これまで「生理」は、なんとなく、隠したいもの、恥ずかしいもの、男性には伝えにくいもの……と捉えられてきた。小学校高学年での生理についての授業では、男女別に教えられることが多かったり、薬局でナプキンを買うと、黒いレジ袋や紙袋で包まれたり(※現在は、レジ袋有料化によりこうした取り組みをやめた店舗も少なくない)……皆の前でオープンに話す機会が少なかったこともあってか、現在、毎月の生理に悩まされている人と生理になったことのない人との間で、生理に対する認識のギャップが生まれてしまっているようだ。
多くの生理用品のCMでは、月経期間が「あの日」と表現され、白いボトムスを履いたモデルがアクティブに活動しながら「今日も絶好調」と微笑む。しかし、実際の生理はそんなに爽やかなものではない。生理痛のしんどさには個人差があり、ひどい人では立ち上がることすらできないこともある。生理前に自分ではコントロールできないほどの気分の落ち込みやイライラ、不眠などの症状に悩まされる人も少なくない。2019年12月に、大王製紙株式会社が16歳以上の男女624名を対象におこなった「生理に関する意識調査」では、生理休暇制度を利用できていない女性が、約87%。皆が生理の実態や、個人差について知っていたら、「今日はちょっとしんどいんだよね」と気軽に話せたら、休暇制度も利用しやすいのだろう。
このような現状に異議を唱え、誰もが生理について話せる世界を目指そうとする動きが業界やメディア、消費者たちの間で広まっている。今回の記事では、世界中の生理に関するコマーシャルを取り上げていこう。
1.生理は実験室で起こるものじゃない。「色」から伝えるメッセージ
CMでは、生理用品の上に「青い」液体を落として吸水力を示すことが多い。青い液体は、生理に、どこか「人工的なもの」「イレギュラーなもの」というイメージを与えてしまっている。この現実とのギャップに違和感を持ったことはないだろうか?
そんな違和感に応えるかたちで登場したのが、2017年にイギリスの生理用品メーカーBodyform(ボディフォーム)が発表したキャンペーン動画だ。Bodyformは動画の中で、シャワー中の女性の脚に経血が滴り落ちている様子や、生理用品を買う男性の姿を「普通」のものとして描き「生理は普通のこと、それを見せることも普通であるべき」というメッセージを伝えている。
もう一つ、赤い液体を使って生理の現実を描いたCM、インドの生理用ナプキン「RIO」の例を紹介しよう。この動画には、赤い液体が風船からチョロチョロと滴り落ちたり、時にはどっと流れ出たりする様子や、真っ赤に染まったナプキンが登場する。画面は終始薄暗く、どことなく重苦しい雰囲気だ。
広告のディレクションを担当したAfshanShaikh氏は「女性の子宮は試験管ではないし、青い血を流しているわけでもありません。血液を(見せることを)標準化するのはとても重要なのです」と語る。
確かに、ナプキンの上に試験管から青い液体をこぼす演出からは、生理に伴う痛みや椅子から立ち上がる時に感じる「血の染みがついていないだろうか」という不安は想像できないだろう。さらにShaikh氏は、
「横になり痛みで叫ぶ女性の姿を見せても良いときが来たのです。生理中でも運動をしたり会議に行ったりするような強い女性である必要はありません」
と生理中の痛みや苦しみに寄り添う新たな広告表現の形の必要性を訴えている。
2.あの日も爽快……なわけない!
次に紹介するのは、2018年に公開された、韓国の生理用ナプキンブランド「natracare(ナトラケア)」のCM。動画は従来の生理用品広告で見慣れたストーリーから始まる。あの日でも、いつもどおりに白い服を着て、仕事に集中して、不安なく寝て、立ち止まらずに輝いていこう。そんなメッセージを放つ広告が映ったPCを閉じて、主人公は言う。
“「あの日」って何?つらくてイライラするし、爽快なんかじゃない。何もしたくない、それが生理なの。”
“Do something or Do nothing.”
