気軽にお花を手土産にしても良いのではと思います。お花をいただいて嫌な方って、そんなにいませんよね?また、家で飾っていたお花をドライフラワーにして友人にちょっとしたプレゼントをすることで、そこからお花を中心とした新しい会話も生まれますよね。
大切にしていきたいのは、身近な人たち
木原:今回のコロナ禍で、これまでのように人と気軽につながれなくなったり、反対にテクノロジーを通じて新しいつながりが生まれたりしたと思います。河島さんはこのコロナ禍で、「つながり」について、どんなことを考えていたのでしょうか?
河島さん:今回をきっかけに、どんな人生にしていきたいのか、どういった人と一緒に自分の人生を歩んでいきたいかを、より考えるようになりましたね。以前にも増して、一緒に頑張ってくれる仲間や家族、友人といった、身近で大切な人とのつながりをより大事にしたい、と思うようになりました。自分にとって大切な人は誰なのかを改めて考え、きちんと大切にすることが、彼らに愛を伝える一番の方法だと思いますし、自分も幸せでいるためにはベストだと思うんですよね。あとは、お金の使い方に関しても変化があり、以前より、「応援にお金を使う」という感覚が強くなりました。「いかに好きな人に自分のお金を使うか」「このお金を使ったら誰が幸せになるのか」などを、意識するようになったんです。例えば今回を機に、農家さんから直接お野菜を買うことができる「お野菜の産直」を始めたのですが、自分がお野菜を買うことで直接その農家さんの応援につながっていると感じられることは、とても幸せですね。
アフターコロナで必要になってくるつながり
木原:河島さんが考える、アフターコロナの時代で必要になってくるつながりとは、どんなものでしょうか。そして、ご自身の活動を通して、どんなつながりを作っていきたいですか?
河島さん:先ほどの話と少し重複しますが、自分の人生をどういうものにしていきたいかというところから逆算して、取捨選択を行っていく必要があると思います。何より自分の心のエネルギーになるつながりを保ちたいですね。また、先ほど、身近な人たちとのつながりをより大切にしていきたいという話をしましたが、反対に現代だからこそつながることができる人ともっとつながっていけたらいいですね。今回連絡いただいた農家さんたちのように、オンラインでしか会えなくても、「一緒に仕事したいな」と感じられる人たちとつながりたいです。
そして今後重要だと思うのは、ネットなどの膨大な情報の中で、自分にアドバイスをくれる人や、活動を一緒にやりたいと言ってくれる人をいかに見つけて、つながるか。みんなで手を結んで活動の輪を広げていくことがポイントになると思います。これからは、フラワーアンバサダーのみんなや、一緒に活動してくれるメンバーとはより濃厚に。そして、ものづくりなど、好きなことで生きている人ともどんどんつながっていきたいですね。
編集後記
メイントーク後、参加者から「恥ずかしく感じて躊躇してしまう人が多いと思うのですが、どうしたらお花を気恥ずかしくなく、大切な人に渡せるようになりますか?」という、良い質問が。河島さんは、「こうしたお悩みを抱えているかたはけっこういらっしゃるみたいですね。特にお花屋さんに入るのも気恥ずかしいという男性が多いとも聞きます。お花を贈るのはキザな男性というイメージがテレビドラマなどによって刷り込まれているのかもしれませんね。でも、全然そんなこと気にする必要はないと思います!どうしても恥ずかしく感じてしまうのであれば、まずはひまわりなど、元気な色のお花から選んでみるのはどうでしょう?そこにすこしグリーンを加えてもらうだけでもさわやかなブーケが出来上がりますよ!」とアドバイスをなさっていました。
また、最後に河島さんからこんなメッセージをいただきました。
「今日家に帰る途中にでも、近くのお花屋さんで一本で良いのでお花を買ってみてください。そして、お花のエネルギーや生命力をじっくり楽しんでみてください!」
お花を真っ直ぐに愛し、常に信念に従って行動し続ける河島さん。筆者も実を言うと、今までお花は特別な日のギフトとしてもらうことが多く、日常で自分のためにお花を買うのは少しハードルが高いと感じていましたが、これを機会にもっと気軽にお花を日常に取り入れたり、大切な人に贈ってみたいと思いました。
次回のイベントレポートもお楽しみに!
【Youtube動画】
Design for Good 〜つながりのリ・デザイン展〜 Vol.3「花が彩る、日常のなかのちいさなつながり」
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