「人間」の存在を問い直す。組織を生命システムとして捉える「リジェネラティブ・リーダーシップ」とは?

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2021年3月18日から21日にかけて、一般社団法人Ecological Memesがグローバルオンラインフォーラム「Ecological Memes Global Forum 2021」を開催。「あわいから生まれてくるもの ー人と人ならざるものとの交わりー」をテーマに、ビジネス・アート・エコロジーの領域から第一線を切り拓く多彩なゲストによるセッションが行われた。

今回は、自然の叡智に学び、再生型のシステム変容を促す『Regenerative Leadership(リジェネラティブ・リーダーシップ)』の共著者であるGiles Hutchins氏による基調講演と、株式会社森へ創設者 山田博氏、Ecological Memes 共同代表 小林泰紘氏を交えた、トークセッション「リジェネラティブ・リーダーシップ ー自然の叡智と再生型のシステム変容ー」を取材した。

人が他の生命と地球と共に繁栄していくリジェネラティブな未来に向けて、これからのリーダーシップやビジネスには何が求められるのだろうか。 自然や生命感覚との繋がりを取り戻し、共生・繁栄型のシステム変容を生み出すリジェネラティブ・リーダーシップの本質に迫った。

話者プロフィール

Giles Hutchins氏
Giles Hutchins氏
『リジェネラティブ・リーダーシップ』共著者・Future Fit Leadership Academy
組織やリーダーシップにおける意識変容の先駆的実践者・シニアアドバイザー。個人、組織、システムの生命力や機敏性を高めていくアプローチの第一線を切り拓く。リーダーシップや組織開発に関する幾つかの論文や『The Nature of Business (2012)』『The Illusion of Separation (2014)』『Future Fit (2016)』『Regenerative Leadership (2019)』などの著書がある。Biomimicry for Creative InnovationおよびRegeneratorsの共同創設者であり、The Future Fit Leadership AcademyおよびLeadership Immersionsの代表を務める。英国・ロンドン郊外に60エーカー(東京ドーム約5.2個)のリーダーシップセンターを運営。 以前は企業に勤務し、サステイナビリティのグローバル責任者などをつとめた。個人・組織問わず生き方や仕事における変容を求める人たちに向けたコーチングを提供している。

話者プロフィール

山田さん
山田博氏
株式会社森へ創設者・プロコーチ・山伏
長いコーチング経験から、人間の内面に潜む根元的な不安の存在に気づく。森の中に没入するという体験を繰り返し、その不安は生命の摂理と切り離されているという、人間自らが創り出した幻想からきているという洞察を得る。以来、すべての存在がすべての存在と繋がりあっているという根源的な感覚を思い出すためのガイドを続けている。その中でRegenerative Leadershipに深く共鳴、Ecological Memesの活動に参加している。日本に1400年以上続く修験道も修行中。

話者プロフィール

小林さん
小林泰紘氏
エコシステミック・カタリスト
一般社団法人Ecological Memes 共同代表・発起人・株式会社BIOTOPE 共創パートナー
世界28ヶ国を旅した後、Impact HUB Tokyoにて社会的事業を仕掛ける起業家支援を行う。その後は、個人の生きる感覚を起点とした企業での事業創造を支援。BIOTOPEにて幅広い業界での戦略づくりや事業開発を手がけたのち、独立。現在は、循環・再生型社会に向けた企業の未来ビジョンや事業づくりを行うカタリスト・共創ファシリテーターとして活動。座右の銘は行雲流水。趣味が高じて通訳案内士や漢方・薬膳の資格を持つ。イントラプレナー会議主宰。株式会社BIOTOPE 共創パートナー。一般社団法人 EcologicalMemes 代表理事。

自然の摂理に根ざしたリーダーシップ

Hutchinsさんは、過去25年間KPMGの国際経営コンサルタント兼実務責任者や、世界中に100,000人以上の従業員を擁する多国籍テクノロジー企業のグローバルサステナビリティディレクターをつとめるなど、組織開発の領域で活躍している。

本セッションのテーマである「リジェネラティブ・リーダー」とは、分断された世界を統合し、生命の繋がりを基盤に社会を導いていく存在であるとHutchinsさんは述べている。

Hutchinsさん「リジェネラティブ・リーダー」の入り口は、生命の営みと向きあい、どのように互いに繋がりあっているかを見つめていくことです。目には見えないが外の世界に現れていく内面の世界も含め、様々なレベルでそうした繋がりを見ていくと、私たちの生命は、組織やビジネスのエコシステムと同じように、無数のシステムの入れ子構造に根ざしていることに気が付くはずです。