“何もしなくたって良い。それもまた、あなたの選択。”
生理を「あの日」と呼ぶ暗黙の了解や、生理期間もいつも通り前向きに過ごそうとするストーリーに異議を唱え、視聴者の気持ちを代弁したナトラケア。
同ブランドが2019年に公開したCMにも、大きな反響があった。こちらの動画は生理用品を購入したときに渡される目隠し用の黒いビニール袋を手に持ったモデルが「生理って言うのが恥ずかしいんですか?」と問いかけるところからスタート。生理は1年に65日もあることや、一生に使うナプキンの量やその購入にかかる金額をコミカルな調子で紹介しながら「生理は自然で日常的なことだ」と訴えている。
3.生理の授業って、どうして男女別に教えられるの?
次は、1でも登場したBodyformの別の広告動画をご紹介したい。
小学校における生理についての授業は、男女別に行われることが少なくないが、これは生理がタブー視されたり男女間での生理に関する認識の違いが生まれたりする一因でもあるだろう。
今回の動画は、英国の10代の男女数人が主人公だ。こちらの動画では、まず、集められたメンバーたちが男女別のグループに分かれて、生理について話していく。もちろん、台本はなしだ。男の子たちのグループでは、なんとなく居心地が悪く感じられたのか、生理に関するジョークが飛び交っている。スタッフから渡された生理用品もこれまでは見たことがなかった様子だ。
動画によると、英国の男の子の72%が生理についてきちんとした教育を受けていないのだという。「生理について話すときは、いつも男女が分けられる」「それが恥ずかしさや居心地の悪さにつながってるんだよね」──ひとしきり話した後、どちらのグループも男女が一緒に生理について学ぶ機会があれば良い、という結論を導き出していた。動画の最後には、男女全員が一緒に集まって「女の子も男の子も、生理について話すことで恥ずかしい想いをすることがあってはいけないよね」「異性と生理の話をするとき、大事なのは居心地が良いか/悪いかではないのかも。それが『必要なことだから』一緒に話すんじゃないかな」と真剣に話していたのが印象的だった。
“They tell you about how periods happen, but they don’t tell you how you can help.”
(学校では生理の起こる仕組みは教えるけれど、どうやって生理と付き合うかは教えてくれない)
動画内で、ある女の子がこんな意見を述べていた。生理の起こるメカニズムだけでなく、生理の大変さや個人差、生理の時の心の動きなども含めて、男女共に学べる機会が必要なのではないだろうか。
【番外編】生理が来るのは「女性」だけ?進むLGBTQへの配慮
CMではないが、ここである生理用品パッケージの事例を紹介したい。生理といえば「女性のもの」と考えられがちだが、普段「男性」として生活しているトランスジェンダーの方の中にも、生理が来る人は存在する。 そんな方が生理用品を手にするとき気になるのは、パッケージのいわゆる「女性らしさ」を意識したデザインだろう。
例えば、アメリカの生理用品Alwaysのナプキンの包みにはもともと女性のシンボルとされる「金星(ヴィーナス)」のマークがプリントされていた。これに対し、2019年、「ヴィーナスのシンボルにより、トランスジェンダーやノンバイナリーの人が不快に思う可能性がある」と指摘するツイートなどが投稿された。
Hey @Always since today is #TransVisibilityDay it’s probably important to point out the fact that this new packaging isn’t trans* friendly. Just a reminder that Menstruation does not equal Female. Maybe rethink this new look. pic.twitter.com/1Fp8bdB6qY
— nah (@sartoninwho) March 31, 2019
こうした消費者からの声を受け、Alwaysブランドを生産しているプロクター・アンド・ギャンブル(P&G)は「金星(ヴィーナス)」の入ったデザインを変更することを発表したのだ。今後、「生理用品のターゲットは女性」という考え方から脱却し、多様性を大事にするためのリ・ブランディングを行う動きが、世界中に広がっていくかもしれない。
終わりに
なんとなく「秘密にすべきもの」のようにタブー視されてきた生理。だが、昨今の生理用品の多様化、フェムテックの流行、様々なメディアでの生理特集などをきっかけに、少しずつではあるが、生理についてより気軽に話せる雰囲気も生まれてきている。
この流れを「いいな」と感じた方は、今までよりちょっとだけ、オープンな気持ちで生理について考えてみてほしい。そして、ぜひ、周囲の人と、生理について「普通」に話してみてほしい。私たち1人ひとりが変わっていくことが、やがて大きな変化を生む力になるはずだ。
Edited by Yuka Kihara
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