世界経済フォーラムの年次総会「ダボス会議」でも議論されていた、世界的な食糧危機の高まり。「世界の食料安全保障と栄養の現状報告」の2021年度版によると、2020年の世界の飢餓は劇的に悪化している。世界の飢餓人口は新型コロナ感染が世界的に拡大する前の2014年から穏やかな増加傾向が続いていたが、2020年には世界人口の約10分の1にあたる8億1,100万人が飢餓や栄養不足に苦しんでいる。(※1)。
この現状にさらに拍車をかけているのがロシアによるウクライナ侵攻だ。国連の世界食糧計画(WFP)によると、ウクライナとロシアは世界の小麦供給の30%、トウモロコシの20%、ヒマワリ種子油の75%~80%を生産している。この両国からの食糧輸出が激減してしまったことで、供給量が不足し、世界の食糧価格が更に高騰しているのだ。
WFPのビーズリー事務局長は2022年3月29日、「第2次世界大戦以来、目にしたことのない」大惨事を地域の農業と世界の食糧・穀物供給にもたらしていると警告した。食料や燃料、輸送費の高騰により、WFPの毎月の経費は7100万ドル増加するという。これは1年で総額8億5千万ドルになり、「WFPが支援できる人数が400万人減る」と推定しており、今後更に格差が拡大することを示唆している。
また、中国政府が始めた「ゼロコロナ政策」もジリジリと世界経済のリスクとなり始めている。中国上海ではロックダウン(都市封鎖)など強い規制を導入したことで、物流が滞り中国内での食糧不足が深刻化している。加えて今年の3月には小麦の生産量が世界第3位のインドを記録的な熱波が襲い、小麦の収穫量が大幅に減少。同国では小麦の輸出制限が課せられている。(※2)
世界に目を向けると食料不足や、飢餓で苦しむ人々がいる中、日本ではまだ食べられるのに廃棄される食品、いわゆる「食品ロス」が570万トンあると言われている。(※3)これは、WFPによる世界全体の食料援助量(2020年で年間約420万トン)の1.4倍に相当する。世界的な食糧危機が迫る中、フードシステムのアンバランスを解決する私たち一人ひとりが今すぐできるアクションは何だろうか。本記事では、国内外の取り組みを紹介していく。
フードシステムのアンバランスを解決するアイデア
1. 自分の身近にある食品ロスを見直す
買い物前に冷蔵庫のチェックをすることで、残っている食材を再度買ってしまうことを防ぐことができ、買いすぎを防ぐことができる。また、購入後すぐ食べる予定があるときは、期限の近いものから積極的に購入する「てまえどり」を心がけることで、企業も廃棄するものを減らすことができる。
調理時も冷蔵庫を見渡し、まずは期限の迫っているものを先に使うように心がける。また、食べ切れる分だけを作るようにすることで、食材の廃棄を防ぐことができる。野菜や果物の皮のカットもできるだけ皮が厚くなりすぎないようにするなどの工夫も大切だ。
食材にあった正しい保存方法で、長持ちする方法を選ぶ。冷蔵庫に入れるときは、手前に期限が近いものをおき、使い忘れないようにする。また、定期的に冷蔵庫の整理をすることも有効だ。
2. 寄付やボランティアをする
国連WFPは、現金支給と食料支援を通じて、450万人に支援が届くよう活動を拡大。ウクライナ政府からの要請を受け、ウクライナ国内、また近隣諸国へ避難している人々へ緊急の食料支援を行っている。
日本初のフードバンクであるセカンドハーベスト・ジャパン。フードセーフティネットとなる食品の受け渡し場所となる「フードパントリー」を築き、東京都内で10万人に対して生活を支えるのに十分な食べ物を渡すことを目標とした「10万人プロジェクト」を行っている。食品の寄贈だけでなく、食品の引き取り、配達、パントリーパッケージの梱包などを行うボランティアも募集している。
家庭や企業、お店などで余っている食品を寄付し、食品を必要としている人へ届ける活動を行う。寄付された食品は、「グッドごはん」を通して生活に困窮しているひとり親家庭へ届けられる。
家庭内で余った食品をファミリーマート店舗で受付け、地域の必要な人々に届けるシステム。2022年5月現在、全国39都道府県1,370店舗で実施されている。1年間で日本人平均食事量の約36,000食分の量である19.6トンの食品が集まっている。
3.食品ロスを減らすテクノロジー・フードシェアリングを使う
食品ロス問題や食料不足を解決するために、多くの企業がテクノロジーによる解決策を提案している。ここでは、日本から世界まで9つの事例を紹介する。
