世界の課題である気候変動への対策として、カーボンニュートラル(気候中立)実現に向け、今さまざまな植林プロジェクトが世界で展開している。IDEAS FOR GOODではこれまでも、広大な土地を購入し、一から森をつくるスコットランドのブルワリー「BrewDog」や、植林を本業とするオランダのスタートアップ「Land life company」などをご紹介してきた。
今回ご紹介するのは、環境のために植林するだけではなく、更生保護施設に入っている人の精神的な癒しにつながる森をつくろうという「Healing Forest(癒しの森)」プロジェクトだ。場所はアメリカ・ワシントン州にあるヤカマ国立矯正リハビリ施設。1,400平方メートルの広さに収容者が5,000本の木を植え、荒れた土地を自然豊かな場所へと変えるモデルにするという。
同施設は、ネイティブアメリカン・ヤカマ族の居住地にあることもあり、彼らの文化とのつながりが深い。植林する木の種類の選定にあたっては、ヤカマ族が古から医療や癒しに活用してきた植物36種類を取り入れた。胃の痛みを和らげるハックベリー、消化をよくするパインニードルなどだ。さらにはワイルドローズやバッファローベリー、ブラックコットンウッドなどの自生種も取り入れられた。
自然と調和しながら生きてきたネイティブアメリカンの人々は、日々の暮らしや儀式にさまざまな植物を使って、自然と自らのつながりを見出したり、病を和らげたりしてきた。
「癒しの森をつくることは精神的な回復と住民の身体的健康、そしてより有意義で自己治癒的な人生の旅につながります」ヤカマ国立矯正リハビリ施設のチーフであるアルバレス氏は、癒しの森の意義についてウェブサイトでこう語る。
意義ある森づくりは、収容者たちの誇りを取り戻すことにも一役を果たしている。癒しの森プロジェクトに参加している収容者の一人は、上記の動画の中で「(将来)ここに来たら、子どもたちに私がこの森をつくったんだよと見せることができます。気持ちがいいし、心が癒されます。」と語った。
注目すべき点はもう一つある。それは、今回の森づくりの手法に日本人の植物学者、宮脇昭さんの植樹手法「宮脇式」が活用されていることだ。「宮脇式」は、さまざまな種類の植物を混植・密植する植樹方法で、通常の森づくりと比較すると10倍の早さで成長、30倍もの密度があり、16倍ものCO2を吸収し、100倍もの多様性がつくりだせるとして世界的に関心が集まっている。今回も驚異的な成長速度と気候変動の緩和、生物多様性保全への貢献度の高さが宮脇式への選択につながっている。
癒しの森づくりのプロジェクトリーダーであり、Natural Urban Forestsのイーサン・ブライソン氏さんは、このプロジェクトについて「正しい方法を用いれば、荒れた場所を自然の多様性と豊かさのある場所へと育てることができます。私たちの身の回りにおきることは私たち自身を映し出すもの。長期間にわたる地球のウェルビーイングと健康的なコミュニティを確保するために、私たちは土に根ざした生活を大切にし、自然からもっと恵みを得られるようにする必要があります」とウェブサイトで述べている。
ネイティブアメリカンのアイデンティティにもつながる植物を増やし、収容者に誇りを与え、CO2の吸収源の拡大にもなる癒しの森プロジェクト。アメリカのみならず世界中に普及することを期待したい。
【参照サイト】Natural Urban Forest
【参照サイト】SUGI Project – Healing Forest
Edited by Kimika