あえて半製品に。Tシャツのアップサイクルで手芸糸をつくるWAcKAのサーキュラーエコノミー

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今やアップサイクルという言葉は、サーキュラーエコノミーの一つの手段としてお馴染みの言葉になっている。アップサイクルとは、本来捨てられるはずの廃棄物や不要物を、アイデアや追加素材を加えることで、さらに価値ある上位のものに生まれ変わらせること。サーキュラーエコノミーにおいては、製品を長く使うことや再利用すること、シェアすることなどが優先されるべき手段ではあるが、このアップサイクルも原材料の維持という観点で重要な方法として位置づけられている。

そんなアップサイクルを日本で先駆けて取り組んできた団体がある。糸のほつれや、不良品などの理由により大量に返品される新品Tシャツをアップサイクルし、手芸糸(Tシャツヤーン)にする事業を営むWAcKAだ。今回は、WAcKA代表の梶原誠さんにWAcKAの活動やアップサイクルの位置づけについて話を聞いた。

WAcKA代表 梶原誠さん

WAcKAは、Tシャツのアップサイクル事業を通じて、新品衣料品の廃棄問題に取り組む。その功績が認められ、2017年に環境省主催「第5回グッドライフアワード」の環境と福祉賞を受賞し注目を浴びた。同時にアップサイクルという言葉がより一層広まるきっかけになった。WAcKAは、不良品や販売不振などを理由に廃棄される運命にある新品のTシャツを手芸糸(これをTシャツヤーンという)にし、それを使って編み物にするワークショップを開催。手芸糸自体もEC販売しているが、ワークショップを主軸として活動している。

Tシャツヤーン

Tシャツヤーンができ、ワークショップに至るまで

梶原さんは縫製業を家業として営む家庭に生まれ、自身も繊維産業に20年間勤めた経験を持つ。繊維産業で感じたアパレル産業が引き起こす問題に取り組む目的で、2017年1月にWAcKAを設立。試行錯誤のうえ、TシャツヤーンiTToブランドを立ち上げることになった。梶原さんによると、このTシャツヤーンを本物のTシャツからつくっているのは、WAcKAが世界で初めてだという。「Tシャツヤーンはもともとヨーロッパに存在していましたが、本当にTシャツでつくっているわけではなく、多くは生地端材からつくっています。私はTシャツの廃棄を削減したいという思いから、Tシャツからヤーン(糸)をつくっています」と梶原さんは話す。TシャツからできたiTToは通常の糸よりも伸びやすいという特徴があるという。

 

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iTTo . 生地製造工程で発生する生地端材をアップサイクル . 綿100%でアップサイクルヤーンなのに、軽量で 比較的糸幅も安定しています。 繋ぎ綿も全て繋ぎ合わせています。 . お値段もお求め安い1,000円です。 . 規格 長さ:80-100m 重さ:450-500g . 今回は 再入荷のロイヤルブルー 新色のミルクティー . ご購入はこちらより http://itto0113.shop . プロフィール画面よりHP経由でストアーに入れます。 . . #iTTo #WAcKA #whomademyclothes #ethicalfashion #ethical #sustainablefashion #sustainable #upcycle #reusetee #アップサイクル #アップサイクル糸 #アップサイクルヤーン #tshirtyarn #zerowaste #packagefree #繊維廃棄量削減 #sdgs #ロシアヤーン #Tシャツヤーン #染糸 #マスク #マスクゴム #マスクゴム代用品

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TシャツヤーンiTTo (WAcKA公式Instagramより)

WAcKAのモデルをご紹介しよう。まずアパレルメーカーやアミューズメントパーク、学校、小売店から綿100%の新品Tシャツを回収。その数は年間約1万枚にも上るという。その後、提携する心身障害者福祉施設で回収したTシャツを手芸糸にする。糸はECでも販売されているが、編み物ワークショップを通じて、財布やぬいぐるみ、バッグなどの製品に生まれ変わらせる。バッグや財布などを完成品として販売することもできるのだが、あえて糸という半製品にし、それをワークショップで完成品にする。

WAcKAのモデル(WAcKA提供)

