COP27の注目ワード。気候変動の「損失と損害」の責任を、デンマークが世界で初めて負う国家へ

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巨大台風や干ばつ、海面上昇の被害など、深刻化する気候変動の影響を大きく受けている途上国の人々。気候変動をどう緩和するかはもちろんのこと、すでに気候変動によって大きな損害を被っている人々を、先進国側がどのように支援するかは喫緊の課題だ。

そんななか、デンマークが途上国の「損失と損害」に対し、1億デンマーク・クローネ(約19億円)の資金拠出を確約するというビックニュースが飛び込んできた。このうち35パーセントにあたる3,500万デンマーク・クローネ(約6,64億円)は、途上国の環境保険プロジェクトに充てられ、残りはアフリカ・サヘル地域の「損失と損害」対策やNGOなどへ提供される。

「損失と損害」のテーマは、2022年11月にエジプトで開催されるCOP27(国連気候変動枠組条約第27回締約国会議)でもメインの議題にあがる。COP27直前の今、知っておきたいのが気候変動対策の3つのフェーズ、「緩和」「適応」「損害と損失」だ。

まず、第1のフェーズ「緩和」では、気候変動を抑制し和らげるのが目標である。ここでは、脱炭素化やネットゼロ達成などを目指すことになる。しかし、すでに気候変動による災害が起こりつつある、「途上国」を中心とした地域では、その影響にうまく適応する必要がある。これが第2のフェーズ、「適応」である。ここでは浸水への対策やインフラ整備などの予防策強化を目標とする。しかし、それでも避けられない被害が出ることがあり、これが第3のフェーズ、「損失と損害」となる。ここでは、被災地支援や被災者への生計手段の提供などが不可欠となる。

途上国においては、「適応」や「損失と損害」への対応が最重要課題だが、そこには膨大な資金が必要だ。歴史的に多くのCO2を排出してきた先進国は、自国の「緩和」策には多くの資金を投じてきたが、途上国の「適応」や「損失と損害」には十分に資金を拠出してこなかった。ここが、ここに途上国と先進国の大きな衝突のポイントとなっている。

こうしたなかで、国連加盟国として初めて「損失と損害」に資金を拠出するデンマークの動きは、「適応」ビジネスの拡大や民間資金の拠出といった期待も高める。環境問題の解決に取り組むにあたり、すべてのステークホルダーにとって公正かつ平等な方法により持続可能な社会への移行を目指す「Just Transition(公正な移行)」といった論点も含めて、世界で議論されるポイントとなることは間違いない。

2015年に採択されたパリ協定第7条では、「適応」に“すべての”締約国が取り組むべきと定め、8条では「損失と損害」に対する行動支援を強化すべきことが盛り込まれた。だが、先進国側は、気候変動の「責任」を問われることを回避し、途上国への資金拠出には抵抗してきた経緯がある。途上国vs先進国という対立構造を越えて、デンマークの環境戦略が新たなモデルとなるのか今後に注目したい。

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Edited by Erika Tomiyama

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