開発のきっかけは洪水。インドネシアの食べられる海藻パッケージ素材とは?

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世界中で、脱プラスチックの流れが加速している。なかでも早急に対策を進めるべきだとされているのは、プラスチック製品のなかで最も使用量が多い、私たちの食品や日用品を包む「パッケージ」だ。

NGO団体The Pew Charitable Trustsを中心に2020年7月に発表された調査レポート「Breaking The Plastic Wave(※1)」によると、2016年には1100万トンのプラスチックが海に流出。そのうち80%が食品のパッケージだと推定されている。

そして、プラスチックの廃棄物汚染をめぐるインドネシアの状況は、世界的に見ても深刻だ。同国では、90%のプラスチックが海に流れ出ており、世界で2番目に海のプラスチック汚染に寄与してしまっている。そして、やはりその70%が食べ物や飲み物のパッケージである。さらに、同国の漁業マーケットの25%は、プラスチックで汚染されているという。(※2)

そんなプラスチックの廃棄物汚染問題のソリューションを紹介が、まさにインドネシアから生まれている。同国の女性科学者が開発した、半透明でカラフルなパッケージ、「Biopac」だ。このパッケージは海藻からつくられていて、自然界で生分解される素材だ。さらに、私たちが食べることも可能だという。

海藻からできたパッケージ

今回IDEAS FOR GOODでは、Biopac創業者のNoryawati Mulyono氏にメールインタビューを行い、開発のきっかけやBiopacの特徴、地域への貢献などについて聞いた。

開発のきっかけは、毎年雨季に襲いかかる大洪水

Q.Biopac開発のきっかけを教えてください。

「私は、2000年からインドネシアのジャカルタに住み始めました。ジャカルタは毎年雨季には洪水に見舞われていて、特に大きな洪水が2002年と2007年に発生しました。私たちは仕事にも行けず、電気や清潔な水も手に入らず、数日間食べ物も得られませんでした。家はひどく散らかり、テレビや冷蔵庫といった家具を清潔な場所に移動させなければなりませんでした。さらに洪水の後、近隣の人は下痢やレプトスピラ症(感染症の一種)を発症してしまいました。

長期間の大雨によって洪水が発生するのは自然なことですが、雨季になると必ず洪水が発生するというのは普通のことではありません。そこで、私たちが洪水の根本原因を調査してみると、雨そのもののせいではないことがわかりました──それは、パッケージのごみのせいだったのです。ペットボトルやヌードルのパッケージ……それらが排水の流れを止め、川を浅くしていることが大きな原因でした。

そのため、パッケージのごみを取り除けたら、洪水の発生率を下げられると考え、若い女性の科学者を支援するプログラム『L’Oreal for Women in Science(ロレアル-ユネスコ女性科学賞)』に資金をもらい、2010年にBiopacの開発を始めました。2017年には自分の研究所を設立し、マーケティング会社『Evoware』と協働でBiopacをローンチしました。」

海藻からできたパッケージ

コーヒーやドーナツ、ポテトといった食べ物のパッケージや、石鹸やストローといった生活用品のパッケージにも使用可能だ。

海藻からつくられた、食べ物に近いパッケージ

Q.Biopacに使われている材料の海藻について教えてください。

「Biopacには、インドネシア原生の年中豊富に収穫できる海藻を使用しています。インドネシアの3分の2以上の海岸の海藻はまだ使われていませんので、原材料はたくさんあります。海藻の栽培は早く簡単に行うことができますし、海藻はCO2を吸収することもできるので、気候変動への対策としても有効なのです。」

海藻からできたパッケージ

Q.Biopacの特徴について教えてください。

「Biopacは、熱いお湯に入れると約1分で溶けます。海では分解にもう少し時間がかかりますが、Biopacはもともと海藻ですから、魚も好んで食べてくれます。土の上であれば、分解には5〜12日かかります。これは、土壌に生息する微生物の多様性によって変わります。

Biopacは海藻にパッケージとしての機能を加えた製品なので、食べ物のように扱うことを推奨しています。乾燥していて清潔な容器にしっかりと蓋を閉じて入れておけば、1年から1年半程度は貯蔵できます。部屋の湿度が高すぎるとカビてしまい、逆に部屋が乾燥しすぎていると少しもろくなってしまいます。貯蔵する部屋の温度は高くて28度を推奨しています。

匂いは最小限に抑えるように最善を尽くしており、より生活者に受け入れてもらいやすくするため、バニラの香りや味を加えることもできます。」

海藻からできたパッケージ

コーヒーやラーメンのスープのパッケージとして利用すれば、熱いお湯をかけてそのまま溶かして食べることができる。

海藻の養殖を通して地元の海藻農家にも貢献

Q.Biopacの地元への貢献について教えてください。

「私たちは、海藻を養殖することを通して、海岸付近に暮らす海藻の農家家族を支援しています。具体的には、海藻の需要の確保や、海藻を乾かすための台の提供、そして質の高い海藻を栽培でするためのトレーニングを抵抗するといったサポートを行っています。」

海藻農家の様子

群島国家であるインドネシアでは、海藻は豊富に収穫できるが、使い道がなく供給過剰となっている。そのため、多くの海藻農家は非常に貧しい。

Q.今後の展望について教えてください。

「今後は、私たちの生産能力をあげ、Biopacの販売経路を増やすことで、私たちの環境や社会へのインパクトをさらに大きなものにしたいと考えています。また、既存のパッケージと同程度の価格まで、Biopacの販売価格を下げていきたいと思っています。」

Q.最後に、IDEAS FOR GOODの読者に向けてメッセージをお願いします。

「私たちは全ての人に、パッケージの廃棄物汚染を乗り越えることに協力して欲しいと思っています。みなさんは、私たちのソリューションをみなさんのネットワークや環境を用いて共有することができます。

もしあなたが学生なら学校で話すことができますし、もし会社員なら、製品を会社で宣伝したり、Biopacを用いてミーティングでプラスチックフリーのお菓子を提供したりといったことをぜひ行って欲しいです。もしあなたが企業家なら、あなたが経営している会社で持続可能なライフスタイルを推進してください。私たちは、持続可能なライフスタイルを一貫して実行することが、ビジネスの持続可能性をも確実にすると、信じています。」

編集後記

自国に豊富にある自然資源を活用し、プラスチックの廃棄物汚染という環境問題を解決する。 さらに、貧しい人々への社会的なインパクトも生み出す。

今回の取材を通して、プラスチックの廃棄物汚染による洪水という被害を直接的に受けてしまっているインドネシアからこのような製品が生まれていることに大変希望を感じた。さらに、群島国家という点で日本とも共通点のあるインドネシアのソリューションは、今後の日本の持続可能性へのヒントになる部分もあるのではないだろうか。Biopacの取り組みに、引き続き注目していきたい。

※1 Breaking The Plastic Wave
※2 Evoware seaweed based packaging

【参照サイト】BIOPAC

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