「Tシャツから手芸糸にアップサイクルしたといっても、全体の環境負荷への貢献としてはごくわずかです。どちらかというと、手芸糸を使って編み物をして『楽しい』と思ってもらうことを目的としています。環境問題というと少し重たく感じられがちですが、『編み物ワークショップに参加しませんか』と呼びかけることでハードルを下げられます。楽しみながら環境問題にアプローチしたかったのです。完成品ではなく半製品にしたのは、皆さんに作っていただくことで、環境貢献したという経験を持ってもらう目的があります。なぜこの糸は生まれ、どこから来たのだろうかと思いを巡らせることができます」と梶原さんは話す。

ワークショップが生み出すもの

ワークショップが生み出すものは多い。そのうちのいくつかをご紹介しよう。

伝道師を生み出す

ワークショップでは、純粋に編み物を楽しむように構成されているが、ところどころで「実は皆さんが編んでいる糸は、Tシャツからできていて……」といった具合にアパレルを巡る環境問題について話していく。当初は、環境問題に関心を持たない層が参加者の中心だったが、最近は少しずつ認知されてきて、関心の高い方も参加するようになったという。

いきなり『新品衣料品の廃棄物問題とは?』と話すのではなく、まずは楽しみながら編み物をする。その結果、少しでもアパレル業界が直面している環境問題に思いを巡らせてほしいというのが目的とするところ。「たくさんの商品を生みたいわけではなく、この課題を語っていただける伝道師を増やしていきたいと考えています」と梶原さんが語るように、課題を知る人が増え、伝道師が増えることもWAcKAが目指すことだという。

「お孫さんに自分のつくった手芸品をプレゼントをした高齢者から聞いた話です。お孫さんのお友達から『同じものを作ってほしい』とリクエストがあり、その方も私も嬉しく思いました。そんなコミュニケーションが生まれるときに大切なのは、どんな糸からできたものかを少しでも伝えていただく伝道師としての役割です」

モノの正当な価値を判断できる感覚を養う

自分で手を動かしモノをつくることで、モノの正当な価値を判断する感覚を養うこともワークショップが生み出すものである。「例えば1日かけて自分で作ったものは1万円以上の価格で販売したいと思うでしょう。その方が何かモノを買うときに、その体験を天秤に掛けるようになってほしいというねらいもあります」と梶原さんは言う。

ワークショップの様子(WAcKA提供:写真は新型コロナ感染症拡大以前に撮影されたもの。現在は新型コロナ対策に万全を期したうえで開催している)

輝ける場を生み出す

環境問題だけではない。ワークショップは高齢者が輝ける場になっている。参加者の年齢層は三世代にわたるが、特に編み物が得意な高齢者の参加者が、他の参加者に手法を教えるように構成されている。「教えるのが楽しくて、ご自身で編み物教室を始めた方もいます。ご活躍の場を提供することで、その方が生き生きとするのです」と梶原さん。

また、他都県でもマルイや西武・そごうなどの大手百貨店や大手小売店でもワークショップを随時開催している。これらの会場はオープンスペースで実施することが多く、一般客が珍しそうに関心を持って見てくれるので、広がりのある活動として継続しているという。今後は、ワークショップの担い手を全国で増やしていく活動をしていく予定だ。

ワークショップで完成したバッグやぬいぐるみなど

コロナ禍で大切なサーキュラーファッションの考え方

新型コロナ危機によりアパレル業界は大打撃を受けている。この状況下で大切になってくる考えを梶原さんにお聞きした。

「『過去のトレーサビリティ』と『未来のリセーラビリティ』を大切にしたいと思っています。過去のトレーサビリティは、誰がつくって、誰が使ったのかがはっきりわかるようになるという考え方です。未来のリセーラビリティとは、次に誰かが使うものを想定したものを消費するということ。リセル(再販売)できることを前提として、価値のあるものを使う考え方です。あるいは売らなくとも、次の世代に使えるもの、モノの未来を想定した商品ということです。販売量自体は減るかもしれませんが、付加価値をつけて売上を上げていくことが今後重要になっていくのではないでしょうか。その結果、環境負荷を下げていくことにつながるのだろうと思います」

こちらはネクタイから蝶ネクタイへアップサイクルした完成品(WAcKA提供)

