誰かにプレゼントを買うとき、あなたはどのようにして選ぶだろう?
「どんなものだったら気に入ってくれるかな?」と渡す相手の趣味や好きなモノに想いを巡らせたり、相手が喜んだときの表情を想像してみたり……普段の買い物よりも時間をかけてじっくりと選ぶ人も多いのではないだろうか。大切な人のために何かを買うとき、人はたった一つのモノのために悩んだり、時間をかけたりするのかもしれない。
しかし、プレゼントをあげた相手や自分が幸せになっても、その商品を作った人が幸せでなかったとしたら……?
バレンタインデーに贈られることの多いチョコレートを例に、この記事を通して生産者を想う“愛のある買い物”とは何か考えてみてほしい。
チョコレート産業の課題
毎年日本国内で276,589トン(一人当たり2キログラム)が消費されているチョコレート(※1)。多くの人にとって馴染みのある菓子だが、実は背景にはさまざまな問題が潜んでいる。
その一つが、児童労働の問題だ。シカゴ大学で2018~2019年に実施された調査によると、世界第1位と第2位のカカオ生産国であるコートジボワールとガーナで、およそ156万に上る18歳以下(5~17歳)の児童が、カカオ豆の生産に従事していた。また、その二国でカカオ豆の生産を行う子どもの43%が危険な状況下での労働を強いられている。
それからカカオ豆の生産からチョコレートになって消費者の手に届くまでのサプライチェーンが不公平であること。その原因の一つには、サプライチェーンに複数の仲介人が存在することがある。カカオ豆を購入して市場に売るトレーダーや、地域や国の輸入業者、カカオ豆やカカオバターといった原料を加工する業者、消費者に届く形に製造するチョコレートメーカー、そして小売業者など。彼らの手数料を含めて割安なチョコレートが販売されていることが、第一次産業のカカオ農家の収入が低い理由となっている。
また、何百万人もの農家が生産したカカオが、一握りのカカオ業者によって購入・加工されている現状もある。その過程で、大手チョコレート会社の多くが、農家に支払う価格を非常に安くしているため、農家は生計を立てるのに十分な資金を得ることができず、貧困を抜け出すことができない状態にある。
以下では、そんな長い間見られるチョコレート産業の課題に対して新たな解決策を通してアプローチするチョコレートブランドを4つ紹介する。
※1 日本チョコレート・ココア協会より
カカオ農家も幸せになるフェアチョコレート4選
01. 京都のカカオブランド「Dari K」
インドネシア・スラウェシ島などで生産されるカカオ豆に着目し、契約農家と一緒にカカオ豆の栽培・発酵から協働し、仕入れ・焙煎・製造・販売までをトータルで手掛けている『Dari K』。ただ低品質なカカオ豆を高価格で買い取るのではなく、高品質なカカオ豆とはどういうものなのかを農家に共有し、技術を教えた上で、品質が上がったカカオ豆だけを付加価値をつけて買い取っている。カカオ農家のモチベーションを生み出すことで、「かわいそうだから与えるフェアトレード」ではなく、「生産者自らが勝ち取るフェアトレード」を実現させている。
またDari Kは、コロナ禍で働く医療従事者の力になれたらと、消費者がDari Kの商品を購入すると、消費者が購入したのと同額のチョコレートが医療従事者に届けられるという仕組みをつくった。消費者はチョコレートを楽しみながら、医療従事者の方々に感謝の意とともにチョコレートを贈ることができ、Dari Kが契約するインドネシアのカカオ農家の人々の生計も守ることができる。消費者、医療従事者、カカオ農家、そしてDari Kの4者に恩恵がある「win-win-win-win」な取り組みだ。
02. 奴隷労働に立ち向かうオランダの「トニーズチョコロンリー」
オランダのチョコレート会社であるトニーズチョコロンリーは、チョコレート生産に関する不公平で根深い構造に立ち向かい、「100%奴隷労働のないチョコレートを作る」というミッションの下で5つの調達原則を掲げている。カカオ豆を追跡可能にすること、通常のフェアトレード認証の価格よりも割増しした金額を農家に支払うこと、強い農家を育てること、最低5年という長期的な関係を築くこと、カカオ豆の品質と生産性を高めること。
この5つにより、トニーズチョコロンリーはフェアトレードよりフェアなチョコレートを実現している。『奴隷労働』『児童労働』という社会面に焦点を当てつつ、輸送に関してカーボンオフセットをしたりリサイクル紙を使用したりするなど環境面にも配慮されて作られたチョコレートは、そのおいしさや惹きつけられるパッケージも魅力。今やアメリカやイギリス、ドイツ、オーストリアにも支店を持ち、日本でもポップアップが行われるなど世界で知られるブランドだ。
03.小規模カカオ農家を一流に育てる、インドネシアの「Krakakoa」
インドネシアのカカオ豆の品質の悪さや、カカオ農家の収入の低さといった課題にアプローチすべく、Krakakoaが行っているのが「Farmer to Bar(農家支援からチョコレートを作る)」。Krakakoaがチョコレートづくりに関わる全ての工程を管轄することで、仲介人を挟まなくて済むため、農家の収入を向上させることができる。さらに、カカオ豆の小規模農家に対する研修プログラムを実施し、研修修了後に必要な農具を小規模農家に提供することで、収穫量の増加と収穫したカカオ豆の品質向上につなげている。
インドネシアを農業からボトムアップしていきたい想いが一貫しているチョコレートブランド、Krakakoa。カカオ農家の収入の向上に貢献してきただけではなく、サプライチェーンの透明性、遺伝子組み換えやパーム油、保存料に頼らないなど、品質の高いチョコレートブランドとして評価されている。
04. ブロックチェーンを使って利益をカカオ農家に還元する「Right Origins」
フェアトレードでさえ、農家が得られる価値は最大10%と言われている。「この価格は、本当に農家にとって十分な収入につながるのか?そして、フェアトレードや持続可能な商品と謳われているものでも、そのストーリーは一体どこまでが真実なんだろう。」このような問題意識から、幼い頃から農業が身近にあったというブロックチェーン・エンジニアのAkash Mathew氏は、Right Origins財団を設立した。
Right Originsは、利益の80%を生産者であるカカオ農家に還元し、従来のサプライチェーンの2倍から5倍の価値を農家に提供している。さらに農協や農家自身がチョコレートブランドを持つことができる仕組みを作っているほか、Web、モバイル、ブロックチェーン、AIを使った品質管理ソフトウェアを開発することで、農作物のサプライチェーンの透明性と信頼性向上を実現している。テクノロジーの力で、農家のより良い生活を実現していているブランドだ。
生産者とのあいだにも、愛がある買い物を
今回は、バレンタインにちなんで、チョコレート産業の課題と、それに向き合い、生産者の権利を守るために取り組む人たちを取り上げた。しかしこういった商品の生産現場に潜む課題は、チョコレートに限って見られることではない。食品や雑貨、服など……普段の生活の中で何気なく買っているモノの生産者が、実は十分な賃金を得られていなかったり、劣悪な労働環境で働いていたりすることは決して珍しいことではないのだ。
モノを仕入れる人、売る人、買う人……皆が、プレゼントを買うときに贈る相手のことを想うように、モノを作る「生産者」に対しても想いを馳せることができたら……。もしかすると、フェアやエシカルなんて言葉を使わなくても、私たちは誰も、何も傷つけないような消費行動を自然ととることができるのかもしれない。一人ひとりがそんな愛のある買い物をすることで、世界は今よりもっと幸せで溢れるのではないだろうか。
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