季節ものパッケージなどの関係で食品ロスになる可能性のある商品を、食品ロス削減への賛同メーカーより協賛価格で提供を受けて販売するショッピングサイト。そしてその利益の一部をNPOなどの社会貢献団体に寄付する仕組みとなっている。日本サービス大賞農林水産大臣賞を始め、数多くの賞を受賞している。
コンビニや小売店などで販売されている季節限定パッケージや販売期限などの理由で、まだ食べることができるのに廃棄されていた食品ロスを減らすクーポンアプリ。購入金額の一部は、特定非営利活動法人TABLE FOR TWO Internationalを通して、アフリカやアジアの子ども達の給食費として寄付される仕組みとなっている。
品質には問題がないが賞味期限間近やパッケージ変更によって流通させにくく廃棄されていた食品をお得に購入することができるサイト。売上の一部は、購入者自身が選んだ社会貢献活動団体に寄付される。
食品ロス削減をテーマに、飲食店等で予約キャンセルや来客数低下のため余ってしまった食材をTABETEのプラットフォーム上で販売するフードシェアリングサービス。登録ユーザー数は50万人を超える、国内最大級の食品ロス削減サービスとなっている。
味は問題なくても形が不揃いな野菜や果物、未利用魚、そしてコロナ禍で販売先が見つからない・賞味期限が短かいなどの加工食品をお得に購入できるフードシェアリングサービス。会員登録は無料。
売れ残った商品や見た目が悪くなった食材を販売している、2015年に設立されたサンフランシスコ発のスタートアップ企業。設立当初は規格外野菜の宅配サービスを行っていたが、現在は肉や乳製品、コーヒー豆など、カテゴリーも広がっている。
デンマーク発、廃棄寸前の売れ残った料理があるレストランをユーザーが探し、それを格安で買うことのできるサービス。
企業と個人だけでなく、近所の個人同士でも余剰食品をシェアできるフードシェアサービス。食品以外の家庭用品にも使用可能。アプリを開き、写真と説明、および商品をいつ受け渡し可能化を入力するのみのシンプルな仕組みだ。
独自のセンサーがサプライチェーン全体のデータを収集し、農産物の成熟時期を正確に予測することで販売時期を調整することが可能。これにより、農産物の廃棄を削減することができる。
食糧危機を「自分ごと」として考えてみる大切さ
食糧危機の問題は決して他人事ではない。ここ数年の日本の食料自給率は40%を下回っており、2020年度は37%となっている。半数以上を海外からの輸入に頼っているということは、国際情勢次第では食料の価格高騰や輸入ができなくなるなど、私たちの生活にも直接影響を受けることになる。
普段の行動を少し見直したり、食品ロスを減らす新しいサービスを試してみたり、応援したい団体に寄付をしてみたりと、できることからチャレンジしてみてはどうだろうか。私たちの行動が社会に及ぼす力は、思っている以上に大きいはずだ。一人ひとりができることは何なのか、本記事が食料問題について考えるきっかけになればと思う。
※1 The State of Food Security and Nutrition in the World 2021
※2 Double whammy for wheat growers! Early summers, heat wave conditions shrivel grain & reduce yield
※3 食品ロス量が前年度より30万トン減少しました /農林水産省
【参照サイト】Situation Report – Ukraine/ WFP
【参照サイト】ウクライナ戦争:食料とエネルギー価格の高騰が飢餓を助長し、より多くの国に影響が及ぶと国連WFPは警告/WFP
【参照サイト】The State of Food Security and Nutrition in the World 2021/FAO, IFAD, UNICEF, WFP and WHO
【参照サイト】ロシア-ウクライナ紛争下での世界の食料安全保障の新しいシナリオ/国際連合食糧農業機関(FAO)
【参照サイト】China’s zero-Covid policy risks causing agricultural crisis and food shortages/Financial Times
【参照サイト】ウクライナ戦争:農地が戦場に―世界的な飢餓への影響に対する懸念/ WFP
【参照サイト】Why the world is hungry — and how to help /AXIOS
【参照サイト】食品ロスを減らすために、 私たちにできること /環境省
Edited by Erika Tomiyama