サーキュラーエコノミーの視点から

WAcKAの活動をサーキュラーエコノミーの視点から見ていこう。

1. アパレルの新品衣料品の廃棄問題にアプローチ

不良品やブランド毀損の防止など、新品衣料品の不良等による廃棄問題は長年課題となってきた。特に、2018年に明らかになったバーバリーの新品衣料焼却処分額(販売額で約42億円)が世界に衝撃を与えたことが記憶に新しい。その後、業界全体としてこの課題に取り組む動きが活発になっている。新品衣料廃棄数について、「正確なデータはありません」(梶原さん)ということだが、その点数は相当なものだと想定される。株式会社小島ファッションマーケティングの数値検証によると、2019年で年間14億7,300万点の衣料が売れ残っているという。これらの全てが廃棄されるわけではないが、課題は大きい。これには、業界の構造的な課題や日本の厳しい品質管理の文化などさまざまな原因がある。したがって、服の素材やリサイクル、服を短期間着用して廃棄するという課題などにアプローチすると同時に、この問題にもアプローチする必要があり、WAcKAはまさにそこに挑戦している。

WAcKAのビジネスモデルとしては、新品Tシャツの廃棄から糸をつくっているため、この問題が解決すれば解決するほど、原材料の入荷が減る。これに対しては、「それが究極の目標です。そうなればいいと思いますし、そうなれば食料など他のまだ残っている廃棄問題にアプローチしていきたいと思います」と梶原さんは話す。

2. サーキュラーエコノミーと「社会」

サーキュラーエコノミーの話題の多くは「環境」と「経済」で、「社会」にどう影響を与えるのかに対してはそれほど焦点が当てられていなかった。しかし、ドーナツ経済学やサーキュラーエコノミーが起こす労働市場の流動など、サーキュラーエコノミーと「社会」に関する議論は海外でもにわかに活発になっている。

WAcKAは、Tシャツから手芸糸にする仕事を心身障害者福祉施設に依頼。「ミシンを操作できる方は一人もいなかったのですが、Tシャツヤーンにすることで技術を身につけていただく方が増えています。スキルが身につけることで可能性を見出していただくことに少しでもつながってくれればという願いもあります」と、技術を提供することで、人材や雇用の課題にもアプローチ。

また、ワークショップでも手編みの熟練者(主に高齢者)に教える側として役割を提供することで、その方が元気になり、居場所が見つかり、自分自身の魅力を再発見するという。

必ず地元のレストランやカフェでワークショップを実施するの特徴だ。これには、地域にお金が循環するように、地域に共感の輪が広がるように、という願いが込められている。このように、WAcKAは意図的に「社会」にも取り組んでいる。

Tシャツヤーン製造工程の様子

3. 教育へのアプローチ

「ワークショップを始めて驚いたのが、アパレルに関する環境問題について全く知らない方が多いということでした」と語る梶原さん。もちろん研修やセミナーなど、真正面から伝えていくこともできる。ただ、広がりを持たせるにはどうしたらいいのかと考えた結果、Tシャツヤーンを使った編み物を通じて、「楽しみながら学ぶ」という結論になったという。今では、地域に認知され、ワークショップは大好評となっている。WAcKA開始以来ずっと欠かさず参加してくれる方もいるほどだ。

ただ、Tシャツヤーンはあくまでも伝えたいことを楽しく伝えるためのツールであり、それ自体が目的ではないと梶原さんは強調する。「教育」というと大きな言葉に聞こえるが、まずは課題を知って認識することで、文化が変わるきっかけになる。そのための「環境教育」をTシャツヤーンを通じて実施している。

これからサーキュラー型ビジネスを始めようとする方へのメッセージ

最後に、これからサーキュラー型ビジネスを始めようとする方に向けて、梶原さんよりメッセージを頂戴した。

「『小さなことでいいからやってください』ということでいいと思っています。大きなことをやろうと思ってしまうとなかなか前に進まないこともありますが、小さなことでもまずはやってみることが大切だと考えています。周りから見ても『あれでいいんだ』と捉えてもらい、取り組むハードルを下げることも重要です。かくいう私もこれで世の中を変えるとは全く思っておらず、変えるきっかけを作ることに専念しています。何かご一緒できることがありましたらメッセージいただければ嬉しく思います」

【参照】WAcKAホームページ
【参照】環境省グッドライフアワード受賞ページ
【参考記事】マネー現代『アパレル「大量の売れ残り」はどこへ消えるのか…その意外すぎる「現実」』

※本記事は、ハーチ株式会社が運営する「Circular Economy Hub」からの転載記事となります。

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