自宅から出る生ごみをコンポスト(堆肥化)し、その土で育った新鮮な野菜を食べる。そうした食の循環を、都市で生活しながら農業生産者とともに共創する人が集まるプラットフォームがある。生産者と消費者がつながるCSA(Community Supported Agriculture)とコンポストの概念を掛け合わせた新しい循環の仕組み「CSAループ」だ。
年間分の野菜セットを事前購入したCSAの会員は農家から定期的に野菜を受け取ることができる。もし必要があれば、その際に自宅の生ごみをコンポストした土を渡す。農家は受け取った土を持ち帰り、畑の土づくりに活用する。そして、その畑で収穫された野菜は、街の拠点となるカフェやファーマーズマーケットで会員に手渡される。
この循環の仕組みは、表参道でコミュニティコンポスト「1.2 mile community compost」プロジェクトを展開してきた株式会社4Nature、表参道で毎週末行われている青山ファーマーズマーケット、そして千葉県山武市で農業を営む農国ふくわらいという3者の協働で、2022年2月からの開始を見据え、2021年5月から実証実験を開始している。
CSAループから生まれる都市の循環は、消費者、農家、社会にどのような「つながり」と「幸せ」をもたらすのか。
【アーバンサーキュラーズ特集#1】では、100%天然成分で、生分解性のさとうきびストローの販売や回収、コミュニティコンポストなどに取り組む、株式会社4Nature代表の平間さんと、同社でCSAループを担当する宇都宮さんに、お二人が描く都市における循環の未来について伺った。
話者プロフィール:平間亮太(ひらま・りょうた)
株式会社4Nature代表。イメージキャラクターのピーターラビットの「絵本の売り上げで、地域の環境を守る」という仕組みに共感し、信託銀行に入行。自らの手で、多様な人々が安心して暮らせる都市循環の入り口を作りたいとの思いで同行を退職。2018年、天然成分で生分解性のさとうきびストローを取り扱う株式会社4Natureを設立。
話者プロフィール:宇都宮裕里(うつのみや・ゆうり)
米国オレゴン州のポートランドに留学し、都市の循環や多様性を受け入れる寛容な社会を肌で感じる。プラスチックの代替品としてのヘンプ(大麻)の可能性を模索するなか、さとうきびストローなどを通して循環の街づくりを行う株式会社4Natureに出会い、入社。現在は1.2 mile community compostおよびCSAループの運営を担当。
コンポストの土を手にして気づいた都市の限界
2019年のIDEAS FOR GOODの取材時に「街づくり」への思いを語っていた4Nature。当時はさとうきびストローの販売事業のみを手掛けていたが、その時からすでにCSAループの構想を模索していたという。そしてその想いは、新型コロナウイルスの流行により加速度的に形になっていく。
消費者が家庭の生ごみ(さとうきびストローを含む)を自宅でコンポストし、その土を生産地に還すことで、都市の生活者が「食」の循環の一部を担う。そんな仕組みの着想を得た後、「1.2 mile community compost」を通して、賛同する地域の人とともに、どうしたら都市の循環を作り出せるかを試行錯誤してきた。こうした経験から、平間さんは「循環をともに模索する」コミュニティの重要性を実感したという。
平間さん:家庭でのコンポストには課題が2つあります。まずは、コンポストする際のテクニカルな部分。もう1つは、作ったコンポストの堆肥の有効活用が、都市部の限られた空間では難しい点です。自宅の生ごみをコンポストで堆肥化し、その使い道を考えたとき、身近な場所がアスファルトだらけで土を使えないという現実に直面します。また、ご近所付き合いも希薄になりつつある中、人とのつながりを生かして活用方法を見つけていくことも簡単ではないことを知り、私たちは都市で暮らす自分たちの限界に気がつきます。
