昨今注目を集めており、選択肢がどんどん増えているヴィーガンレザー。パイナップルの葉やリンゴの皮などの植物由来繊維、リサイクルポリエステルなど、多様な素材を用いた「レザー(革)」がつくられるようになった。ヴィーガンレザーが増えている背景には、動物倫理や環境問題への関心の高まりがある。
世界中で様々なレザーが誕生する中、2021年3月1日に日本で販売開始となったのが、メキシコ産のサボテンレザーを使用したヴィーガン財布コレクション『Chitose』。スタイリッシュでシンプルなデザインが目を引く、黒の長財布と二つ折り財布だ。
View this post on Instagram
Chitoseを展開するのは、サステナブルファッションブランド『Re:nne(リンネ)』。同ブランドが重視しているのが、デザイン性、機能性、サステナビリティ。――この3つである。
今回は、兄弟でRe:nneを運営する大久保夏斗さんと大久保迅太さんのお二人に、Re:nneを始めたきっかけ、サボテンを素材に選んだ理由、そしてヴィーガンでサステナブルな財布に込めた想いなどを伺った。
『Re:nne』を始めたきっかけ
東京農業大学の国際農業開発学科に在籍する夏斗さんと、会社員である迅太さん。お二人が兄弟で取り組む事業は、実はRe:nneが初めてではない。以前IDEAS FOR GOODでも取り上げた、合同会社HAYAMIで草ストローの展開を行っているのも大久保さん兄弟なのだ。
草ストローのビジネスを通して、海外のサステナブルビジネスのスタートアップ企業の代表者たちと話す機会に恵まれたお二人。さまざまな分野のサステナブルな動きに触れる中で、ファッション業界が環境に与えるインパクトの大きさを知ったそうだ。原料、水や土地などの資源利用、製造における環境汚染、化学繊維がもたらすマイクロプラスチックなど、衣食住として人びとの生活の一部となっているファッションが地球環境にもたらす課題について考えるようになった。そして、自分たちにできることはないか?という想いから、Re:nneの構想を始動させた。
『Re:nne』という名前は、日本語の「輪廻」からヒントを得ており、「生まれ変わり続ける」というのがこのブランドのコンセプト。使用しているヴィーガンレザー素材は最大55%が生分解性の高い植物性、残りも天然由来で、自然に還るサイクルとなっている。さらには、長持ちする品質・デザインに注力し、多くの人々の手に渡りながら使われ続けて欲しいという願いも込められているのだ。
どうしてサボテンを選んだのか?
サボテンは、日照時間中は気孔を閉じて水の蒸散を防ぎ、涼しい夜間に気孔を開いて空気中の二酸化炭素を取り入れ成長しながら、土壌の豊かさも保つ。過酷な環境でも水分をあまり必要としない上に、レザーにする過程においても、水の利用量が極めて少ない点が特徴。
使用しているサボテンレザーは、メキシコに拠点をおくDESSERTO社のものだ。同社のサボテン農園は、その土地の原種のみを自然のサイクルに沿って有機栽培している。成熟した箇所のみを収穫し、それを太陽の下で自然乾燥させたのちに特許技術でレザーにしていくが、この工程の中でも有害な化学物質が使用されることはない。各国でオーガニック認定を受け、環境に配慮された方法で生産されている。
サボテンレザーの特徴は、その極めて本革に近い質感である。財布は手にとって使用するものであるため、感触を重視したい。その想いを考慮に入れたとき、複数の植物性レザーの選択肢を比較検討する中でも特にサボテンレザーが適していると感じた。さらに、手入れがしやすいこと、通気性が高く耐久性があることも決め手となった。
さらに、迅太さんはアメリカ留学中に訪れた経験から既にメキシコに馴染みがあり、スペイン語を習得している。夏斗さんも大学で出会ったメキシコ人留学生と交流を深め、現地をたずねた。こういった背景から、サボテンを通して、思い入れが強いメキシコとのつながりをビジネスに発展させたかったそうだ。お二人はメキシコのDESSERTO社と直接やりとりしながら、Re:nneのプロダクトを開発した。
天然か?ヴィーガンか?3種類のレザー
お二人が植物性の「ヴィーガンレザー」に着目したのにはいくつか理由がある。
まずレザーには、大きく分けて、動物由来のレザー、植物由来のヴィーガンレザー、そして合成皮革の3種類が存在する。これらを、天然かどうか、ヴィーガンかどうか、環境負荷はどうか……といった側面からみることで、それぞれの特性がみえてくる。
動物由来である従来のレザーと、今回Re:nneが扱うような植物由来のヴィーガンレザーは、どちらも加工工程はあるが素材そのものは天然である。前者は動物皮革であるのでヴィーガンではなく、後者は植物性なのでヴィーガンだ。石油由来の塩化ビニールやポリウレタンなどから作られる合成皮革は、ヴィーガンであるが天然ではない。
さらに環境への影響の側面からみると、合成皮革は石油由来であり、素材そのものの環境負荷が高いほか、生分解しにくいという性質がある。また製造における環境汚染やマイクロプラスチック流出の懸念といった課題もある。
動物性のレザーの製造には、食用家畜の皮革が利用されることが多く、食用に当たらない部分を廃棄せずに活用している。しかし、畜産には多量の水や土地が利用されること、そして温室効果ガスの排出といった環境への影響を考慮に入れると、皮革もその一端を担っているともいえる。さらに、レザーの腐食を避けるために用いられる大量の化学薬品、加工や染色の過程での環境汚染も課題だ。
