私たちは普段、仕事をする中でたくさんのごみを目にしている。洋服をつくるときに余った布きれや、一度しか使わなかった大量の紙の資料。期限が来たからと捨てられる食品ロス。残しておいたところで何に使えるのかはわからないが、そのまま捨ててしまうのはなんだかもったいない。
そんな想いを形にしたのが、アップサイクルのアクセサリーブランド「KiNaKo(きなこ)」を手がける木上奈都子(きがみ なつこ)さんだ。木上さんは、建築物をつくるときに出る建材(建築資材)の端材や、取り壊すときに出る廃材を、一点もののピアスやリングに生まれ変わらせている。自身が設計事務所で働いていたときに、大量の端材が毎日のように捨てられる様子を目にしてきた経験から、それらを無駄にしないものづくりをしているのだ。
「建物は、洋服や食べ物などと違って大きすぎて、私たちにとっては空気に近い感覚なのではないかと思います。あって当たり前の存在というか、逆にごみ問題としては身近に捉えにくいのではないでしょうか。」と語る木上さん。“ごみ”を宝物に変える彼女に、これまでの軌跡を伺った。
話者プロフィール
木上 奈都子(きがみ なつこ)
1989年茨城県生まれ。昭和女子大学生活科学科卒。建築設計事務所勤務を経て、2015年からKiNaKoとして活動を始める。解体現場の廃材や、建築資材の工場からでる端材を有効活用したいと思いアクセサリーを制作。また建築や建築資材を知るきっかけとなればと思い、木材やタイル端材をつかった子ども向けワークショップを開催。
建築の現場からアップサイクルのものづくりへ
幼い頃から、アルミホイルで指輪を作ったりと、ものを他の何かに見立てて遊ぶのが好きだった木上さん。建築の道に進み、建材をアクセサリーにしようと思ったきっかけは何だったのだろうか。
「私が小学生の頃に祖母が亡くなり、彼女が住んでいた家が取り壊される様子を見たことが原体験だったと思います。祖母の思い出の詰まった家が壊され、何も残らず、まっさらになった土地を見てショックを受けました。何か部分的にでも手元に残せたら良かったのにな、と。
また、実家の建て替え工事の様子も間近で見ました。子供ながら、図面から建設までの工程に参加し、この部屋をどう設計するのがいいか、インテリアは何を置きたいか、など話し合っている時間はとてもワクワクしたことを覚えています。今思えば、祖母との別れの辛さから切り替えられる時間にもなっていたのかも。その出来事がなければ、建築の仕事をすることはなかったと思っています。」
「そして大人になって建築業界に入り、設計事務所で働いているときには、現場で大量のごみ袋に建材・端材が入れて捨てられていく様子を見ました。お風呂などに使うタイルは、少し欠けていたり、色にムラがあったりするだけで省かれますし、解体するときにも、もちろん大量のごみが出ます。
そのままだったら使い道を考えるのが難しいし、現状ではリサイクルも困難です。でも小さく切り、持ち歩けるものにしたらどうか。アクセサリーという形であれば、私が祖母との思い出を残したかったように、身に付けることで常に一緒にいる感覚が味わえるのではないか。そして、ごみに思われがちなものすらも価値に変えられるではないか、と思ったんです。」
そんな流れで、2015年頃から始めたのが建材アクセサリーブランドのKiNaKoだ。材料は、現在でも関わる建設の現場や、地道につながりを作ってきた日本国内の工場などから余ったものを提供してもらっている。どうせ捨てるからいいよ、と快く渡してくれるところもあれば、端材や不良品がでてしまうことに関してはもったいないという意識はあるものの、集めて発送したり活用法を考えたりする手間が出てきてしまうことから、渋るところもあるようだ。
2020年には、タイルの一大産地として知られるスペイン・バレンシアの工房を見学。このときには、建築設計よりも、そこに使われているマテリアルに興味を持つようになっていた。