それなら、堆肥を生産者の方と一緒に有効活用するのはどうだろうかと考えました。しかし、ただコンポストの土を農家に渡すのでは、家庭のごみを収集所に運ぶのとそう変わらない価値観のように感じました。土を渡す前に、自分たちがその土を使うとしたら何が必要になるのか、消費者サイドでどこまでやれるのかを身を持って体感し、生産者とともに良い方向を模索していくコミュニティを構築したいと思いました。
大切なのは、循環を共創するコミュニケーション
CSAループでは、野菜セットの年間契約をしている生産者と消費者が直接顔を突き合わせて、野菜の受け渡しを行うのが基本のルーティンだ。消費者が堆肥を持参していた場合、生産者は、受け取った堆肥を野菜を積んできたスペースに載せて帰るので、運送による環境負荷だけでなく、運搬コストも最小限に抑えられる。宇都宮さんは、野菜の受け渡しのタイミング以外にも、会員が生産地に足を運び、現地で交流する機会も大事にしたいと考えている。
宇都宮さん:月に一回など、農家さんごとに設定される頻度で、援農や農業体験や、現地で五感を使って学ぶ機会もひとつのコミュニケーションだと考えています。自分たちが食べる野菜がどこでどのように作られているのか、知りたい消費者は多いです。一方の生産者も、こうした機会を通して、農業の楽しさや直面している課題を消費者に知ってもらいたいと思う方も多いと感じます。現地で会話をしながら一緒に作業することで、消費者と生産者の相互の理解が深まることを期待しています。
また、CSAとコンポストを組み合わせた新たな循環を生み出す、よりよい地域コミュニティの実現に向け、消費者と生産者だけでなく、コミュニティに関わるすべての人を対象にした「共創会議」を月に一度開催している。会議では、野菜や堆肥の受け渡し、援農など、仕組みを通して広がるコミュニティの可能性について、様々な角度から活発な意見交換が行われている。
平間さん:CSAループで一番大切にしているのは、野菜や堆肥の受け渡しから生まれるコミュニケーションです。コンポストも、不安や悩みをコミュニティ全体で支え合い、教え合うことで、「やってみよう、続けてみよう」と一歩前に進むことができます。こうしたコミュニケーションの部分をプラットフォーム化することで、この仕組みを展開しようと考えています。
また、普段のコミュニケーションには、コミュニティごとに設けられるグループがあり、情報交換や連絡、相談などのコミュニケーションを円滑に取ることができます。
足りないことを受け入れる、寛容性が支えるコミュニティ
全てのケースに事前に対応することができる仕組みも大切だが、コミュニティごとに生まれる余白を前向きに受け入れる「寛容性」が、誰もが安心して参加できる持続可能なコミュニティには必要だ。たとえば、定期的な野菜の受け渡しでは、数名の会員がコンポストの堆肥を持ってくる。堆肥は無しで野菜だけを受け取りに来る人もいる。持ち込まれた各家庭のコンポストにも、それぞれ個性が現れる。
宇都宮さん:一般的に堆肥を作る工程は一次的、二次的な処理と分けて考えます。一次的な処理とは、コンポストで各家庭の生ごみを腐らせずに分解・乾燥などさせて保管すること。その後、種子や病原菌の死滅など、堆肥としての品質を高めていくために各農家が必要に応じて適切に処理をおこなっていく。これが二次的な処理になります。適切な使用方法で取り組む中で各家庭で多少のムラは生じますが、次の段階へのバトンパスができるよう、理解と実践を深めていくことが大切だと考えています。
平間さん:現在ご一緒している農国ふくわらいさんの野菜の受け渡しは月1回に設定されています。しかし、ある月は台風の直撃で急遽畑での作業が必要になり、野菜の受け渡しを予定通りに実施できず、その月内にすべての会員に野菜を渡しきれませんでした。農作物を扱っているとこうした問題は常に起こりうることです。農家に負担がかからない設計に加え、消費者である会員が状況を理解して受け入れることが、CSAを続ける上では大切です。
すべての「やりたい」を可能にする、選択のグラデーションとは?
