アメリカのあらゆる生活者に循環の選択肢を。サーキュラーベビー服ブランド「Borobabi」

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世界中で大きな問題となっている衣類の廃棄問題。近年では、服のデザインだけではなく、生産過程の透明性、素材の環境負荷、実際に服を作る人々の労働環境など、様々な視点から改善が行われており、喜ばしいことに環境や社会に配慮した選択肢も増えてきた。

しかし問題はなお根深い。アメリカも他の地域と同様に、衣類の大量廃棄が問題になっている。同国で2017年に廃棄された衣類の量は、1,300万トン。一人当たり37kgを廃棄している計算になる。また、環境や社会に配慮した商品は比較的高価であることも多く、格差の大きい社会では誰もが簡単にアクセスできるわけではないのだ。

そうした状況を打破しようと、ニュージャージー州でサーキュラーベビー服ブランド「Borobabi」が始動した。Borobabiは、特に「消費期限」が短いとされるベビー服に焦点を当て、それらを循環させることを目指したアメリカ初のリテイルブランドだ。アメリカで育まれるカルチャーを大切にしながら、あらゆる生活者に「循環」の選択肢を提供するためにBorobabiが工夫していることとは?同社のCEOであるCarolyn Butlerさんにお話を伺った。

Carolyn Butlerさん|Image via Borobabi

ケミカルエンジニアが洋服のサーキュラーブランドを開業

CarolynさんがBorobabiを立ち上げた背景には、彼女の特殊なバックグラウンドがあった。

「私はもともと、ケミカルエンジニアリングの分野にいて、ファッションの領域にはまったく関わったことがありませんでした。主に、農業・プラスチック・水のリサイクルに携わる仕事をしていたのですが、だんだんと所属していた企業のパーパスに納得できなくなってきたのです。そこでビジネススクールに入学し、サーキュラービジネスについて学び始めました。

その後結婚し、娘を授かってからは、アパートが服で溢れるようになりました。子供はどんどん成長していくので、服が凄まじいスピードでサイズアウトしていきます。もったいないのでリサイクルしようと思ったのですが、アメリカではその仕組みがないことがわかったのです。そうした経験を通じて、このベビー服の問題を何とかできないかと考えるようになりました。ケミカルエンジニアリングは循環性と親和性が高いので、専門性も活かせますし、人々だけではなく、環境の手助けになることがしたいと思い、Borobabiを開業しました。」

カスタマーに選択肢を提供する、Borobabiのビジネスモデル

「ファッションについて私自身はとても詳しいわけではなかったのですが、従姉妹がファッションデザイナーをやっていたのでビジネスを支えてくれました。なるべく洗練されたデザインの服を販売したいというこだわりもあったのでとても助かりました。」

Borobabiが対象としている子ども服は0〜6歳のもの。その期間は、一着の服につき3〜6ヶ月でサイズアウトすることから、服を循環させる必要性が最も高いと感じたという。

Image via Borobabi

「Borobabiの特徴は、レンタルもできるし、購買もできることです。最初に服を購買したとしても、返却したら購入金額の20パーセントをクレジットとして受け取ることができます。その方法で、すべての製品が戻ってくるのが理想だと思っています。レンタルの洋服は、1着4人以上の子供に着てもらっていますね。1人あたりに換算すると平均4ヶ月ほど所有されます。カスタマー自身がお下がりなどで何年か服を所有する場合は、1・2年経ってから服が戻ってくることもあります。」

カスタマーがBorobabiを選ぶ理由

これまでにBorobabiの商品を買い求めた人は、ハワイ・アラスカを含むアメリカ50州すべてにいるという。彼ら・彼女らはどのような理由でBorobabiを選択したのだろうか。

「エシカルな商品が欲しいという人もいますし、シンプルに私たちの扱う洋服が好きだという人もいます。そして女性のビジネスを支えたいという理由でBorobabiを選んでくれる人もいましたね。アメリカの多くのファッション企業が男性によって経営されていることに問題意識を持っている人も多いのです。

