子どもの肥満解消は、給食から。学校スタッフを「一流シェフ」にする“CHEFS IN SCHOOLS”

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イギリスの貧困が深刻な地域では3人に1人の子どもが太り過ぎや肥満で学校を離れている。経済的な余裕がない家庭ほど食事のカロリーが高く、栄養の偏った加工食品や菓子類を食べることが多くなり、結果的に肥満や、それを原因とした心身の病気に陥ってしまうことがあるのだ。

肥満の拡大には、給食の質が低いことも影響している。基本的に栄養バランスに配慮された給食が出される日本の学校とは違い、イギリスの場合、少なくとも6割の学校は法的な学校給食の栄養基準を守れておらず、そうした学校の子どもは肥満の割合が高くなってしまうという。

この現状を解決しようと、給食をつくる厨房スタッフにトレーニングを提供しているのがイギリスのNPO法人、CHEFS IN SCHOOLS。これまでにロンドンを中心に50校以上の学校給食を支援し、給食を通じて毎日2万人以上の子どもたちに栄養価の高い食事を提供、肥満防止をはかっている。

chefs in schools

Image via Chefs in Schools Website

CHEFS IN SCHOOLSが設立されたのは2014年。同法人を立ち上げたのは、政府に対し、学校給食を改革するための提案を行っていたヘンリー・ディンブルビーさん​、​と当時絶賛されていたレストラン「Nopi」のヘッドシェフ、ニコール・ピサーニさんだ​​。ピサーニさんは、より人とのつながりが感じられる仕事を求め、一大決心。有名レストランシェフから学校給食シェフに転職した。

その後、ピサーニさんは、公立の学校で、従来と変わらない予算で地元産や旬の食材、オーガニック食材を調達し、献立をつくり、調理することに成功。この経験から、限られた予算で栄養価のある給食がつくれるノウハウを広く伝えていくことになった。

CHEFS IN SCHOOLSでは、シェフが学校に直接出向き、給食をつくるチームにトレーニングを行うプログラムを実施している。トレーニングを受けた“シェフ”たちがつくったメニューは、栄養はもちろん、盛り付けも美しく、給食とは思えない出来栄えだ。子どもたちが食に関心を持ってくれるよう見栄えも重要視しているという。トレーニング後もシェフ同士で相談しあうネットワークに入ることができる点も心強い。

 

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また、特に肥満の影響が深刻な地域の給食をつくるシェフを対象に、栄養、分量、学校給食の基準​​について教える無料のオンラインコースも立ち上げた。シェフ自身にスキルアップをしてもらうことによって子どもたちの健康改善をしようという試みで今後、資格化していくことを検討している。この他にも、ピサーニさんのように学校給食のシェフに転向したい人と学校をつなぐ取り組みも行っている。思いのあるシェフが給食現場に増えれば、給食の質も変わっていくだろう。

学校主体で参加できる仕組みもある。まず、趣旨に賛同する学校は、できる限り地元の新鮮で、旬の素材を使うことや給食スタッフの最低賃金確保などを約束する「学校給食憲章」に署名。次に、どうすれば給食を改善できるかを示した公的なガイダンスを元に、取り組みを実行する。

ガイダンスは学校の校長先生向けにつくられており、厨房スタッフと協力しながら、甘いものや炭水化物の多い食事ではなく、いかに栄養価の高いランチを提供していくか、また低所得者への給食費の配慮、地元の生産者や飲食店、子どもたちの家族も巻き込んだ食の改革へのヒントが列挙してあり、わからないことがあれば再びCHEFS IN SCHOOLSに支援を求めることもできる。

シェフの役割は単にお腹を満たす給食をつくることにとどまらない。日々のランチづくりは、未来ある子どもたちの健康な身体づくりにかかわる重要な仕事だ。また、ランチを通して、子どもたちが健康や環境などさまざまなことを学ぶことを考えれば、いわば生きた教材をつくる先生ともいえるだろう。

世界を見渡せば、子どもの肥満は深刻化している。「世界子供白書2019」によると、5歳から19歳までの子どもの過体重の割合は、2000年から2016年の間に10人に1人から5人に1人と、2倍になったという。イギリスの例をみると、子どもの肥満問題解決に給食をつくるシェフが果たす役割は大きく、CHEFS IN SCHOOLSの取り組みは今後世界的にも注目をされるのではないだろうか。

【参照サイト】CHEFS IN SCHOOLS
Edited by Kimika

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