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ジェンダーとは・意味

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ジェンダーとは?

ジェンダー(Gender)とは、文化的・社会的に構築された性差の概念のこと。生まれつきの体の性、生物学的性別(Sex)とは区別される。

「女性」の身体を持つ人は「女性として」振る舞うことを、「男性」の身体を持つ人は「男性として」振る舞うことを社会から期待される。ジェンダーというのは、わかりやすく言うと「その性別として」どうやって生きていくべきかを、生まれ持った生物学的性別によって規定する概念だ。

いま、ジェンダー平等の実現・女性の可能性の拡大は、持続可能な開発目標(SDGs)として、全世界で最優先に取り組むべき課題のひとつに挙げられている。この問題の改善は、社会的弱者とされる女性にのみ恩恵をもたらすと思われがちだが、男性にとってもより良く、より生きやすい社会システムにつながる。

また、既存の社会構造は「女性」と「男性」というシスジェンダー・ヘテロセクシュアルを前提とした、二項対立的なジェンダーの考え方の上に成り立っているため、性的マイノリティを周縁化し、負担を増大させていることにも留意する必要がある。シスジェンダーとは・意味

ジェンダーステレオタイプ

ジェンダーステレオタイプとは、主に「女性」と「男性」というカテゴリーに属するメンバーの性質や行動傾向について、過度に一般化した認識のことである。このようなステレオタイプに沿って、「女性として」「男性として」とるべき行動や役割、反対にふさわしくない行動を基準化したものをジェンダー規範といい、社会的不平等を正当化する役割を持つとされる。

例えば、「男性は、一家の大黒柱として稼がなければならない」というのもジェンダー規範である。他にも、服装、言葉遣い、職業選択、嗜好、家庭や職場での役割、考え方、あらゆる行動が、その社会の作り上げてきたジェンダーステレオタイプによって規範化されている。

ジェンダー規範から逸脱した行動を取ると、周囲からの否定的な反応である「バックラッシュ」という現象が生じる。この現象が、そのジェンダーの枠組みを維持し強化する一因となっている。

社会と共同体に広く深く浸透しているジェンダー規範の影響を認識することは難しい。なぜなら、人は常に「その性別として」取るべき行動を、その妥当性を批判的に吟味できない幼少期から観察しているからである。

ジェンダー規範の問題点は、個人としてではなく属性の枠内で個人を捉え、個人の嗜好や特性を周縁化・矮小化し、その集団の一員としてあるべき姿を期待し、その期待に沿わない行動を諌めることによって、個人のポテンシャルを制限してしまうことである。これはジェンダーだけでなく、「人種」や「出身地域」など、人を特定の性質によって分類する、あらゆる枠組みにも起こりうる問題である。

なぜステレオタイプは起こるのか

なぜ人は枠組みの中で物事を考えるのか。危機管理能力として、人は次に何が起こるかを予測し、効率的に行動を起こそうとする。そのために、特定の属性に沿ったステレオタイプを形成する傾向がある。

例えば、幼い子どもは突然道路に飛び出したり、熱いものに触れたり、触ったものを口にしてしまうなど、予期せぬことをするという認識があれば、ある状況を素早く判断して行動を起こすことができ、子どもが危険なことをする前に未然に防ぐことが可能になる。

このように、ステレオタイプは人々がより効率的に情報を処理するのに役立つ場合もある。ステレオタイプ化それ自体は一概に悪いことではなく、そもそも避けられないものだろう。一方で、ステレオタイプはいとも簡単に悪用される可能性がある。

ある集団に対する差別を正当化するために、意図的であれ無意識的であれ、すでに構築されたイメージを利用することは容易だからだ。残念ながら、ジェンダーステレオタイプもそのひとつだ。「女性らしさ」「男性らしさ」というステレオタイプによって、個人の行動範囲は積極的に制限され、差別的な体制が構築されてきた。

ジェンダー規範によるダブルスタンダード

「男性として」「女性として」どのように振る舞うべきかを規定されているために、物理的には女性と男性が全く同じ言動をしているにもかかわらず、周囲からの評価にズレが生じる価値基準を、ジェンダー規範によるダブルスタンダードと呼ぶ。