カスタマーの大部分は東西の沿岸部に住んでいます。沿岸部ではエシカルなファッションが他の地域よりも浸透しつつあるというのもありますが、大都市では小さな部屋で暮らしているために、服の置き場に困っている人が多いのです。そのため、不要になった洋服は家に置いておかずに手放したいと思っている人も一定数います。

Image via Borobabi

返却は、付属のバッグを使って行います。このバッグもPETリサイクルでできており、カーボンニュートラルになるように工夫しています。ベビー服は軽くて小さいため、廃棄される場合に比べると、回収する方が環境負荷が小さいのです。」

リジェネラティブへのこだわり

Borobabiがサーキュラーエコノミーを実現するために掲げていることは「自然のシステムを再現すること」「プロダクトを使い続けること」「廃棄の出ないデザイン」の三つ。具体的にこだわりを持って取り組むのは、「繊維」に関することだった。

Image via Borobabi

「化学繊維と自然繊維を混ぜると、それを切り離すのは難しいため、自ずとリサイクルが困難になります。Boribabiでは、自然繊維だけを使ったメーカーの商品のみを取り扱うようにしています。ブランドパートナーはヨーロッパやオセアニアなど様々な地域にいます。オーガニックコットンを使っているのは、環境を傷めつけることなく、自然と再生することができる素材だからです。

化学繊維が人体と環境にいかに悪影響なのかは、ケミカルエンジニアとしての経験からわかっていました。素材について探求すると、人間が誤った使い方をしたことで、いろいろな問題が引き起こされているということがわかります。このまま環境を汚染し、ごみを出し続け、過酷な労働環境で人を働かせ続けることは不可能です。特にごみや労働の問題はいわゆる発展途上国にしわ寄せがいっていますよね。

こうした現状を考えると、サーキュラーエコノミーは『ベターな選択肢』ではなく『必須の選択』になってくることがわかります。ファッションもその例に漏れないと思ったので、Borobabiでは特に『繊維』に気を遣った循環のモデルを構築しようとしているのです。」

アメリカにいるからこそわかる、生活者の選択の大切さ

サーキュラーエコノミーに関する先進的な取り組みを調べると、欧州の事例が多いことがわかる。サーキュラーエコノミーの考え方が浸透しきっているとは言えないアメリカでそうしたビジネスを展開することは、ときに困難を伴うようだ。

「アメリカ国内での環境への意識は、正直あまり高くないと思います。ヨーロッパでは、サーキュラーエコノミーが政策に取り入れられていたりと、強い土壌がありますよね。アメリカでは、生活レベルのことに関してそれぞれの州が大きな決定権を握っていること、また大統領が変わると政策が大きく変わることなどもあり、『循環』に重きを置く風土が完成しているとは言えないのです。」

Image via Borobabi

「ですが、日々の生活の選択をするのは、政策ではなく私たちです。私がファッションに注目しているのは、それが政治ではなく、私たち生活者の選択に委ねられている分野だからです。個人は大きな力を持っていると思いますし、消費者の力は集結すれば強いと信じています。」

アメリカは人々の所得の格差も大きい。誰でもアクセスができるよう、比較的安価な値段で上質な洋服を提供することもBorobabiの目指すところだ。

「正直、Borobabiの洋服は環境負荷のみならず、生産者の賃金にも配慮したものを選んでいるため、高価です。ですが、レンタルや古着の購入を可能にしているため、価格のオプションが設けられています。そうすることで、お金に余裕のない人でも、上質な洋服にアクセスできるシステムを整えているのです。

一番困難を感じるのは、『人々にどうやって見てもらうか』ということですね。ファストファッションが浸透しているアメリカで、高い洋服は『なぜ高いのか』を理解してもらえず、受け入れられにくいという問題があります。もちろん理解してくれる人もいるのですが、ファッションに関してある種の教え合いは今後必要になってくると思います。」

