2020年7月、デンマーク・コペンハーゲンにオープンしたThe Happiness Museum(幸福博物館、幸せの美術館)。地理的な観点から見た幸福度や、ウェルビーイングに関する各国政府の取り組みなど、「幸せ」についての情報を遊び心たっぷりに展示した空間だ。来館者からも「自分が幸せな理由がわかった」「正確なデータをもとに、楽しめるような体験の場がデザインされている」と評価が高い。
同館を開いたのは、デンマークの研究機関である「Happiness Research Institute(ハピネス・リサーチ研究所)」。同研究所は「なぜ、ある個人や社会は他よりも幸せなのか」を研究・発表している。
彼らは、どうして幸せについて展示する博物館をつくったのだろうか。人々の幸せとは、どのような要素で構成されているのか。編集部は、ハピネス・リサーチ研究所のアナリストであり、博物館では来館者のパーソナルアシスタントを担当するOnorさんに、博物館設立への想いを聞いた。
自分にとっての幸せとは何か?そんなことを考えながら、読んでみるといいかもしれない。
世界に「幸福美術館」が必要だった理由
博物館に足を踏み入れると、まずは「幸福についての世界マップ」が来館者を出迎えることになる。ここでは各国、各地域ごとの政策の違いや、最新のWorld Happiness Report(世界幸福度調査)に基づいた幸福度ランキングが張り出されており、「あなたにとって人生最悪の状態が0、最高の状態が10だとして、あなたは今どの地点にいる?」と問いかけてくる。
幸福について展示するというアイデアは、もともと2019年11月に最初に考えられ、8か月ほどの時を経て実現に至った。博物館設立の背景について、Onorさんはこう語る。
「私たちはみんな、それぞれの幸せを見つけようとしています。でも、たまに間違った方向に行くこともありますよね。お金持ちになって社会的な成功を収めても、健康や人間関係などを犠牲にしていて、“幸せ”とは言えない状態の人もいます。こんな世の中だからこそ、幸せについて学び、自分にとっての幸せとは何かを見つけ出したい人は多いのではないでしょうか。
実際、ここ数年でデンマークにある私たちの研究所を訪れて学びたいという声を多くいただきました。だから私たちは、こうして人々が体験できる展示の場をつくることで、各々の幸せを普段の生活でより実践しやすくしているのです。このプロジェクトのリーダーのMeikが掲げるミッションは、来館者が新しいことを学び、少し幸せな気持ちになり、世界をより良い場所にしようと少しやる気になることですから。」
歴史・宗教・文化など多角的に見る「幸せ」
自分にとっての幸せとは何か。幸福博物館では、幸せについて多角的に考える場が用意されている。たとえば、古代ギリシャから始まる幸福の歴史や、宗教ごとに異なる幸せの定義についての情報などだ。キリスト教であれば、現世でいかに偉大な業績を残すかどうかよりも、死後に天国に行けるかどうかに焦点があたっている、と説明されている。
また、幸福度ランキングで常に上位にいる北欧諸国(※1)においての幸福度についても展示されている。その中で紹介されていた幸福を形作る要素の一つのが、ヒュッゲの概念だ。デンマーク語で「居心地がいい空間」や「楽しい時間」のことを指す言葉で、現在では、単なる一単語にとどまらず、デンマーク人の大切な価値観やマインドセットのひとつとなっている。
「私の意見ですが、デンマークの人々が幸福なのは、富んでいることとウェルビーイング(※2)が比例しないことを知っているからだと思っています。最低限の生活ニーズが満たされていれば、あとは自分たちの生活の質を高めるのに必要なことだけに集中する、というマインドです。」
館内には、インタラクティブな対話の場として、来館者にポストイットを貼り付けてもらう部屋もある。「あなたにとって、一番幸福だった記憶、また幸せの定義を教えて」デンマーク語や英語、他にもさまざまな言語で、好きな食べ物の名前や愛する人の名前などが書かれたポストイットが壁一面に貼り付けられている。
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また、世界各国の企業の広告が張り出された部屋もある。車や飲料のメーカー、タバコの会社などが、どのようなときに「幸せ」という言葉を使ってマーケティングをしたのかを見ることができるのだ。
このように歴史や宗教、各企業の広告なども含めて幸福について展示することで、来館者にとっては、自分とはまったく異なる幸せの価値観があることを学んだり、自分なりの幸せの定義を考えたりする機会となっている。
「GDPなどのわかりやすい数値指標と違って、幸せは主観的なものですよね。ですが、さまざまな要素を数字にすることで、どのような要素を是正すればいいかを可視化することはできます。私たちハピネス・リサーチ研究所では、人々の幸福度を3つの指標で測っています。ある指標では満たされているけれど、別の指標では恵まれていないな、と感じることもあるはずです。」
ハピネス・リサーチ研究所が見る、3つの指標
- Cognitive:生活水準。単に賃金のことだけでなく、便利な交通インフラや、緑の公園などにアクセスしやすいか、などの環境も含まれる
- Affective:感情や気分。いまこの瞬間、または最近幸せだと感じることがあるか
- Eudaimonic:意味や目的。人生における長期的な幸福
私たちが明日からできることは?
「世界から減ってほしいのは、孤独。逆に広がってほしいのは、それぞれの人が自分とっての幸せに欠かせない要素を見つけること。そうすれば、この長い人生で何に力を入れて、何から力を抜けばいいのかがわかります。」そう語るOnorさん。ハピネス・リサーチ研究所のウェブサイトでは、新型コロナの蔓延する世界で生き抜くのに必要なエッセンスが詰まったレポートを数多く掲載している。
最後に、私たちが明日から実践できる、幸せのためのヒントをOnorさんに聞いてみた。
「まず何か一つでもいいので、あなたにとって“幸せの原動力”になる行動をすることです。幸せの原動力とは、周りの人々との良好な関係や、心身の健康、自由さ、信頼、人に優しくすることなど。たとえば、いつも話さない家族や友人とオンラインで話をしようと声をかけたり、人のためになることを企画したり…… 良いコミュニティの一員であると思えることは、心理的な安全性につながります。
あとは、とにかく普段から健康でいることです。精神的な健康と身体的な健康は切り離せない関係にあり、人生の豊かさにもつながっていますから。」
The Happiness Museumの詳細
施設名 | The Happiness Museum / Lykkemuseet |
住所 | Admiralgade 19, 1066 København |
営業時間 | 11:00~17:00(2020年1月時点) |
営業日 | 火曜~日曜(月曜定休) |
URL | https://www.thehappinessmuseum.com/ |
※1 2020 World Happiness Report
※2 ウェルビーイング:身体的・精神的・社会的に良好な状態にあること(WHOによる定義)
【参照サイト】Happiness Research Institute&Leaps by Bayer 2020