例えば、ある広告で紹介したように、周囲にテキパキと指示を出し、皆を引っ張ってリーダーシップを発揮する男性は「自信に満ちていて積極的(assertive)」と評価される。しかし、同じ特性を持つ女性は「偉そう、威張りたがり(bossy)」とネガティブに形容される傾向がある。

また、意志が固くやる気のある男性が「野心的、意欲的だ(Ambitious)」と称されるが、同じ特徴を持つ女性は「でしゃばりで生意気、厚かましく強引(Pushy)」とレッテルを貼られる。そして、男性が「情熱的(Passionate)」と褒められるのに対し、女性は「ヒステリーを起こした(Hysterical)」と非難されたり、性的に積極的な男性が「遊び人(Players)」と呼ばれるのに対し、女性は「尻軽女、売春婦(Sluts)」と中傷されることもある。

このように、性差別的な認識は言葉を通して表現されることも多い。言語論的転回(Linguistic turn)が、言語が人の知覚を規定する可能性を示唆したように、実際に使用される言葉を変えることで、認識を変え、行動の変化につなげることができるのではないか。そして最終的には社会全体の構造を変える力にもなるだろう。

ジェンダー規範がキャリア選択に与える影響

日本国憲法に謳われているように、職業選択の自由は保障されていると一般的には考えられているかもしれない。だとすれば、なぜ職業や社会的地位によってこれほど顕著な男女差があるのだろうか。世界経済フォーラムが発表した2023年度のジェンダーギャップ指数で、日本は146か国中125位と世界最低レベルである。特に政治参画スコアは146か国中138位、経済参画スコアは123位である。

歴代で女性首相が一人も誕生せず、政治家の女性比率は1割、上場企業の女性役員は1割にも満たないのはなぜか。これらの顕著なズレは、すべて生物学的特徴によって正当化され、一般化されるのだろうか?

女性が「女性らしくない」、男性が「男性らしくない」キャリアを選択し、昇進し、社会的地位を得るためには、乗り越えなければならない障害が数多くある。ユニセフによれば、特に女性は生涯を通じて不釣り合いな負担を強いられるという。

  • ジェンダー規範から「外れた」目標を設定すること自体が難しい。また、周囲からのバックラッシュもやる気や自信の喪失に繋がり、無意識のうちに規範に沿った選択をするようになることも多い。例えば、看護師を目指す男性が反発や偏見を受け、結局は周囲に受け入れられるような「男性的」な職業を選ぶこともあるようだ。
  • ジェンダー役割をこなす中で、時間的にも物理的にキャリアを諦めざるを得ない場合もある。例えば、働きたい女性が子育てのためにキャリアを諦めなければならないことは一般化されている。また、育児休暇を女性にしか与えない企業もまだ多いようだ。これでは、育児は女性の役割だと宣言しているに等しいだろう。
  • 性別を理由とする障壁の存在により、特定のキャリア選択を避ける場合がある。例えば、内閣府の調査によると、女性議員の60%が、他の議員や有権者からセクハラや性的差別を受けたことがあると答えている。性差別やセクハラが存在するだろうと思われるコミュニティに、なんの躊躇もなく自発的に参加することはできるだろうか?

「女性が働きたければ働けばいいし、主婦になりたければ主婦になればいい」と言うのは簡単だが、こうした障害や規範が取り除かれ、システムレベルで社会構造が整ってはじめて、「本当の選択」が可能になるのではないか。

生物学的性質とキャリア適性

ジェンダーの議論において「昔は、男は狩りに出かけ、女は家を守っていた。だから男が外で働き、女が家事育児をすることは自然なことだ」というクリシェが存在する。つまり、比較的体力が優れている男性の方が力仕事に向いているということだ。したがって、消防士、建設作業員、自衛隊など、体力が必要な職業に就くのは統計的に男性が多いのは合理的だと言えるだろう。

