東日本大震災から10年が経つ。最近では、2021年2月13日に宮城県と福島県で震度6強の揺れを観測した地震について、気象庁が「東日本大震災の余震と考えられる」と発表した。「まさかこのタイミングで余震があるとは」と意表を突かれた人が多かっただろう。災害が多発する日本では人々の防災意識が高まっているが、それでも常に災害に備えておくのは難しい。
「災害に備えることが難しいなら、日常にあるものを非常時に役立てる、『備えない防災』に取り組んだらいいのではないか」。このような発想の転換のもと生まれたのが「フェーズフリー」という考え方だ。事業として防災に取り組んでいる、社会起業家の佐藤唯行氏が2014年に提唱した概念である。日常時・非常時のフェーズを取り払うという意味で、フェーズフリーと名づけられている。
備えない防災、「フェーズフリー」とは?
フェーズフリーの考え方を具現化した、フェーズフリーデザインのモノ・サービスは、普段から使えて非常時にも活用できるのが特徴だ。私たちにとって馴染みのある例としては、小学校で使う防災頭巾が挙げられる。普段は椅子にセットして座布団として使い、非常時には頭部を保護する防具になる防災頭巾は、フェーズフリーデザインのモノと言えるだろう。
佐藤氏が代表理事を務める一般社団法人フェーズフリー協会では、こういったフェーズフリー品が世の中に増えてほしいとの想いから、「フェーズフリー認証」という認証制度を設けている。ここで商品やサービスの日常時および非常時の価値を審査し、認証された場合には「PF認証マーク」の使用が認められる。
フェーズフリー認証を得た商品
フェーズフリー認証を得た商品の例としては、通販サイトのアスクルで販売されている「ベッドになる強化ダンボール」が挙げられる。これは圧縮強度が高く潰れにくいダンボールのため、日常時の保管に役立ち、非常時にはベッドとして活用できる。職場に置いておくと心強いアイテムではないだろうか。
また、フェーズフリーのコンセプトは、まちづくりにも取り入れることができる。2020年12月には、徳島県鳴門市にあるスポーツ施設「ウズパーク」がフェーズフリー認証を取得し、地震、津波・洪水、台風・竜巻という危機に対応していると評価された。
「備えよう」と思っていなくても防災力を高められるフェーズフリー
佐藤氏がフェーズフリーという概念にたどり着いたのは、何がきっかけだったのか。同氏は大学4年生のときに「災害軽減(防災)工学」の研究を始め、そのあと阪神・淡路大震災など様々な災害現場で調査を行ってきた。そのたびに感じたのが、災害に備える習慣が定着しないまま同じ悲劇が繰り返されることに対する無力感だったという。
そこで「どうすれば災害に備えられない人たちを守ることができるのか」と考え続けてたどり着いたのが、「備えよう」と思っていなくても防災力を高められるフェーズフリーのコンセプトだったのだ。
フェーズフリーの考え方を取り入れると、今ある商品やサービスに新たな価値を加えることができるかもしれない。災害に強い、より安心で安全な社会を実現するために、フェーズフリーのアイデアが増えていくといい。
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【参照サイト】 一般社団法人フェーズフリー協会
Edited by Erika Tomiyama