農業でいうと、化学肥料や農薬不使用だけが正解ではなく、ゼロは無理でも少しでも農薬を減らしたい農家の受け皿が確立されれば、その方向に動き出せるという人もいる。コンポストも、始めてみたい人、踏み込んでやりたい人、今すぐ始めるのは難しい人など、関わり方の選択にグラデーションがあると、やってみようと思う人が増えていくのではないだろうか。
宇都宮さん:選びたいときに自分のできる範囲で参加できる社会になっていくことを期待しています。いきなり行政の職員を相手にするのではなく、ご近所の井戸端会議で話すくらいの気軽な規模から、0か100かではなく50とか30とか、それぞれが参加しやすいレベルで参加すればいい。そこからアイデアや企画が次々に生まれるような社会が理想です。
平間さん:選択の幅が広がり、関わる人が増えることで、結果として社会がより良い方向に進んでくれたらいいなと。たとえば、家庭の生ごみをコンポストして畑に還すことはある種の土づくりであり、食糧生産のプロセスの一部とも言えます。消費者と生産者の役割の境界線が少し曖昧になることで、ともに循環を支えているという意識が生まれるのではないでしょうか。
また、適切なグラデーションがある場所では、人は孤独を感じにくいはずです。多様な背景や価値観の人を受け入れる寛容なコミュニティでは、誰もが自分の居場所を感じることができます。
目的は循環ではなく、心地よい地域社会づくり
さとうきびストローから始まり、都市の循環づくりに取り組んできた4Nature。平間さんと宇都宮さんに、彼らが描く循環の未来について聞いてみると、循環は目的ではなく、あくまでも「手段」であるという答えが返ってきた。
宇都宮さん:人と人との関係性が都市の循環を生み出すと、おもしろいことがいろいろな場所で発生し、街全体としてのエネルギーにつながります。CSAループでは、そうした循環を、心地よい社会のための手段として作っていくつもりです。
平間さん:循環の未来というよりも、循環という仕組みがある、より良い、心地よい都市のイメージがあります。人やモノの循環は本質ではなく、「“社会寛容性”を生むために循環が必要である」という位置付けが正しいのかなと。そういう意味で循環というのは、仕組みの前面ではなく、背面に設計されるべきことなのかもしれません。
都市の人はこういう生活だからこうだよね、地方の人はこういう生活だからこうだよねと相互理解を深め、リスクをともに受け入れることが、助け合いの精神につながる。それが「社会寛容性」という言葉で代替できると考えています。そうした寛容性を育む手段として、都市と地方をつなぐ循環を一緒に模索し、コミュニケーションを図ることが大切だと思います。
生活圏内に、循環の拠点がある都市の未来
今後の展開としては、より多くの人がCSAループに参加できるよう、拠点の数を増やしていく計画があるとのこと。また、将来的には、コミュニティコンポストとカフェ、マーケットなど、コミュニティメンバーが集まり、リアルな接点を持てるような拠点づくりの構想があるという。
平間さん:これから拠点となっていくカフェの周辺にCSAループのメンバーが増えていき「一旦お宅に野菜を置いておいてもらえない?」といった、ご近所付き合いが生まれることを期待しています。それには、物理的に家が隣ではなくても、自分の生活圏内にあるコミュニティがちょうどいい。そのために、もう少しいろいろな場所に拠点を設置する必要があります。
CSAループやコミュニティコンポスト、カフェ、マーケットがひとつのエリアに集約されていると、僕らが目指す食と資源の循環を実現しやすい。カフェがあれば人が集まりコミュニケーションが活性化します。マーケットがあれば人とモノが行き交い、ビジネスが生まれる。将来的にはCSAループとビジネス、ウェルビーングな活動の3つの機能が備わっている、そんな街の拠点を作りたいです。
編集後記
CSAループから見えてくる、寛容性を大切にした社会の心地よさ。コンポストを実践する者同士、消費者と生産者、それぞれの選択や立場を理解することで、彩り=グラデーションがある「お隣さん」コミュニティが、より多くの人の生活圏内で生まれてほしい。
表題の「アーバンサーキュラーズ」とは、都市の循環を模索する人たちを指す。さとうストローの循環から始まった4Natureが描く、心地よい都市の未来を創る「循環」にこれからも注目したい。
コミュニティ会員を募集開始予定!
【募集期間】12/15(水)0:00〜1/14(金)23:59 (※)
(※)定員に余裕がある拠点では、2022年1月15日0時00分〜2022年1月31日23時59分に2次募集を実施予定。申し込みは先着順となる。
お申込み可能なプランは詳細をご覧ください。
http://4nature.co.jp/csaloop
Urban Circulars 特集予定記事
- #0「ELEMINIST」コラボ企画。都市ならではの循環生活を考える
- #1寛容性を育む。4Natureが考える、都市型CSAの未来
- #2ベランダで土に触ろう。LFCコンポストは、生活をどう変えるか?
- #3消費者とつながる新しい農の形を求めて。「農国ふくわらい」の挑戦
- #4青山ファーマーズマーケットが紡ぐ、消費者と生産者の新たな関係性
- #5【イベント】コンポストとCSAが実現する、都市ならではの循環型ライフスタイル
サステナブルメディア「ELEMINIST」とのコラボレーション連動企画
本特集は、サステナブルな暮らしをガイドするメディア「ELEMINIST(エレミニスト)」と「IDEAS FOR GOOD」によるコラボレーション連動企画です。
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【参照サイト】4Nature
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