Hutchinsさんは『リジェネラティブ・リーダーシップ』という本をローラ・ストームさんと共著・出版し、生命の摂理を組織のリーダーシップの文脈へ橋渡しすることを試みた。具体的に、組織開発に適用される生活システムからの学習には3つのレベルがある。「Living System Design(生命システムとしてのデザイン)」、「Living System Culture(生命システムとしての文化)」、「Living System Being(生命システムとしての在り方)」だ。これらは本の中で詳しく書かれている。

regenerative leadership

まず、「Living System Design(生き方のデザイン)」とは「バイオフィリックデザイン(空間の中にいる人が自然との繋がりを感じられるようにするための設計や手法のこと)」や、「バイオミミクリー(生物の仕組みを技術開発に活かすこと)」などを指す。すなわち、デザイン設計の視点でいかに自然からインスピレーションを受け、自然の原則を私たちの製品づくりや、サーキュラーエコノミー、Cradle to Cradleデザインといったビジネスプロセス、そして私たちを取り巻く環境づくりに応用していくかを考えることだ。

次に、生命システムの考え方を組織に応用していく2つ目の領域「Living System Culture(生命システムとして生き方の文化)」がある。これは組織においてLife-Affirming(生命肯定的)な文化をいかに育んでいくかを意味している。組織を機械ではなく、生命システムとして観察し、感じていくことで、一人一人やチームのダイナミクスが本来持つ生命の流れを徐々に解放していくことができる。

こうした2つの基盤となるものが、「Living System Being(生命システムとしての在り方)」だ。これは生命の営みと調和した意識の質や在り方のことだ。自分自身を中心に置き、地に足をつけ、内なる自然性や外の自然と響き合う一貫性を養うことで、私たちも自然の中の時間の流れと呼応することができる。例えば森林浴などを通して自然の中に入っていくと、時間の流れや静寂の空間を感じることがあるだろう。そうした環境の中で自分自身と深く向き合うことで、自ずと自分らしいリーダーシップの姿が明確になっていくという。

生命とリーダーシップに注目した、2つのダイナミクス

リジェネラティブ・リーダーシップを構成する3つの要素を繋げているのが、「Life Dynamics(生命のダイナミクス)」と「Leadership Dynamics(リーダーシップのダイナミクス)」という2つの動力である。

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「Life Dynamics(生命のダイナミクス)」の中には、「Divergence(拡散)」と「Convergence(収束)」という2つの波動が存在し、生命はこの2つの流れが絡まり合うことで生み出され、創発されていく。Hutchinsさんらは、これをビジネスのマネジメントにも応用しようと試みている。

また、「リーダーシップダイナミクス」は、自己認識と体系的な認識を組み合わせリジェネラティブ・リーダーシップの意識を生み出している。

セルフアウェアネスは、今この瞬間にもたらされるリーダーシップの意識の質を意味する。ここには「平行方向の気づき」と「垂直方向の気づき」の2つの側面がある。「平行方向の気づき」とは、今この瞬間の自分自身のあり方への気付きで、自身の反応や判断、感情や予測などにいかに自覚的であれるかということだ。一方、「垂直方向の気づき」とは私たちの認識がどれだけ世界に開かれているかということ。繋がりあいや相互作用に溢れた世界で、どれだけオープンに現実を観る眼差しを持ち合わせているか。これは成人発達理論とも繋がっている。

次に、「システムアウェアネス」がある。これは、自分自身組織内の目に見えない秩序の力と隠れた繋がりを認識することだ。Hutchinsさんは、セルフアウェアネスとシステムアウェアネス体系的認識のこれら2つのリーダーシップのダイナミクスを、リーダーシップ開発のコーチングとビジネスアドバイザリー業務に応用している。

セルフアウェアネスとシステムアウェアネスの交わりから生まれていくもの

regenerative leadershipHutchinsさん:組織を機械的なものではなく、生きたシステムとしてどのように見ていくのか。西洋のマネジメントの理論は、機械的な見方に限られていましたが、現在では組織を多様なものが複雑に重なり合ったシステムとして見ようという動きが生まれています。すなわち、そういったシステムに対する気付きのシフトは、組織を機械としてコントロールするのではなく、組織を複雑なシステムとして見ていくということです。

