外部から脅威がもたらされても適応・回復できる、レジリエントな美術館とはどういうものだろうか。
※ レジリエントとは、ショックを吸収し、自身を変革しながら新しい状況に適応し、将来のショックやストレスに備える能力を持っている状態のこと。
脅威は地震、風水害、火災など様々で、来館者や職員、作品を守るには、有事に備えた危機管理が欠かせない。日本でも、2019年10月の台風19号の影響で、川崎市市民ミュージアムの収蔵品23万点が被害を受けたという事例がある。
気候変動の影響で台風の出現頻度は増加すると予測されており、今後他の場所で同じような被害が発生する可能性もある。建物を取り巻くリスクに敏感であることが大切だ。
2022年1月に、オーストラリアのショールヘイブン市にオープンした美術館「Bundanon」は、気候変動下におけるレジリエントな建築を追求しているという。500平方メートルの広さを誇り、4千点もの作品を収蔵する同館は、どのような気候変動対策をしているのだろうか。
まず目を引くのは美術館と隣接した、長さ160メートル、幅9メートルもの橋だ。宿泊施設やカフェなども備えている巨大な橋は、高床式の構造になっており、洪水時の建築物内への浸水を防止。美術館と橋は、過去に洪水で被害を受けた場所より高い位置に建てられているという。
橋の下を流れた雨水は、すべて下水道に流れるのではなく、一部は建物や敷地で蓄える。Bundanonでは300キロリットルの雨水を蓄えることができ、下水道の負荷を低減するとともに水資源の有効利用に努めている。
美術館のほうはどうだろうか。同館では作品を全て地下に展示・収蔵しており、気候条件の変化の影響を受けにくくしているという。一般的に、地下は地上と比べて温湿度管理がしやすいという利点がある。
ただ、作品を地上に置くか地下に置くかをめぐっては様々な意見があり、「水害への対応としては、地下に収蔵庫を設置しないほうがいい」という指摘もある。
先述した川崎市市民ミュージアムの件も、地下にある収蔵庫が浸水して被害を受けた。施設の地理的状況、建物の特性などを踏まえた判断が求められるだろう。
Bundanonは気候変動に備えるだけでなく、施設で使用する電力を太陽光発電で賄い、ネット・ゼロ・エネルギーの施設になることを目指すなど、気候変動を抑えることにも力を入れている。同館に訪れると、気候変動対策は「緩和」と「適応」の二本柱であることを深く理解できそうだ。