2020年9月19日、ニューヨーク市マンハッタンのユニオンスクエアにある62フィート(約19m) の巨大電光板に、ある数字が現れた。
7 102 16:42:16
この数字を見て、何を思い浮かべるだろうか?
ニューヨーカーなら誰もが見たことのあるこの電光板は、アーティストのクリスティン・ジョーンズ氏とアンドリュー・ジンゼル氏によって作られ、1999年に設置された「メトロノーム」と呼ばれる巨大な街中アートの一部だ。普段、この電光板に並ぶのは15桁の数字である。中央の数字が止まることなく変わり続けていて、一見不思議な並びに見えるこれらの数字は、現在の時刻を示したもの。24時制で左端から「時間、分、秒、10分の1秒」が、そして右端からその日1日の残された時間が表示されている。
そんな毎日の時刻を知らせてくれる電子時計が、9月19日から「10桁の数字」を表示するようになった。筆者がここを訪れた9月20日、午後2時17分の時点で表示されていたのが、先述の「7 102 16:42:16」である。
グリーンマーケットが開かれたり、コンポストの収集ボックスが設置されていたりすることもあり、普段たくさんの人が利用するユニオンスクエア──駅を出てすぐ目に入る巨大時計の、普段とは少し違う様子を目にした通行人たちからは「何の日数だろう?」「地球が終わってしまうまでの時間だったりして……?」と様々な声が聞こえてきた。
7 102 16:42:16=7年102日16時間42分16秒──この数字が示すのは、温暖化が進み、地球が深刻な状況に陥り、取り返しがつかないことになってしまうまでのタイムリミットだ。SDGs達成目標の2030年まであと10年弱だが、私たちがこのままの生活を続けていればそれよりも短い7年と102日で地球は限界を迎えてしまう、ということらしい。私たちにのんびりしている時間はないようだ。
EVERY CITY SHOULD DO THIS! NYC just turned the Metronome in Union Square into a Climate Clock counting down the 7 years and 102 days we have left to dramatically reduce carbon emissions! https://t.co/zaAs3Qy7Fp #ActInTime #GreenNewDeal #ClimateWeekNYC#ClimateClock pic.twitter.com/LC7LTIJECT
— TheClimateClock (@theclimateclock) September 20, 2020
「地球には期限がある(The Earth has a deadline)」のメッセージと共に現れた日数は、ガン・ゴーラン氏とアンドリュー・ボイド氏の「気候時計(Climate Clock)」と名付けられた作品。電光板に表示している制限時間は、独・メルカトル研究所がIPCC(国連の気候変動に関する政府間パネル)のレポートを元に作成した「カーボン時計」の考え方に則った、科学的計算に基くものである。気候時計は、ニューヨーク気候週間が開催されている9月27日まで表示される予定だ。
こちらの気候時計は、この二人のアーティストが作成したウェブサイトから誰でも閲覧可能。サイトではさらに、気候変動対策への投資の割合やアクションのスピードを変えた場合に、それぞれ気温上昇やカーボンエミッションにどう影響するかをシミュレーションすることができる。
筆者も実際に、このシミュレーションにトライしてみた。試しに、下記の図のように「今と同じビジネスを続けた場合(BUSINESS AS USUAL)」の項目にチェックを入れてシミュレーションを行ってみる。すると、白いアイコンが自動的に移動し、それぞれ「気候変動対策への投資は少ない」「取り組みのスピードは遅い」という位置に設定された。この場合、2030年には気温が2.11℃上昇し、2100年までに3〜4℃の上昇が見込まれているようだ。
対して、グリーンニューディールを取り入れた場合を表すのが、こちらのグラフ。
グリーンニューディールを採用することで積極的な投資、迅速な取り組みを行うと、カーボンニュートラルを達成することができ、気温の上昇の最高値を2040年ごろに1.5℃に抑えることができると予想されている。この場合、気候災害の最悪の状況を避けて、未来の世代に「生命の住処としての地球」を受け継ぐことができるということだ。
こうしてグラフを見比べてみるだけでも「今すぐに気候変動対策の優先度を上げて、迅速な行動をとることこそが大切なのだ」ということが理解できる。
「電光板でのカウントダウン」という形で地球のタイムリミットを可視化したアートは、「『遠い先の話』だと思ってしまいがちな環境問題は『意外と近い未来の、自分に関係する話』なのだ」と人々に直感的な気づきを与える。また、誰もが目にする公の場にアートを設置することで、環境問題への関心の有無、各人の社会的な立場の違いに関わらず、気候変動危機を知り、考え、解決に向けて、真剣に取り組むためのきっかけを多くの人に与えている点でも、人々の意識改革に寄与していると言えるだろう。
温暖化、気候変動、アースオーバーシュートデー……ニュースに出てくる単語を聞いただけでは、環境問題がどれくらい危機的な状況なのか分かりづらいし、ましてや「『自分が』どのようなスピード感で、何をすれば良いのか」を想像するのは難しいことかもしれない。対策の重要性が分からない問題に対して行動を起こすよう求められても、ジブンゴトとして考えるのは難しいだろう。だからこそ、今回の街中アートのように、社会課題やその喫緊性について誰もが知ることができるきっかけを作るのは、未来の地球のためにも大切なことである。
地球に残された時間を知った今、私たちはどのような行動を起こせばよいのだろうか。一人ひとりにできることを考えてみよう。
【参照サイト】Climate Clock
【参照サイト】Flatten the Climate Curve
【参照サイト】MCC Berlin
【参照サイト】A New York Clock That Told Time Now Tells the Time Remaining|The New York Times
【参照サイト】Metronome in Union square|Bloomberg
【参照サイト】TheClimateClock|Twitter
* Beta version of #FlattenTheClimateCurve ©2020. Tool designed by Gan Golan and Andrew Boyd; programming by Adrian Carpentər; video-explainer by Alex Cequea; science advising by Richard Heinberg (Senior Policy Analyst, Post-Carbon Institute) and Bill Becker (Executive Director, Presidential Climate Action Project); a project of ClimateClock.world and Beautiful Trouble.
Edited by Yuka Kihara