カスタマーから学ぶ、「古着」に対する価値観の変化

新型コロナは私たちの消費の形を大きく変えたと言える。Carolynさんはそうした消費者の変化をどのように捉えているのだろうか。

「新型コロナは『本当に必要なものは何か?』という問いを私たちにぶつけてくれたと思います。『日常生活を送る上で、17本もジーンズが必要?』と身の回りのものへの気持ちを整理した人も多いのではないでしょうか。そうした心境の変化は、Z世代など特に若い世代で起きていると感じています。」

Image via Borobabi

「アメリカには『ベビーシャワー』の文化があって、妊娠がわかると、友人で集まってお祝いしてギフトをあげるんですよね。本当にそれはもう……やりすぎなくらいパーティーをするんです(笑)。そうしたパーティーのシーンで、中古の服などをギフトとしてあげることはタブーでした。ですがこの間、20代前半の人から『古着をギフトとしてあげたい』と問い合わせが来たんです。ごみを出さないことがかっこいい、精神的に豊かであるという考え持っている人々がいると気付かされた出来事でした。」

より多くの地域でサーキュラーモデルを浸透させていくために

Carolynさんは「サーキュラービジネスが他の地域でも展開できると思うか?」という問いに潔く答えてくれた。

「まず、答えはイエスです。ただ、アメリカを含むサーキュラービジネスが浸透していない地域では、利益が出るまでに時間がかかるので、なかなか投資されないというのが現実です。しかし、成果が出るまでに3〜5年かかるサーキュラービジネスは『やるかどうか』ではなく、『いつやるか』を考える段階に来ていると思います。

現在私の住んでいる地域では、プラスチックや服のリサイクル工程が複雑で、消費者に責任が委ねられすぎていると思います。例えばコカ・コーラが飲みたいとき、私たちは中身のソーダが欲しいだけで、ペットボトルがほしいわけではないですよね。リサイクルのインフラはもっと整えられていくべきだと思いますし、消費者がリサイクルなどの選択をしやすいよう、企業がそうした仕組みづくりにもっと積極的になるべきです。新しい企業や中小企業はシステムを導入しやすいので、そうしたところから循環を作っていくのもいいのではないかと思います。」

ビジネスを循環型にするには膨大な時間がかかり、少人数でそれを達成するには苦労も多い。Borobabiも現在進行形で新しいビジネスの形を模索している企業の一つだ。Carolynさんは自身の置かれる状況をどのように捉えているのだろうか。

「ビジネスを始めるのは簡単ではないですし、忙しいことも多いです。ただ、Borobabiの存在意義は『環境に負荷をかけることなく、親子が安全に楽しく洋服を着られるようにする』こと。そのパーパスが達成されていくことに、チームメンバー一同喜びを感じています。パーパスに共感できない組織で働くことはウェルビーイングであるとは言えないと思います。忙しいけれど、社会をポジティブに変えていけるということがビジネスを継続する秘訣だと思います。」

編集後記

欧州を中心とするサーキュラーエコノミーの先進事例を見て、「そもそも環境が違うから」と尻込みしてしまった経験のある人もいるかもしれない。Borobabiが拠点を置くアメリカも、自然に対する人々の考え方や文化、都市での暮らし方、政治のあり方など、欧州とは異なる部分が多い。しかしBorobabiはそこに特有の問題を逆手に取り、プロダクトのサーキュラリティだけではなく、格差是正に寄与するようなサービスを展開していた。

友人のベビーシャワーにてBorobabiの「古着」をプレゼントした方の話には驚いた。筆者も幾度となく、新品のアパレルや雑貨をプレゼントとして贈ってきたからだ。しかし、Carolynさんが強調するように、消費者の力はますます大きくなっている。「こんなにジーンズを持ってるのに、さらに買い足す必要あるかな」「古着を贈るのって本当に失礼なのかな」……何かアクションをする前に立ち止まって考える時間が必要なのかもしれない。そうした小さな気付きや配慮が、今後あらゆる地域で「循環」の起爆剤になっていくのではないかと思わされた取材だった。

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