一方で植物性ヴィーガンレザーは、動物を利用しない上に、環境負荷を抑え、土壌への還元性も高いプロセスでの生産も増えている。動物倫理と環境への配慮、どちらにおいても多くの可能性を秘めているのだ。
ファッションに限らずさまざまな業界がレザーを使用する現在。お二人は、動物性から植物性へのシフトの必要性を感じているものの、そのスピードはゆっくり、そして着実に変わっていく必要があると話す。特に農業大学に在籍している夏斗さんは、畜産について学び、そこで働く人々の声を聞く機会も多く、いきなり全てを180度転換することは、関連する業界や人々のことを考えると不可能である。丁寧に向き合っていきたいと話す。
日本の熟練した革職人による製造
動物性レザーから植物性レザーへのシフトが起こる上で、影響を受けるのは皮革製造者だけではない。動物皮革から製品を作ってきた熟練した職人たちも、新しい素材との距離を縮めていく必要が出てくる。
Re:nneのサボテンレザーの財布製造は、90年以上動物皮革を扱ってきた業者に依頼している。職人たちによると、実際にここ数年で、植物性をはじめ今まで扱ってこなかった素材を使用した製品の依頼を受けるケースは増えてきているそうだ。皮革というくくりで考えると似ているようだが、縫製や仕上げには異なる技術を要する。
Re:nneは、新しい素材で職人たちに発注することで、衰退傾向にある日本の伝統的産業を支援する。長く培ってきた経験や技術を活用してもらいながら、一緒にアップデートし、ともに成長していく関係性を尊重しているのだ。
将来的には、日本の伝統技術とコラボレートしたメイドインジャパンのサステナブルブランドとして、海外に発信していくことも構想中だ。
デザインのこだわり
デザインにおいては、機能性を重視し、無駄なものをそぎ落としたミニマリズムが、Re:nneのコンセプトになっている。
サステナブルファッションというと、デザイン面で後れをとっている印象を持たれることがある。お二人は、細かいカットなどでアクセントを加え、飽きがこない工夫を施し、長く愛用してもらうことにも重きを置く。
デザイン性、機能性、サステナビリティの3つ全てを備えた製品にするため、試行錯誤を繰り返した上で、長財布と二つ折り財布の2つのデザインは完成した。
草ストローと、ヴィーガン財布
夏斗さんと迅太さんは2020年に草ストロー販売を開始し、2021年にヴィーガン財布を手掛けている。あまり関連性がないように見える2つの製品だが、お二人にとっては、「人々にとって身近なところから、より良いチョイスを生み出していく」という共通項がある。
現在、草ストローの導入店は全国で150店舗ほど。自然に優しい素材を使った料理を提供するレストランや、ヴィーガンカフェなどには、雑貨販売コーナーを設けている場合も多い。そういった場所で財布も一緒に販売してもらうことで、Re:nneの想いである「人々にとって身近なところから、より良いチョイスを生み出していく」ことが可能になっていく。そして、そこから生まれる輪がどんどん広がっていく。
Z世代が作ったヴィーガン財布を、Z世代にもっと見てもらいたい
いわゆるZ世代にあたるお二人。メディアで見る情報や海外に出向いて得る感覚では、若者の環境意識や倫理は高まっている印象がある。
しかし、実際自分たちの周りでは、サステナビリティやSDGsなどへの関心度にはバラツキがあるそうだ。何かを買う際に背景を意識して選ぶ層と、そうでない層に分かれると言う。サボテンレザー事業の話をすると、サステナビリティを理解してくれる友人もいれば、単に珍しさから興味を持つ友人もいる。
View this post on Instagram
ゆえに、若い世代が作るサボテンレザー製品を同世代にもっと知ってもらうことで、きっかけを生んでいきたいと考えている。そのためには、選択肢として提供しながら、「なぜ?」というところまで伝えていくことも強化していきたいと話す。ゆくゆくは、それを教育的役割を持つコンテンツにまで広げていくという目標も掲げている。
未来のレザーを扱う、未来の世代が牽引するサステナブルファッションの世界は、これからもぜひ注目していきたいところだ。
編集後記
インタビューを行う少し前に、エルメスがマッシュルームレザーの取り扱いを始めることがニュースになっていた。いよいよ、革製品で知られるヨーロッパの老舗ブランドも植物性ヴィーガンレザー市場に参画するというのは、時代の大きな変化を感じさせる。
一過性のトレンドではなく、この動きを業界全体及び消費者の中で根付かせていくには、関係する他の産業のことも考えながら進めていくことや、長くじっくり使い続けられるものを作ること、そして「なぜ?」の部分も広めていくことが重要。Re:nneのお二人のお話を聞きながら、そう強く感じた。
メキシコでサボテンを丁寧に栽培し、ヴィーガンレザーを提供する農家、日本で熟練の技術を駆使して縫製・仕上げを行う職人、多くの人に身近なところから地球のことを思うきっかけを作り出すZ世代実業家。想いが詰まったRe:nneの財布が、より多くの人々の手の中で輪廻を繰り返していくことに期待したい。
【関連サイト】Re:nne
【関連サイト】DESSERTO
【参照サイト】Collective Fashion Justice
【参照サイト】「エルメス」が“キノコ由来の人工レザー”を米国の新興企業と開発
【関連ページ】草ストローを通じて地域循環へ。HAYAMI草ストローの挑戦
【関連ページ】ヴィーガンファッションとは・意味
Edited by Tomoko Ito