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Hutchinsさんたちが「リジェネラティブ・リーダーシップ」の中で重要視しているのは、超自然的な部分も活性化していくことだ。同時に、そうした超自然的な部分には自然の叡智が備わっており、直感的なものや洞察など、様々なものがビジネスに繋がっている。私たちの身体自体にも知性が備わっているという考え方も段々と受け入れられているとHutchinsさんは話した。

Hutchinsさん:「リジェネラティブ・リーダーシップ」では、それらを全て統合し、私たちがもともと持っている超自然に触れていきます。マネージャーが組織をコントロールし、きちんとした計画を立て実行していくことも必要ですが、それだけに限定されないことが大切です。そうすることで、偶発的に出現するものを受け入れ、「Living System」からのインスピレーションを使えるようになります。

人間存在の概念を拡張していく再統合の旅路

リジェネラティブ・リーダーシップでは、「サステナビリティ」を文化や戦略、リーダーシップ開発などに分けて考えるのではなく、統合して捉えていく。

Hutchinsさんから、実際にワークショップでどのように階層を越えた様々な学びを実践しているかお話があった。まず、組織の中で「カタリスト」と呼ばれる人を選び、階級に関係なく組織の異なる役割を担ってもらう。ワークの中では身体を使い、彼らがそれぞれとどのような関係性を持っているのかを表現してもらう。彼らが「耳」や「手」などの「身体」となって組織をどう機能させているかを身体で感じ、感覚を研ぎ澄ませていくのだ。その後、対話を通じてこれからどんな体験をしていくかを共有する。どのように新しいサプライヤーやクライアントが訪れるか、組織内の人と結ぶ「契約」はどのような意味を持つのか。様々な人が互いに耳を傾け合うようになると、少しずつ個人の意識が変化していくという。

すると、結果として組織全体がシステム変容していくのだ。リーダーに対しては、どうしたら変革を起こせるのかを問いかけ、組織にとって「価値」とはどういった意味を持つのかを身体を通して感じさせる。こうした活動を通して、価値をミーティングの中で体現していく方法を少しずつ学んでいく。

こうしたワークを実践する上で重要になるのが「Life Dynamics」の「Divergence(拡散)」と「Convergence(収束)」だ。「拡散」はアイデアが開いていく状態で、「収束」はアイデアがまとまっていき、整理されていくことを意味する。また、「収束」は上から押し付けるものではなく、人々が自分の責任を持って学びを進めることであり、この両方のバランスを取ることで、組織の回復力やしなやかさ、機敏さが生まれるとHutchinsさんは述べた。

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今まで組織における「Living System」を作るための様々な要素を見てきたが、組織目的やミッションの外側には上記の「拡散」と「収束」、そして「創発」のプロセスがあるという。

Hutchinsさん:生命の論理を受け入れ、豊かな未来への集合的リーダーシップを推進する中で感じるのが、意識をシフトするというのは人間が本来持っている能力だということです。東洋と西洋の叡智を統合し、「生命」に焦点を当てることで、自らの中にある本来の能力を開発していくことができます。これは未来学者の言葉ですが、21世紀の未来はテクノロジーではなく、「人間はどういう存在か」という概念が明確になることで生み出されるといいます。リジェネラティブ・リーダーシップは、自然の知恵に耳を傾けることができる人間として自分自身を再考することであり、すべての生命と調和して生きるための鍵だと思います。

自然の中で生まれる本質的な対話

次に、株式会社森への創設者である山田さんと一般社団法人Ecological Memes 共同代表・発起人の小林さんを交え、ディスカッションが行われた。

山田さん:私も、組織のリーダーたちを森へ連れていき、自然の体験をしながらリーダーシップを育んでいく「森のリトリート」を主催しているのですが、Hutchinsさんが実践することにとても共鳴しました。自分がずっと疑問に思って活動してきたところと重なる部分が多いと感じましたね。

小林さん:人間の存在自体を捉え直していこうとする中で鍵となるのが、「Reconnecting to Life(生命と繋がり直す)」や生命の摂理に自分たち自身が開かれていくことだと思いました。Hutchinsさんは実際に何が起こっていると感じていますか?