「建材の廃材というと、汚くて重いものというイメージもあるじゃないですか。でも実際に現場で見ていると、きれいな状態で捨てられることも多いので、それを活用しようと思いました。新型コロナの状況が落ち着いたら工場見学などを一緒にしながら、少しずつ建材やそこで出る端材について知ってもらう機会をつくりたいです。」
建材でつくられたアクセサリーたち
KiNaKoのオンラインショップで販売される建材アクセサリーは、どれも独特の雰囲気とストーリーが宿っている。いくつかの製品の中から、二つをピックアップしてご紹介しよう。
a m e n o s h i z u k u
雨とい(屋根に降った雨を集めて地上に向けて排出する筒状の建材)で知られるタニタハウジングウェアのアルミニウム雨とい「ビルアルミ」の余り材を使用したピアス・イヤリング。半円の形は、雨といの形状からインスピレーション受けているという。
雨上がりのくもひとつない空、屋根や樋先の雨粒(雫)が陽に当たり、きらきら輝く様子をイメージしてつくりました。
(KiNaKoより引用)
c o n t i g o
建築板金をするBHW株式会社が製作している飲食店の厨房(壁面など)に使用されているステンレスの端材を使った、リングや耳飾りになるアクセサリー。特徴は「未完成」だということだ。曲げたりねじったり、自由に形を変えることができるので、自分でデザインするという体験を生み出せる。また、アクセサリーを贈った人に対して「離れていても一緒」というメッセージを送ることができる。
これは未完成なアクセサリーです。あなたのデザインをそこに加え、カタチにしたとき、このアクセサリーは完成します。” contigo ” はスペイン語で ” あなたと “という意味で英語の” with you ” に当たります。曲げたりねじったり、自由にカタチを変えることができるため、指にフィットさせて指輪として、
イヤーフックに通して耳飾りとして使用できます。あなたと一緒にデザインを考え、そしてつくる楽しみをシェアできたら嬉しいです。(KiNaKoより一部引用)
廃材や端材をアップサイクルした何かをつくる、というと、ついストーリーの方に注目しがちになるが、実際に買う人が身に付けることを考えると製品そのもののデザインの良さは欠かせない。KiNaKoはその独特で魅力的なデザインから人を惹きつけており、金沢21世紀美術館のアップサイクルフェアでの販売や、ポップアップストアでの販売も行ってきた。私たちの日常生活で出ているごみのことを伝えるのに、力強い言葉を通したメッセージではなく、デザインを使ったのだ。
「私たちは、自分たちが住んでいる建物のことをあまり知りません。床や壁は何でできているか、建て壊されたあとはどうなっていくのか。建物はもはやあって当たり前のもので、特に賃貸だと自分のものではないしな、という気持ちにもなるかもしれません。」
「でも実は、このアクセサリーは自宅のお風呂のタイルと一緒のものが使われているんだよとか、毎日見ているものがピアスになるんだよとか、製品のストーリーがわかれば少しは愛着がわいて、すぐに壊そう、手放そうとはならないのではないでしょうか。アクセサリーを通して、自分のいる場所や、自分がもう持っているものに対して愛着を持ってもらえたら良いなと思っています。」
KiNaKoのこれから
“長年住んだ愛着のあるお家、思い出のたくさんつまった空間。建物として残せないときそのカケラを身につけることで記憶や思いを受け継ぐことができる。”
KiNaKoを通した木上さんの活動は続いていく。今後は、工場で出た端材がアクセサリーに変わっていくプロセスを見せていくほか、建材そのものを土に還るようなサステナブルな素材にしていくことに携わりたいと語る。また、建築関係のアップサイクルのコミュニティも見つけていきたいと思っているそうだ。循環型経済(サーキュラーエコノミー)の基本は、異なる人々や異なる業界との連携であり、誰かの“ごみ”を“資源”と捉えることから始まっていく。
捨てられるはずの建材でできた、記憶をつなぐアクセサリー。自分に、そして大切な人に贈ってみてはいかがだろうか。
【参照サイト】KiNaKo
【インスタグラム】Kigami Natsuko / 木上 奈都子