オーストラリアで複数の拠点を持つ人気の広告エージェンシーThinkerbellが、新たにインターンシップのプログラムを立ち上げた。応募の条件は、「55歳以上であること」だ。
「Thrive@55」と呼ばれるこのプログラムは、Thinkerbellでの8週間の有償インターンシップを提供するものだ。一風変わった取り組みの背景には、エイジズムを是正したいという想いがある。エイジズムとは、年齢に関する偏見や差別を指し、たとえば「~するには年を取りすぎている」と決めつけたり、シワを醜いものと捉えたりするような、主に年を取ることに対するネガティブな感情を伴う。
Thinkerbellによると、広告業界で働く人のうち、50歳以上の人の比率はわずか5%だという。たしかに、昨今の急速なインターネットの発展に伴い、デジタルネイティブであるミレニアル世代やZ世代が強みを発揮しやすい環境なのは間違いない。高齢化社会にもかかわらず、広告業界が若者ばかりになっている現状は、採用時にそのような思考が働いていることも起因しているだろう。今回同社があえて年齢制限を設けたことには、そんな「年を取ると劣化していく」ようなイメージを打破するためだ。
近年、生涯学習という言葉もあちこちで聞かれるようになっている。何かを習得するのに年齢は関係ない。人の寿命や健康寿命もどんどん延びている。若い方が新しいことを吸収しやすい素地があるかもしれないが、社会経験が豊富だからこそ発揮できる能力もある。どちらにしても、年齢に対して持つ固定観念こそがエイジズムの根源だ。
日本の伝統的な雇用や評価の基準として、年功序列というものがある。これは、逆に勤続年数や年齢が上なほど評価が高くなるというものだ。日本の伝統や思想とも結びついており、根強く残っているが、有能な若手人材をうまく評価できないという弊害があり、終身雇用の大企業の中でも、時代に即さないとして撤廃の傾向にある。オーストラリアなどの国では、上司が年下ということも多々あり、そもそも「あの人は年上だ」「あの人は年下だ」という年齢自体を日本ほど強く意識していない側面もある。
インターンシップの応募条件が「55歳以上であること」は、逆にそれ以外の人たちを排除しているのではないか、という指摘もある。しかし、今回あえて陽の当たらないところにスポットを当てるというのは、リスクを取ってでも人々の固定観念を是正しようという意識の表れだ。
紋切り型に人材を捌くのではなく、人それぞれで異なるということをしっかりと理解し、年齢と関係なく候補者一人ひとりと向き合う。これからの社会では、そんな採用のあり方が求められていくだろう。
【参照サイト】Thinkerbell
Edited by Kimika Tonuma