Hutchinsさん:まさに、ビジネスの変革が起きていますね。現在のビジネスの問題の核には、自然との繋がりの断絶があると思います。私が過去10年間、ビジネス領域の変革に携わる中で見てきたのは、どのように自然からのひらめきをビジネスに繋げていくかということです。具体的には、リーダーやコーチを自然の中へ連れて行くワークショップを行っています。そうしたワークショップの中で、実際に自然の中に自分を浸すことが重要だと思います。

このワークショップは非常に単純な方法ですが、効果は大きいです。自然の中にいると、様々な単純性に気づくことができるからです。自然の中に座って何かを感じ取ると、地に足がつき、大地と繋がり、宇宙のエネルギーに対して自分を開くようになります。それによって、複雑さに惑わされずスパッと物事を判断することができるのです。そういった洞察力が自身の人生の内側に入り、リーダーの力となります。

これは、心を開き、頭(理性)から大地にハート(心)をおろしていく感覚だという。そうした感覚を持って他者と対話をし、相手を感じ取るように耳を澄ます。そうした実践を通して、他者がいて、人生があり、生命があるということを探究していくのだとHutchinsさんは述べる。

Hutchinsさん:ビジネスに関する議論は二次的なものであり、その議論を持ち出している「質」そのものが大切になってきます。様々な問題がある中で、それらにスパッと切り込み、ワークショップの中で明らかにしていく。頭も使いますが、身体全体の気付きを使います。自然を通して生命そのものと繋がり、私たちは生命を肯定しようとしていきます。それによって、生命を力付けるビジネスへ繋がっていくのです。

イベントの様子

山田さん:私も経営者たちを森の中へ連れて行ったことがありますが、一体自分たちは今どこにいて、何に困っていて、何を感じていて、どこへいきたいのかというのを焚き火の前で話すと、本当に大切なことしか出てこなくなるんです。そこには、ビジネスだけではなく、「自分が人間としてどう生きようとしているのか」という、その人自身が現れてくるんですね。そうすると、先程の話と同じように、人と人が繋がり合っているということを感じられて、一緒にシフトをしていこうというシステムが現れてきます。

Hutchinsさん:リーダーたちは組織の中でエネルギーの流れを維持して、組織の中に入ってくるエネルギーを広げていきます。さらに、自分の企業文化の土壌を見ていき、お互いに信頼し合っているか、他のリーダーの足を引っ張っているかを考える。そういった土壌がリーダーを育てていくのです。

自己肯定感を高める間(あわい)の必要性

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Image via Shutterstock

組織の中で生まれるエネルギーの流れや繋がりなどを潜在的に持っていたとしても、多くの組織では、それらに光が当たることはあまりない。だからこそ、自分が感じていたものや大事にしているものはこれで良いと思える安全な空間が必要だと小林さんは感じているそうだ。

小林さんそうしたアウェアネスを組織の中で醸成していくためには、「間(あわい)」のような余白を育んでいくことが大切なのではないかと感じています。あわいというのは、間を意味する日本の古語で、二元論的に白黒はっきりと線引きのできない曖昧な領域のことです。要素還元や合理性だけでは説明しきれない全体の複雑性や曖昧さを許容するそのようなスペースを回復する必要があると思っています。そうした「余白」の重要性についても、Hutchinsさんに伺いたいです。

Hutchinsさん安全な場所を作ることは、自然からの創造性と洞察があなたの中を流れていくことを可能にし、人々がその流れに委ねていくのに十分な心理的安全を感じ、無防備かつオープンで、脆弱で思いやりのある空間を作ることです。課題は、システムの「陽」の部分だけでなく、「陰」の部分(挑戦的な緊張、難しい会話、否定的なゴシップなど)をどのように引き出すかです。それは、人々が彼らの関係やチームの中で起こっていることや、良いものとそうでないものを共有することができる安全な空間を通して生じる統合のプロセスです。これが、緊張を乗り越え、学びと進化を明らかにする「リジェネラティブ」の本質です。 仏陀が何世紀も前に知っていたように、泥から蓮の花がやって来るということなのです。

小林さんそうした、世界をダイナミックで動的な流れとして見る知性は、東洋哲学や伝統的な土着の叡智で特に育まれてきている側面もあると思います。Hutchinsさんの共著書『リジェネラティブ・リーダーシップ』の中でも東洋哲学や陰陽思想について触れていましたが、どのようなインスピレーションを受けとっていたのでしょうか?

