リサイクルを重ねた服ほど価値があがる?衣服の廃棄を減らす、これからの考え方

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エシカルファッションという言葉をよく耳にするようになって久しいが、ファッションを持続可能にするために解決しなくてはいけない課題はまだまだ多い。その一つが、衣服の廃棄の問題だ。

環境省の調査によると、日本で焼却・埋め立て処分される服の量は年間48万トン。大型トラックに換算すると毎日130台分もの服を焼却・埋め立て処分していることになるという。水やエネルギーなどを大量に使い、多くの人の手によってつくられたものが次々と捨てられる現状。もったいないというよりほかはない。

こうした現状を、どのように打開していけばいいのだろうか。2021年4月24・25日に開催されたイベント「Sustainable Fashion Week 2020+1サスティナブルファッションウィークTOKYO 2020+1」のセッションのうちの一つ、「ファッションロス(廃棄衣料)ゼロの社会をつくる」からその解決の緒を考えてみたい。

<セッション登壇者>
    • スピーカー:eri(DEPT Company:代表)
    • スピーカー:岩元 美智彦(日本環境設計株式会社:代表取締役会長)
    • モデレーター:鎌田 安里紗(FASHION REVOLUTION JAPAN:プロデューサー)

大量の衣服廃棄に感じた狂気

近年、服は大量生産、大量消費、大量廃棄の傾向が加速している。1990年には約6,800円だった服の購入単価は2019年には約3,200円と約半分にまで低下。最近の日本人一人あたりの服の年間購入枚数は約18着。年間12着を手放しており、25着はクローゼットに眠っているという。服を買いやすくなった反面、短命化している様子が浮かび上がってくる。大量消費、大量廃棄に陥らない、地球サイズに合わせたファッションの楽しみ方はあるのだろうか。

そのことを教えてくれたのが今回のスピーカーの一人、DEPT Company代表のeriさん。父親が経営していた古着ブランドDEPTを2015年に継いで現在代表を務めるeriさんは、幼い頃から暮らしの中に古着があった。70年前の服も扱う家業を間近でみながら「洋服は大切にされるものだと思ってきた」と言う。ところが近年、大量消費・大量生産の波が押し寄せ、大量の服が廃棄される様子を目の当たりにし、「世界が狂っていると感じた」とイベント中に話している。

DEPT Company 代表のeri さん

DEPT Company代表のeriさん Image via FASHION REVOLUTION JAPAN

地球サイズのファッションの楽しみ方

「ファッションは楽しみたいし、いろんな服も着たい。ある程度この欲求は満たさなくてはいけないと思う」とeriさん。その意味で古着という選択はファッションの楽しみを残しつつ、環境への負荷を少なくすることができる。

eriさんは「古着の良さは、誰かが着ていたというストーリー。誰かと一緒に使うことがかっこいいスタイルなんだ、という意識になれば」と古着の魅力について語った。

ストーリーのある古着や修理・手入れをしながら着る服には愛着も湧く。自分でこだわって選んだ服も同様。そう考えると地球サイズに合わせた服との付き合い方の選択肢は多く、新たなファッションの楽しみ方にもつながるのではないだろうか。

しかし残念ながら、古着を着たことがない人も多いと嘆くeriさん。服の古着、シェアをもっと広めることはできないのだろうか。

古着の回収、リサイクル、さらに自社で製造する再生ポリエステルを用いた服づくりを通して「素材レベルでのシェア」という新しいチャレンジをしているのが、もう一人のスピーカー、日本環境設計株式会社 取締役会長の岩元 美智彦さんだ。

日本環境設計株式会社 代表取締役会長 岩元 美智彦さん Image via FASHION REVOLUTION JAPAN

リサイクルを重ねた服ほど価値が上がる時代がくる

日本環境設計では2010年から不要になった服を回収し、原料にまでリサイクル、再び服をつくり販売していく仕組み、BRING™をスタート。これまでにTシャツ約1,500万枚分にあたる3,000トンの古着を回収してきた。回収された服は、着られるものと着られないものに分けられ、着られるものはリユースされたり、途上国に寄付されたりする。着られないものは素材ごとに分けてリサイクルしている。

その一つが再生ポリエステルのリサイクル。いわゆるケミカルリサイクルとよばれるもので分子レベルにまで分解して、再生ポリエステル素材BRING Material™として素材に生まれ変わらせたのちに、BRING Material™を用いた服の製造と販売を手掛けている。

将来的には、このリサイクル素材にトレーサビリティシステムを導入し、原材料の出自を追跡できるようにする構想を描いている。これによって、誰が出した衣類をリサイクルしたものか、何回リサイクルされたものか、といったことまで可視化された状態になることを目指している。

この技術を活用すれば、5回リサイクルされた素材を使った服は3000円、10回リサイクルされた素材を使った服は5000円など、なんどもリサイクルされてストーリーが蓄積された服の付加価値を「ヴィンテージ」として高めることも可能になるかもしれない。古いものが敬遠されがちなファッション業界において、これは大きな転換になる。

ファッションの新たな楽しみも

トレーサビリティの確保は原料の調達先を透明化するという意義もあるが、新たなファッションの楽しさを生み出す可能性もある。たとえば「人気ミュージシャンのライブ会場までファンの方に古着を持ってきてもらい、その古着で次の年のライブTシャツをつくることも可能」と岩元さん。みんなでつくるライブTシャツというコンセプトが古着の回収率を高めるきっかけにもなる。

「アーティストが着ていたTシャツを原料としてリサイクルし、そのアーティストのオリジナルTシャツをつくる。スマホをかざすとアーティストの曲が流れる。そんなこともやってみたい」。夢は広がる。

ただし、リサイクルは最後の手段だと岩元さんは強調する。「僕たちは穴の開いたボロボロの服が大好物なんです」。BRING™に出すものは、修理をするのも難しい、服として機能させることが難しくなったものであることを忘れないようにしよう。

服の来し方、行き方に思いをはせ

「完璧なものはない。生み出している人がどういう思考でものをつくっていて、どこに向かおうとしているか、共感できるかどうかが重要です。」モデレーターの鎌田さんはこう締めくくった。

新しい服であっても、古い服であっても、「服の来し方、行き方」に物理的にも思考的にも注意を向けていくことがエシカルファッションの実現に向かう一歩になる。そしてその積み重ねが服への愛着となり、ひいては服の廃棄が減ることにつながるのではないか、そんなことを考えさせられたセッションだった。

「Sustainable Fashion Week 2020+1サスティナブルファッションウィークTOKYO 2020+1」では廃棄物以外にも気候変動などさまざまな問題をテーマにセッションが行われた。セッションを通してサステナビリティを高めつつ、もっとファッションを楽しむヒントを探してみてはどうだろうか。

【参照サイト】FASHION REVOLUTION JAPAN
【参照サイト】環境省 Sustainable Fashion
【参照サイト】日本環境設計
【参照サイト】DEPT
Edited by Kimika

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