新型コロナウイルスの感染拡大は、医療、介護、保育など「ケア労働」に従事する人々の存在を浮き彫りにした。こうした労働者たちが「エッセンシャル・ワーカー」と呼ばれたように、私たちの日常はケア労働に大きく支えられており、これらなくして社会は成り立たない。今、その価値の大きさにやっと注目が集まってきたといえるだろう。
他方、家庭ではどうだろうか。家事、育児、介護などの「ケア労働」はなぜかあたりまえのように「無償で」行われている。そしてなかでも女性は、全労働時間の55パーセントを無償のケア労働に費やしているといわれる。それに対し、男性は19パーセントにとどまっており、家庭における女性の「無償のケア労働」が、社会を支えてきたと見ることもできる(※)。
ケア労働はこれまで、「女性ならば誰でもできる」という「女らしさ」と結び付けられ、さらには「価値の低いもの」とみなされてきたことにより、女性の搾取につながってきた。
それでは、ケアの現場をジェンダー平等に近づけるためにはどうすればよいのだろうか。今回は、南米・コロンビア発の先行事例をみていきたい。
「まちづくり」で解決をはかるコロンビア・ボゴタの「ケア・システム」
コロンビアの首都・ボゴタは、男性優位的な文化を持つ国として、長い間活発なフェミニスト運動が続いていた。その女性人口の30パーセントに当たる120万人が、なんと1日当たり平均10時間を無償のケア労働に割いているといわれている。彼女たちはケアに追われ、とりわけ教育を受ける機会を失い、低所得者層となるループに陥っているのだ。
2020年1月、そんなボゴタにクラウディア・ロペス女性市長が誕生した。ロペス市長はケアの3Rといわれる「承認」「削減」「再分配」を公約に掲げ、ボゴタのケアに従事する人々、ケアされる人々をまちづくりによって可視化し、支援する取り組みを開始した。それがボゴタの「ケア・システム」である。
ボゴタを徒歩30分圏内で日常に必要なサービスを受けることができるインフラを整える「30分間都市」にするという計画のもと、ボゴタの貧困エリアには現在10の「ケア・ブロック」が設置されている(2035年までに45のブロックを設置予定)。
これらのケア・ブロックにはさまざまな公的サービスが集約されている。たとえば、保育サービスや託児所、法律相談に心理相談。高校教育に職業訓練、健康・運動講座や起業家講座まで用意されている。また、スイミングプール、ジム、パブリック・キッチンを備えたケア・ブロックもあるのだ。
公共サービスをひとつ屋根の下に集約することによって、ケアする人もされる人も同時に複数のサービスを受けられるようになった。これなら子どもを預けて、その間に職業訓練を受けることも簡単だ。ケア・ブロックは、貧困層や高齢者がアクセスしやすい場所にあるのも特徴である。
ケア・ブロックにアクセスしにくい周辺の低所得・貧困地帯の人々には、ケア・バスという大型バスによって教育や職業訓練などを提供している。さらに、ドアツードア・ケアという公的サービスを自宅に届ける試みもなされている。
ケアの価値に気づき、「私」の価値に気づく
このような取り組みによって、ボゴタではこれまで、ケアに従事する人々に13万件以上ものサービスを提供したという。「ケアリング・シティ」に向けて着実に成果を上げているといえよう。サービスを利用した女性は次のように語っている。
“このプログラムが私に与えてくれたものは、「名無し」の私から離れる方法です。もう自分を「透明人間」だとは思わない。エンパワーメントを感じます。”
ケアしあえるまちづくりによって、ケアの価値に気づき、自分自身の価値に気づく。そして、社会をより活性化させていく。コロンビアのケアリング・シティは、そんな素敵な循環のある街のあり方を教えてくれているのではないだろうか。ケアとまちづくりのよい関係に今後も注目していきたい。
※ WORLD ECONOMIC FORUM Global Gender Gap Report 2022
【参照サイト】Shaping Urban Futures
【参照サイト】三浦まり「ジェンダーギャップの解消に向けて ~労働とケア~」
【参照サイト】「誰もが住みやすいまち」のために、まず女性の声を聞く。『フェミニスト・シティ』著者を尋ねて【多元世界をめぐる】
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Edited by Erika Tomiyama