国際認証「ブルーフラッグ」のその後。継続のための3つのカギとは?【後編】

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2021年4月、世界で唯一のビーチ・マリーナ・観光船舶を対象とした国際認証「ブルーフラッグ」を取得した神奈川県の片瀬西浜・鵠沼海水浴場。ブルーフラッグは、フランス生まれの環境に関する認証で、認証のあるビーチは、安心安全でかつ、サステナビリティに取り組む海水浴場として利用者の信頼を得ている。

ブルーフラッグについて書いた【前編】の記事では、片瀬西浜・鵠沼海水浴場がアジアで初めて、民間団体としてブルーフラッグを取得したということで、そこに至るまでのプロセスや、さまざまな関係者の想いをご紹介した。

片瀬西浜・鵠沼海水浴場

(提供:藤沢市観光協会)

このブルーフラッグは、「水質・環境教育」と「情報」「環境管理」「安全」の四つのカテゴリーで、33の基準を満たす必要があり、毎年更新が求められる厳しい認証制度だ。認証団体であるFEE Japan代表理事の伊藤正侑子さんは「むしろ取得後、いかに継続していくかの方が難しい」という。特に2020年はコロナ禍で海の家が開設されず、人が利用しない状況での審査となったため、この夏からがむしろ本番と言える。

では今後、ブルーフラッグの認証を継続、発展させていくカギはどこにあるのだろうか。

ブルーフラッグがさらに発展するための3つのカギ

01. 多様なステークホルダーが集う場づくり

伊藤さんによると、ブルーフラッグ継続のカギの一つは、「多様なステークホルダーが自由に意見を言える場をつくること」だという。これは、ブルーフラッグの基準の中にも含まれている。

この点について、組合を中心に多様なステークホルダーが参画してきた片瀬西浜・鵠沼海水浴場の場合、すでに下地があると言えそうだ。湘南ビジョン研究所の片山清宏さんは「片瀬西浜・鵠沼海水浴場は民間団体である組合が取得主体なので、行政によるトップダウンで一気に進めることはできなかった。しかし、組合と市民が協力してさまざまなステークホルダーを巻き込みながら、ボトムアップでじっくりと活動を盛り上げていくことができたと思う。時間や手間はかかったが、むしろこれによって地に足のついた連携ができた。このボトムアップによる市民・企業・行政の連携こそがブルーフラッグの意義だと思う。今回のブルーフラッグ取得プロセスは一つの成功モデルとなるだろう」と語る。

民間主体の取得の良さを活かした、片瀬西浜・鵠沼海水浴場ならではの推進体制が今後どんな展開を生み出すのか、期待が高まる。

02. 環境教育

二つ目のカギとなるのが、環境教育の実施だ。ブルーフラッグは認証の継続要件として環境教育の実施を義務付けている。そのため、多様なステークホルダーが集う場には学校などの教育機関と連携することがおすすめだと、伊藤さんは語る。たとえば、福井県高浜町の若狭和田海水浴場では、地元小学校などの教育機関やボーイスカウトが参加し、ブルーフラッグのことが学べるプログラムを提供している。

伊藤さんはブルーフラッグをきっかけに「海が私たちの暮らしにどんな恵みをもたらしているか、暮らしと海とのつながりを知ってもらいたい」という。たとえば、ビーチクリーンをして終わりではなく、ごみがどこから来たのか、どんなものがあるのかを調べていくことによって、陸で暮らす私たちの暮らしをどう見直せばいいか、気づくこともあるだろう。水質もしかり。水質の汚染源を調べれば、日頃使っている洗剤や化粧品などの選択を見直すことにもつながるかもしれない。ブルーフラッグ取得は、海岸だけにとどまらない活動なのだ。

片瀬西浜・鵠沼海水浴場でも、すでにNPOが中心となってさまざまな環境教育を実施している。たとえば、湘南ビジョン研究所では、2018年から湘南VISION大学を開設。海をテーマとした講座を実施し、これまでに約2,250人が参加した。また、2021年は藤沢市内の全小学校に、片瀬西浜・鵠沼海水浴場がブルーフラッグを取得したことに関するチラシが配られる。今後は、「ブルーフラッグをきっかけに、学校で海のこと、海での安全確保についての授業ができるようになれば」と湘南ビジョン研究所の片山さん話す。

湘南ビジョン研究所_湘南ビジョン大学座学風景

湘南ビジョン大学座学風景(提供:湘南ビジョン研究所)

最近は、海に遊びに来る子どもたちが減少する「海離れ」も課題になっている。「海がいいなあ、と思った子どもがまた大きくなって、子どもを連れてくる。そんな好循環がつくれれば」と西浜サーフライフセービングクラブの上野凌さんは今後の取り組みに期待を込めた。

03. 認知度の向上

ブルーフラッグ継続の三つ目のカギは、認知度の向上。まずは知っている人が増えなければ、取り組みの浸透を図ることも難しい。江の島海水浴場協同組合の森井裕幸さんは、「江の島の知名度を活用してブルーフラッグを広げていきたい」と意気込む。2021年の7月3日の海開きでは、ブルーフラッグのお披露目セレモニーが行われる。また、海岸にはブルーフラッグ取得についての看板も設置されるという。

今後、認知度が高まれば、利用者からの期待感も高まることが予想される。特に、ビーチを利用する主な世代であるZ世代の傾向を考えると、プラスチックごみの発生抑制や再生可能エネルギーの利用促進など、より本質的な取り組みが求められていくだろう。ただ、こうしたプレッシャーは取り組みを前進させる糧になるはずだ。認知度の向上にともなう、取り組みの進展を期待したい。

西浜サーフライフセービングクラブ

(提供:西浜サーフライフセービングクラブ)

海を起点にしたサステナブルなまちづくり

江の島海水浴場協同組合の森井さんは、今後の取り組みについて、「海岸ごみ、騒音対策、喫煙ルールの徹底、安全対策、バリアフリーの導入などに引き続き取り組んで、世界が認める『キレイで安心安全で誰もが楽しめる優しいビーチ』を目指し、地域の方々と素晴らしい湘南の海を次世代に残していきたい」と語る。取り組むべき課題はまだたくさんあるが、それは今後の進展への期待であるとも言えるだろう。

「ブルーフラッグは、海を切り口にしたまちづくり」と語る西浜サーフライフセービングクラブの上野さん。海の大切さ、面白さ、楽しさ、海が抱える問題を知ることは、自分たちの暮らしやまちのあり方、未来を考えることにつながる。「海が好きだからこのまちに残る。海が好きだからこのまちに来る(関係人口の増加)。海を起点にしたまちづくりの第一歩をこの片瀬西浜・鵠沼海水浴場からできれば」と、意気込む。夢は広がる。

海に囲まれた日本には約1060もの海水浴場がある。海岸を起点とするサステナビリティの取り組みはまだ始まったばかり。今回の片瀬西浜・鵠沼海水浴場のブルーフラッグの取得、その後の取り組みが日本、さらにはアジア地域の先例となるよう発展し続けていくことを期待したい。

湘南ビジョン研究所_湘南ビジョン大学

(提供:湘南ビジョン研究所)

Edited by Kimika

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