しかし、例えば客室乗務員や保育士といった体力勝負の職業はどうだろうか。気候変化や時差への適応、過酷なスケジュール、長時間子どもを背負ったり、重い荷物を運んだりすること、体力の尽きない子どもたちの面倒を見ることなど、体力がなければ務まらない仕事である。しかし、これらの職業は圧倒的に女性が多い。

また、個人の志向、得意なこと、好みをも、ジェンダーによって割り当てられることが多い。例えば、「女性は料理が得意だから主婦に向いている」と一般化されているようだ。では、なぜプロの料理人には男性が圧倒的に多いのだろうか。家事や育児の得意不得意は、生まれ持った性質でなく、知識と経験で決まると考えた方が理にかなっているだろう。

このような矛盾が存在するにもかかわらず、ジェンダー規範の幻想は今日でも正当なものとして認識され、永続している。女性だから、男性だからと特定の職業や専門性を規定することには限界があるだろう。

「らしさ」が男性にもたらす弊害

これまでは主に、ジェンダー概念が女性に及ぼす悪影響について探ってきたが、「らしさ」によって害を受けるのは女性だけではない。「有害な男らしさ(Toxic Masculinity)」は男らしいとされる行動規範の中で特に有害なものを言及しているが、周囲の人々だけでなく、男性自身にとっても有害である。

例えば、「男はタフでなければならない」、「男なら泣くな」、「一家の大黒柱として働かなければならない」といった考え方は、男性がプレッシャーを感じたり、悲しみや苦しみを抱えたときに感情を表に出すこと抑制するように働く。

その結果、悩みを周囲に相談したり助けを求めたりすることが妨げられ、社会的な孤立やメンタルヘルス上の問題につながる可能性があり、これを男性の自殺率の高さと関連づける研究も存在する。また、ジェンダーバイアスによって、男性の性的被害が冗談として受け取られたり、被害が軽視されたりすることも多く、深刻な問題を引き起こしている。

まとめ

現在の私たちの行動や組織的慣習のすべてが、生物学的な性差の影響を全く受けず、ジェンダーのみに基づいて定義され、構築されているというわけではないだろう。しかし、ジェンダーの概念がシステムレベルで広く根強い影響力を持ち続けていることは明らかであり、これを軽視してはいけない。

この目に見えない力を認識しようとする姿勢が重要である。そうすることで、個人の選択を理不尽に制限する可能性を減らし、各人が枠にとらわれず、自らの能力、嗜好、選択に従って自分のポテンシャルを最大限に発揮できる社会の構築につながるだろう。既存の制度や規範を鵜呑みにせず、その理由を問い続けることが必要なのだ。

【参照サイト】与那嶺 涼子 「性差:ジェンダーとセックスの違い」 内閣府
【参照サイト】日本財団ジャーナル 「面倒な国民が政治を変える?議員の『男女平等』を実現するヒントを専門家に聞いた」
【参照サイト】男女共同参画局 「上場企業の女性役員数の推移」
【参照サイト】NHK 「女性議員を追いつめる“選挙ハラスメント”の闇」
【参照サイト】朝日新聞デジタル 「【ジェンダーギャップ指数】日本、2023年は世界125位で過去最低 政治・経済改善せず」
【参照サイト】King, T.L., Shields, M., Sojo, V. et al. Expressions of masculinity and associations with suicidal ideation among young males. BMC Psychiatry 20, 228 (2020).
【参照サイト】Pohl, Stefanie L. Toxic masculinity is unsafe… for men
【参照サイト】Campos-Castillo, C., shuster, s.m., Groh, S.M. et al. Warning: Hegemonic Masculinity May Not Matter as Much as You Think for Confidant Patterns among Older Men. Sex Roles 83, 609–621 (2020).
【参照サイト】倉矢 匠 「日本における促進指向的及び抑制指向的ジェンダー規範」『 東洋大学大学院紀要』 53巻 (2016) : 107-124.
【参照サイト】UNICEF ‘Goal 5: Gender Equality, Achieve gender equality and empower all women and girls’
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