Hutchinsさんたしかに、根底にあるのは東洋思想かもしれませんね。世界には陰と陽のような二重の緊張があり、それらがどのように相互に関連し、錬金術のように中庸が現れていくのかということは、まさに生命がどのように生まれていくのかということでもあります。これは東洋の知恵における世界観であり、エジプト、神道、さらには仏教にも影響を与えた可能性があります。 これらは生命の摂理に由来するものであり、「自然」から発想を得たものと言えます。私たち自身が成長の過程で生命の存在に自覚的になり、機械的な視点では感知できないものに囲まれた「間(あわい)」の世界に生きていることに気づき、生命システムとしての組織や人間関係を再び出会い直す必要があると思います。

自分自身を手放し、生命と踊る感覚を

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最後に、本セッションを通して登壇者それぞれが感じていることを共有する時間となった。加えて、共著書の中にある「Dancing with nature system(自然システムと踊る)」という文章に込めたHutchinsさんの思いや、日常生活の中で「気付き」を継続させていくためのヒントを伺った。

山田さん:本の中で語られていることの一つに、これから発露してくるものへの希望がありますね。閉塞感の中で苦しみや葛藤を感じながら生きざるをえないシステムがある中で、それを全て包み込んでいる「フィールド」や「宇宙」がある。そういったものとの繋がりを感じられたとき、希望が現れ、新しい仕組みを作る力が湧いてくる。これは、頭の概念ではなかなか理解しきれないですが、多くの人の中に芽生えている感覚だと思います。

Hutchinsさんまず、生命を信頼することが大切だと思います。もしかしたら、その過程で自身が混乱することもあるかもしれません。ですが、今この瞬間に集中して自分自身を信頼し、生命の緊張関係に自分を開いていくと、「希望」が活性化するのです。

また、日常生活の中で生命に対するアウェアネス(気付き)を高めることは愛の行為です。非合理的に感じるかもしれませんが、それは生命への「愛」を深めることであり、まさに今日の困難な時代で私たちが今必要としているものでもあるのです。日の出や日の入りを眺め、そういった時間や空間に身を浸すこと。言うのは簡単ですが、実際にやるのは難しい。「エゴ」が邪魔してくるからです。私たちはエゴによって自分自身の「牢獄」を作り上げていますが、本当のところシステムはそれを必要としていません。この人間的なるものを超えた世界で真に人間として生きていくことを学ぶためには、私たち自身の自由さや壮大さに気付き、牢獄から抜け出していく必要があります。リジェネラティブ・リーダーシップは、生きるということに日々より意識的になることで開かれていく、愛とアクティブホープ(積極的な希望)の学びの旅路なのです。

小林さん人が築き上げてきた産業文明社会がにっちもさっちもいかなくなってしまっている今の時代、「人がこの地球の上でどう生きていくのか」という人間存在のアイデンティティ自体を受け取り直していくことが必要になっているタイミングだと感じています。外部の世界を全てコントロールしようとするのではなく、リーダー自身が内なる生命感覚に日々の暮らしの中で開かれていくことで、自分自身や他者、組織、そして人に閉じない世界や生命システムとダンスをしていくような世界との関わり方が未来を創っていく上で大切になってくるのではないかと感じました。Hutchinsさん、山田さん、素晴らしい時間を本当にありがとうございました。

編集後記

「リジェネラティブ」は近年注目されている言葉だ。今回のセッションのキーワードである「リジェネラティブ・リーダーシップ」は、組織・人を開放し、真に創造的な空間へと再生する力だと感じた。組織の人々を率いてコントロールするのではなく、組織全体に流れているダイナミクスを読み取り、全体の場を調整していくリーダーが、「リジェネラティブ・リーダー」なのではないだろうか。

昨今サステナビリティやエシカルなど、より良い社会に向けた取り組みが模索される中、効率を重視する動きもあると感じる。そうしたアクションの素早さも大切だが、より本質的に「社会にとって良いこと」を捉えていくためには、アクションを起こす一人ひとりの内面に注目していくことが必要だ。自己の感性の開花を促し、組織全体の土壌を育むリジェネラティブ・リーダーシップのあり方は、これからの時代にますます重要になってくるだろう。

リジェネラティブ・リーダーシップは壮大なテーマであり、その実践には長い道のりが必要だと感じるかもしれない。まずは、私たち一人ひとりが自身の内面に寄り添い、心を開放していくことが、その道のりの第一歩になるのではないだろうか。

イベントグラレコ

【参照サイト】Ecological Memes Forum 2021(各セッションの映像アーカイブは、こちらのサイトで販売されています。本記事で紹介したセッションはこちら。)

Edited by Megumi

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